帰り 明日菜 ①
ー迎えにいくね?
とお母さんからメッセージがきていたけど、私は友達と帰るって返したら、
ー明日菜に友達⁈
って、わりと失礼なメッセージがかえってきた。まあ、私には休日とかに遊びに行くほどの友達はいないし、できれば家にいたい。
とくに何をするでもないけど。お姉ちゃんのイタズラに振り回されて終わるけど。
ーそれに私に対する嫌がらせをお母さんは知ってる。
あれをイジメと呼ぶのかは、わからないけど。
お姉ちゃんは、
ー嫉妬だよ?嫉妬。ただの嫉妬や妬みだよ?自分に自信ないからやるんだ。それかよほど自分が特別だって勘違いしてるかだよ?
いちばん怒ってくれるけど、基本的には流してる。いきすぎた時はなんだかなあ、だけど。
ー日常生活すぎて、ため息しかないんだ。
だけど、確かにあの日、真冬の屋上で私が考えたことは…。
私を大切にしてくれる人たちを悲しませただろうけど。
ー悪いことだとも思えない。
リアルはリセットして、リスタート、なんてできないけど。
「明日菜?」
となりで真央が少しだけ心配そうな顔をした。私は軽く息をはきだす。
注射やなんか痛いことしなきゃいけないとき、
ー身体の力をぬいて。
無理だよ?痛いでしょ?だけど、できるだけ深呼吸する。
ため息とか、そんな感じなのかなあ。
ー大丈夫。柴原真央って子となかよくなったんだ。あの和菓子屋さんの。
嘘じゃないし?って返信だけした。
学校にもうすぐ、バスがつく。
ー村上くんのバスはもうついたかなあ?
いまから、彼と2人きりで帰るの?
ー次はカ行とかないよね?
あのヘンテコな会話を思い出して、「か」?ってしりとりみたいに思う自分にため息がまたでそうになる。
実際に村上くんと話したのは、昨日がはじめてで、その顔さえ、昨日はじめてみたのに、
ー当日に、仮とはいえ彼氏になって、
そして、私が東京に行く夏には別れる。
…なぜか彼氏ができて、東京行きが決まった修学旅行。
ー彼氏がいてもいいのなら?
あのひとことがなかったら、きっと村上くんとは、話すこともなく、東京に行くこともなく、私はどうしたんだろ?
ー南九州の自然豊かなこの場所が、私の生まれ育った大切なのは、そうだけど。
ーもうあんな神城さんを見るのは嫌なんだ。
ーもうあんな明日菜は見たくない。
村上くんも真央も、私が東京にいくことをのぞんでる。
ー私なら守れる。
ほんとうに?
あの加納さんは、私をあの真冬の屋上から、守ってくれるのかな?
助けてくれたのはー。
「なに?明日菜?」
「うん。ただ、ありがとう?真央」
めずらしく本気でキョトンとしてる真央と、
ー村上春馬くん。
あの日の凍てついた寒さと、アスファルトに感じた靴下越しの熱を和らげてくれた、あの不思議な犬が持ってきてくれたクロックス。
雨の日になるとそっと現れるホタル傘。
すべてが鮮やかに私の記憶に蘇りながら、
ー蘇るけど。
真夏になるかけてる太陽の陽射し。
バスを降りたら、むわっとした暑さが身体をつつむ。つよく土のにおいがするグランド。
練習した演劇の体育館。
あの日の屋上も、すべて、
ーほんとうにサヨナラするの?
って、思ったんだ。