3日目 明日菜 バス
行きと同じように、バスに乗った。私のとなりには、真央が座ってる。
チラッと村上くんのクラスのバスが見えたけど、村上くんは、こちらにまったく目をやらずに、バスに乗り込んだ。
ーなに?あれ?
もう少しくらい気にしてくれても良くない?私は彼女だよ?
って、ちょっとモヤモヤする。
「相変わらず片想いかな?明日菜の?」
「片想いなんか….」
してないって言いかけて、あわてて口をとじる。みんな私たちの会話を興味津々にきいてる。
ーとくに男子が。
「告白OKしてくれたから、もう彼氏だよ?」
ーかなり強引だけど、いちおう彼氏だ。
ーかなり、強引だけど。
仮彼だし。
「OKしてくれたよ?」
ちょっとだけスネたような声になる。
「私の彼氏だよ?村上春馬くん」
もう一度、繰り返した。さっきの村上くんの後輩人気をきいたからかも、だけど。
だって、後輩だけとは限らないよね?
顔は髪型かえたら、目立つくらいには、整ってるし、なにより、
ーやさしいストーカー。
ナガレタゴカエル。
そういえば、カエルの鳴き声にもいろんな鳴き声あるから、騒音じゃないカエルなら、問題おきないのかなあ?
ーカジカとか。
めちゃくちゃきれいな鳴き声だし?というか、セミはうるさいですむんでは?
たしかに南九州の片田舎育ちの私たちには、わからない感覚かも。
ーカエルが鳴いてない夜がないから。
雨の日の夜に、目の前をビヨーンビヨーンって飛んでて、さすがのお姉ちゃんも、
ーげっ。
ってつぶやいてる。
ウシガエルは大きい。カエルは雨降りの夜中に道にいる。というか、だいたい田んぼや森や川でゲロゲロしてる。
カエルの歌の合唱そのものだよね?
逆に大都会に私が行ったら、違う音に悩むのかなあ?
ー人の話す声とかきつそうだなあ。
内容より、人に酔いそう。そんな場所でほんとうに、私はやっていけるのかな?
ー返事しちゃってるけど。
もうあの人と東京に私は、いくんだろうけど。
ーあとどれくらいの時間を、私は村上くんと一緒にいれるんだろ?
「はいはい。明日菜って、けっこうヤキモチ焼きだよね?これじゃあ、村上も大変だ」
真央が演技じみた口調でため息をつく。しぶしぶ、私も頷いた。
「ーそうみたいだね?」
村上くんのそばにいれる理由をみつけたいま、私だけを見てほしいって、つい思っちゃう。
だから、知らないうちに、彼のクラスのバスを睨んでた。
「少しくらい、気にかけてくれてもいいのに?」
「赤木が急かしたんじゃないの?私は助かったけど?赤木と会いたくないし?」
「部活どうするの?真央?」
「とくに変わらないよ?しばらく傷心モードで、大人しくしとく、かも?だし」
「ーかも?」
「うん、かも、ね?」
あっさり言う真央の真意は、わからない。
だから、いちいちきくのは、やめた。
でもー。
「村上春馬くん、は、私の彼氏だよ?」
…後輩の子たちの予期せぬ情報でも、モヤモヤだけど。真央とは違う。
だって、真央は村上くんが話してる。
ー私より会話が多いってどうなの?村上くん。
よくわからない怒りが私をみたす。
ー真央よりずーっと私の方がみてたのに。そりゃあ、姿が見えないストーカーだけど。
ナガレタゴカエルの鳴き声が、カジカでもウシガエルでも、私には構わないよ?
だって、
ね?
ー私の大切な、
ストーカー、だよね?