最終日 明日菜
バスは途中、北熊本サービスエリアでトイレ休憩のためにとまった。
「明日菜、一緒にいく?」
って真央が言ったけど、私は首をふる。あまりバスから降りたくない。
トイレは混雑するし、あと数時間だし?
「でも、高速だし行ける時に行った方がいいよ?」
それもそうかあ。私はうなずいた。お父さんも高速はこまめにガソリンをいれてる。
ー東京だとサービスエリアとかも大きいんだろなあ。
人吉ー八代間の23個のトンネルとか、あるのかなあ?
昔は球磨川沿いを走ってたってお父さんが言ってたけど。電車も川沿いにみえたかなあ。
高速が開通してから、あまり通らないって言ってた。
ー懐かしいなあ。
ってたまにテレビ番組みてお母さんと話してる。
「あっ、ほら、ちょうど村上たちのバスもとまったから、降りてくるかもだよ?帰りの約束しなよ?」
真央が指差した場所にたしかに村上くんのクラスのバスが駐車したけど、中から降りてきたのは、
ー赤木くん。
「ありゃ、まあ?」
真央が笑顔をひっこめた。赤木くんも真央をチラッとみて、舌打ちして、真央から視線をそらした。
真央がかるく息を吐き出す。
「明日菜、大丈夫?」
「えっ?」
それは、私が真央にかけるセリフだよね?
「ほら、昨日のあいつ最低だったでしょ?明日菜怖かったよね?大丈夫?怖くない?」
「…うん、大丈夫だよ?」
心配してくれた真央に笑ってしまう。
だって、赤木くんからおくれて、村上春馬くんも姿をみせたから。
私と真央に気づいて、少し驚いた顔をして、
ーべこり、と頭を下げる。
…私、彼女だけど?
「明日菜、顔が怖いよ?」
真央が苦笑いしてる。だって、彼女だよ?
そりゃあ、仮、だけど。
なんだか昨日から、ずーっと、私は村上くんに怒ってる気がする。
ーなんでこんなに、イライラするんだろ?
って、自分でも思う。ふつうにドキドキより、なんかイラッとしてる方が多い。
しかも、村上くんはそのまま、男子トイレに行ってしまった。
まわりの男の子たちの方が私を見てくる。
「ありゃ?村上らしいけど、まあ、村上らしいから、仕方ないかあ」
「ー私、彼女だよね?」
「明日菜が彼氏宣言して、村上は否定してないよね?」
真央がうんうん、頷いてるけど、なんか腑に落ちない。
ー事実だけど。
いや、そうなんだけど。
ーそのままだけど。
「ほらほら、明日菜。また顔が怖いよ?明日菜、やっぱり、短気すぎない?」
「だから、それを言うのは、真央と村上くんだけだよ?」
「彼氏なら名前でよんだら?村上竜生先輩もいるし?」
「必要ないよ?だって、私の彼氏の村上くんは、村上春馬くんだけだから」
ってムキになってしまって、
「やーん、かわいい!明日菜!」
「恋する明日菜、いいなあ」
「羨ましいぞ!」
いっせいに周りにいた子たちが反応して、
「ーこら!静かにしなさい!まわりの迷惑だから!」
って、担任から注意された。私の顔が熱をもつのがわかる。
「もう!真央がからかうからだよ?」
横目で真央を睨んだら、真央はカラカラと笑って形だけ、ごめんって手を合わせてきた。
「明日菜ってからかいがいがあるのよね。村上にもからかわれないようにね?」
「…からかう以前の問題だと思う」
また、あいうえお作文だったら、どうしよう。って思わなくもない。
私の頼りがいがあるストーカー、ナガレタゴカエルくんは、
ー鳴き声がへん、かもしれない。