真央
明日菜の背を軽くおしたら、明日菜は村上に声をかけに言った。
けど、村上は明日菜に気かずに黄原とは話していた。黄原にうながされて、やっと明日菜をみてる。
さっき北熊本サービスエリアで、明日菜と一緒に帰る約束はしていたから、驚いてはなかったみたいだけど。
明日菜のムッとした表情から、たぶん、村上の言動が明日菜を振り回してるのかなあ?
って思う。明日菜が私に気づいて、少し怯んだ顔になったから、苦笑いする。
ーだいじょぶだよ?明日菜。
赤木でわかったよ?たぶん、これから先、私が誰かと同じくらい誰かを好きだって、自分より大切だって思うことはないよ?
きっと、そんな未来はこない。
ーほらお嬢?世界はこんなに手品にあふれてる。
ーだから、大丈夫だ。
ー世界はひろいんだ。
私の大好きな手品師たちは、いつも優しいけど、それでも、
ーさすが俺の娘だ。
あの言葉が耳から離れない。
肩にからかけたバックに入ってるお土産がなんか重たく感じる。
ーべつにパパだけにお土産じゃないけど。
ママや大好きな私の手品師にもあるけど。あの時のバレンタインチョコレートが美味しかったし。
同じ福岡で買ったけど、どうかな?
私の大好きな手品師たちは、焼酎が好きだけど、お酒やタバコなんかのお土産は買ってない。
ーまあ、そのうち、一緒にのもうな?お嬢。
においが苦手だよ?それともあのにおいがいつか、
ー美味しいと感じるのかなあ?
小さな頃の疑問を少しずつクリアーにしていくんだろか?
ー世界はひろいんだ?お嬢。
だけど、その広い世界は平和で恵まれた世界とも限らないよ?
ひねくれた私は思うけど、言わなかったけど、
ーほら、お嬢様?きれいで美味いぞ?
私の手品師たちは、たくさんの手品を私にくれて、
ー歯磨きしないと、地獄だぞ?
って一言を忘れなかった。
私の手品師がいる。私は小さく息をはいた。この頃の私には、もう結婚や恋愛は無理だってなんか思ってた。
まさか、あんな森の王者と一緒になるなんて思わなかった。自分よりも大切なものを手にして、
ーいずれ巣立ってく。
ー世界はひろいんだよ?お嬢。
いくつもの願いをこめて、ただ守りたいと、願ってくれて、
ーもう見たくないんだ。嫌なんだ。
そう嘆きながらも、
ー立ち止まるわけには、いかなかった。無我夢中だった。残された意味を考えるようになったのは、あとからたい。
もう歴史は都合よく塗り替えられていく。だから、戦争は繰り返してく。
…もう仕方ないとおもいながら、それでも。
ーまだ生きてる。
紛れもなく、生の声だよ?
この日本で。まだまだ苦しんでる。
けど、たくさんの痛みや苦しみの方向が違う世界になったなら、
ーほら?お嬢?世界は不思議にあふれてる。美味いぞ?
だけど、歯磨き大事だぞ?
って手品師たちは笑うんだ。
もうすぐまた、あの季節が来る。
ーわしらが築いたこの日本を、1から作ったこの国で、かえりたいと願って海に沈み、空っぽのお墓をたてて、
死んだって、一緒の墓にすら、おらんとに、ね。
ぼつりとつぶやいたその小さな背に。虫の声がうるさかった。
…いまの子は大変じゃなあ。
あきれたように首をふりながら、
もっとゆっくりしても良かろうもん。なぜに自ら苦しまなきゃいけんとね?
せっかくこげなよか時代になったとに。
あきれながら言ってた言葉の意味を、
…いつかわかる日がくるのかな?
きっと、無理だよ?いまの子たちは、繊細で、
ーもう時代がかわるんだ。
ぎゅっとお土産の入ったカバンをにぎりながら、視界の片隅にはいる明日菜に、
ーもうあんな明日菜は見たくない。
そう思うけど、
明日菜が動いて、いま予想外に村上と帰ってく。
その光景に、
…世界は不思議なトリックにあふれていて、たぶん、不思議は不思議なままでもいいのかもしれない。
ー優しいゆめをみれるなら。
イレギュラーはたしかに?だね?明日菜。




