北熊本 春馬 ②
トイレから出てきた神城と柴原に近づきながら、会話が聞こえる。
「飲み物、なんか買う?」
って、柴原が神城に話しかけてるけど、神城なんか顔があかくね?
そりゃあ、南九州に近づいてきたから、陽射しは強いけど、まさか、またひり飯まで、サラダばかりか?
ーもう森に生息したらどうだ?いや、野生でも目立ちそうだし、九州に熊はいないけど、野生動物はたくさんいるしなあ。
うちのラッシーは、絶対イノシシに負けるだろし?ニワトリにも負けそうだし?
きこえた会話から神城は、自販機でなにも買わなそうだったから、つい持ってたペットボトルを顔におしあてた。
「ううん、私はまだあるかー、きゃっ!」
神城の悲鳴に内心びびったけど、前回の梅ヶ枝餅の教訓で、
ー今度はちゃんと持ってたぞ?
また教師に怒られるのは、納得いかないぞ?さすがに。
どうせ今日も空は青空だし?やっぱり、水色と空色ってなにが違うんだ?
だけど、どっちも雨になるし?
…水って透明なんだっけか?
なぞじゃある。そんなどうでもいいことを考えながら、俺は神城に言った。
「サラダばかりだと身体壊すぞ?」
まあ、サラダだけでも、食べ方によるだろし?だいたい主食は植物からだし?
…稲や小麦って、植物だよな?
海藻は野菜か?いや、光合成するから、野菜だよな?いや、けど?いや、だけど、海藻は海藻。海草じゃないよな?
えっ?けど、ワカメとかゆでたら、みどりだし?いや、まて、バッタは、
ー昆虫。
イナゴって、何色だっけ?いや、あれは、
ー昆虫。
そういえば、ナガレタゴカエルは、なに食べるんだろ?カエルは虫を食うイメージあるけどなあ。
ー野菜どこいった?
「む、村上くん?」
神城がが驚いた顔で俺をみる。たしかに、背後から襲ったな?お化け屋敷の幽霊みたいに。
あれ、お化け屋敷ってわからずに入ったら、怖くないのか?
いやだぞ?いきなり話すの?ラッシーは、わふ!だぞ?
ちなみに、犬はわんわんだけじゃない。日本的に、うちのラッシーは、
ーわふっ。
けむくじゃらの、ふわふわだからか?
ーわふっ。
あいうえお作文は、次はカ行のはずだけど?って、首を傾げながら、俺は神城に言った。
なんでいきなり、マ行なんだろ?
「む?無防備だな?毎回、神城さん。いや、無双か?炭酸おとすと、大惨事だぞ?」
アスファルトだし?キャップや穴空いたら、スプリンクラー状態じゃね?
ベタベタなるぞ?どうすんの?
まあ、梅ヶ枝餅で俺も神城の反応を学習したけど。神城の隣で柴原が俺の言葉に、頷く。
「横にしてしばらく転がしても、わりとシュワシュワなるよね?」
横にして、全体的に、また混ざる?ようにしたらいいのかと、コロコロしてみるのは、子供ならやるだろう?あれ、けど、わりと根気いる。
それより簡単なのは、
「結果的に、キャップをちょっとだけ開け閉めして、泡が出ないギリギリ狙う羽目になるよな」
プシュてなってすぐにモコモコなるけど、まだ余裕あるギリギリでキャップしめて、また開けて、閉めてを、じわじわ繰り返した方が、コロコロより確実ではやい。
「わかるわかる。失敗したら、わりとめげるよね?」
ただ、柴原が言う通り、ギリギリだから、敗北感もかなりあるけど。
柴原とふたりで、落とした炭酸ペットボトルの開け方をはなしていたら、ちょっと不満気な声がした。
「ーどうして?」
神城が声通り少し不満気に俺を睨んでくる。
ー相変わらず、睨まれてる俺。
あれ?俺がストーカーしてる相手って、
ーへび?
ウシガエルはともかく、ナガレタゴカエルは、喰われそうな気もしますが⁈
ストーカー返り討ちもたしかにあるよな?
いや、そもそも俺、ストーカーだっけ?
いや、ちゃんと、俺はストーカーだ。カエルは天敵の蛇をじっと観察してるはずだ。
ーいつでも逃げ出せるように。
頭の中で、さらにどうでもいい事を考えていたら、なぜか神城がひとつ息をついた。
じっと、きれいな黒い瞳が俺を見つめてくる。
ー神城の瞳って、ほんとうにミザールでみる時に、あの不思議な空間に浮かぶ宇宙みたいだな?
内心、首を傾げつつ。
「いや、黄原に、帰り神城さんを送って行くようにいわれたから、確認に?家族が迎えなら、必要ないかな?と」
だって、その場合、俺いらなくね?荷物あるし、車が楽だし、はやいし?
ー俺もラッシーにその分、はやくあえるし?
神城がため息をまたついた。あきれたように俺を見てくる。
「…私と一緒に帰りたいのか、帰りたくないのか、わからない質問のしかただね?」
「さすが村上、ぶれないね?」
柴原までなんかあきれてる。
ーぶれない?当たり前だ。いまのスマホ、手ぶれ機能すごいぞ?
俺のミザールの架台はブレブレだけど。あれは、年代だからだけど。
そういえば、反射望遠鏡ってどう作るんだっけ?
屈折式しかみてないな?
ぼんやりしてたら、俺の手から炭酸ジュースを柴原が手に取ろうとして、神城が慌ててとめた。
ーなんだ?
梅ヶ枝餅みたいに、落としてないぞ?シュワシュワならないはずだぞ?
「真央、それは私にくれたんだよ?」
そうだっけ?
「だって明日菜、炭酸飲まないでしょ?」
さっき、柴原、コーラー飲んだしなあ。炭酸上手にあけそうだし?
「あっ、そうなんだ。なら、柴原飲むか?」
柴原に持ってた炭酸渡して、サラダにも水はいるだろう?
「俺が飲もうと思ってたヤツだけど、いる?」
って、ミネラルウォーターを、神城に差し出すと、めずらしく素直に神城がうけとった。
海水じゃないけど、ミネラルあるし?だってさ?
「熊本といえば阿蘇だろ?阿蘇の水だぞ?そういえば、九州に熊はいないけど、くまモンはいる。職業 地方公務員。 体型 メタボ。初登場からしばらくは痩せていて、熊本の美味しいものを食べ過ぎて、メタボ体型になったらしい。そして、多趣味だぞ?日本さかな検定3級、将棋アマチュア初段、温泉ソムリエetc。すごいよな?」
おまけに、こっちが声かけたら、同じセリフを言って動くぬいぐるみまである。
いきなり笑い出して、ビックリした。じいちゃんが親父にしかけたイタズラが成功したときみたいた。
大抵の場合、親父に返り討ちされていた。あのときのじいちゃんのギャアギャアに似てるけど?
「ーって、あれ欲しいの?」
ビックリしたけど。たしかに、賑やかにはなるよな?
「ラッシーの隣にいたら、遊ぶかな?」
わふって小さい声に、ギャフ!って言ってきそう。
「怖がるんじゃない?」
あの子、おっとりしてみえたし?って神城があきれた顔のまま、つぶやいて、
ーそういや、ラッシーにあの変な味の飴玉くれたけど、犬に飴玉っていいのか?
って思ったけど、柴原が、
「サッカー検定6級ってなんだろ?人吉球磨検定3級って、なんだろ?」
って不思議なことをいいだした。いまから八代ー人吉間のあのトンネル地獄なるけど?
有名なのは、
「球磨川急流下りとか?」
「ああ、あれかあ。涼しいのか、暑いのか?よくわからない系の遊び?」
「さあ?俺たちの地元よりは涼しいんじゃないか?福岡とは、やっぱり陽射しが違うよなあ?あっ、そろそろ戻らないと。神城さん、帰りどうする?」
やばい、話すぎた。
「えっ?」
「家族は、迎えにくる?」
「ううん。村上くんと一緒に帰るよ?」
えっ?帰るのか?
まあ、迎えに来ない奴らもたしかにたくさんいるよな。中学生だし。
「わかった。なら、解散したら、迎え行くから」
黄原に言われたし?俺はなんか部活の癖でつい頭をさげて神城と柴原にせをむけた。
俺たちの様子をはなれた場所から見てる黄原に、ペットボトルをわたす。
「うまくいったか?」
「さあ?とりあえず野菜には、水だよな?」
阿蘇の水うまいし?
「そっちじゃねーよ⁈」
黄原が言って、
「えっ?炭酸わたすのか?」
ビックリした俺に、
「ーほんとぶれないな?おまえ」
黄原がため息ついた。
ースマホが優秀なだけじゃね?
ミザールで天体写真撮れないぞ?というか、反射望遠鏡ってどう作るんだっけ?
って思った。いつかは条件反射のように、自然に神城と話せるように、なるのかなあ?