3日目 春馬 バス
「ほら、春馬、やるよ?」
行きと同じく、となりに座った黄原が俺に小さなビニール袋をわたしてきた。
ドラッグストアーのロゴがある。中をみると口内炎のぬり薬が入ってた。
「ちょっと違うかもだけど、それなら口にしても大丈夫だし、ぬらないよりたぶんマシだろ?」
ーわざわざ買ったのか?
俺がズボンのポケットに手をやったら、
「ささやかだけど、神城とのカップル成立祝いだよ?黙ってうけとってろ?3月のおまえの誕生日もプレゼントしてねーし?」
「それは、俺もおまえの誕生日祝ってないぞ?」
「素直にうけとれよ?」
…兄貴みたいなこと言うよな?たまに、黄原って。
「ー俺はいいけど、御礼は、一応、言え。お前の場合、くせにしてろ?」
あきれた顔で黄原が言う。やっぱり、兄貴みたいだ。
「ーありがとう?」
「なんで疑問系だよ?まあ、いいけど」
「どこで手に入れたんだ?」
「いちおう俺は、旅行とかのストレスでなりやすいから、持ってきてただけだよ?俺はべつにいらないけど、母さんがうるさくてもたされた」
…俺、お礼の必要あるのは、黄原のおばさんでは?
「母さんに会うことがあったら、声かけてやれよ?お前いちおう母さんのうけいいしな。母さんイケメン好きだから」
「イケメン?」
綿花って、池だっけ?池なら蓮じゃないのか?
「うちのばあちゃんたちが言うには、お前のおばあさん、美人で有名だったらしいぞ?」
「そうなんだ。俺、あまりばあちゃんは知らないからなあ」
じいちゃんが大切にしてるのは、知ってるけど。
「不思議な雰囲気の人だったって言ってたな」
「ふーん」
「まあ、それからいうと、神城とおまえは、前も言ったけど、お似合いかもな?」
「どこから言うとそうなるんだ?」
「まあ、これから俺はただのギャラリー化しとく。神城送って帰るんだろ?」
…どこに?
って言っていいのか?彼氏ってなにするんだ⁈
黄原が俺をみて軽くため息つく。周囲をチラッとみて小声で言った。
「バカ。だから、神城の家までだよ?彼氏ってバレたんだから、堂々と神城のそばでガードできるだろ?今日は部活ないし?」
「家の方向が違うぞ?」
あの日は、ラッシーの散歩コース少し変えたし、俺はナガレタゴカエルだけど。
ーどうどうとガードって言ったって、
私なら守れる。
あの人には、敵わないだろ?どんなに願っても、
ーいますぐに大人になんかなれやしない。
どんなに守りたいって願っても、
ーどうすんだよ⁈
って思うんじゃないか?守りたいって願ってもさ、
ーじいちゃんは守れなかったんだよ?春馬。せめて先に逝きたかったんだ。
そうじいちゃんは言ってた。俺はばあちゃんを知らないけど。
ー失うくらいなら、いらない。近づかない気でいたんだ。
手に入れたいとかは、なかったんだ。
あのミザールで見上げる星はきれいだし、100きんの手作り望遠鏡だって、輝く。
だけど、絶対に手がとどかない。そうわかるからこそ、
ースターは輝くんだ。
まさか髭の配管工みたいに、ジャンプして頭を打ったら、レンガが壊れて、スターとクラッシュなんか思いもしないよな?
ーあれもタイムリミットあるよな?
無敵は有限らしい。よくできてんな、ゲームって。
俺は人生ゲームすらしないけどさ。ゲームって不思議だけどさ。
だって一人対、無限に天才なやつ相手だよな?機械に勝てる気がしない俺だけど。
そのうちにスマホがミザール軽く超えてくるんだろなあ。
もしそうなったら、紫外線とかあたったらダメな病気とかでも気象予報士とかを目指せるんだろうか。
生まれつき目の見え方が違っても、医師がいまなら言うんだ。
ー脳外科医とかは、無理かもだけど、医師自体は無理じゃない。いまはいろんな機械がたくさんあるから、可能性はひろがる。ただ夢の限定はいるだろうけど。
たくさんの科学や技術が、それを可能にしていくんだよ?春馬。
だけど、
ーじいちゃんは守れなかった、よ?
って、やりきれなさそうに笑ってた。もしもあと20年なら、その20年はきっと携帯からスマホに変わるくらい、たくさんの技術が発展していくなら、
ーAIでもなんでもいい、助けてくれるなら、なんだってありだ。
そのうちAIの神様論とかくるのかなあ?
ー霊感商法にひっかかりそうだよな、俺。
ラッシーになんかいまあったら、俺はもう、
ーすべてなげて、ラッシーに霊感商法かけそうだ。
いや、まて、ラッシーはいまは元気だ。
ーなんでラッシーと神城が重なってくんだよ?
ラッシーはずーっと俺のそばにいるぞ?俺がラッシーから離れることないぞ?
ー神城とは離れるけど。
「ー痛っ!」
また無意識に下唇を前歯で噛んで、痛みがはしる。
「だから、なにやってんだよ?お前は。ほら、ちゃんと化膿しないように薬ぬっとけよ?神城とキスするときにこまるだろ?」
「ラッシーが舐めるからいいよ?」
「ーツッコミどころ満載の返しだな?ラッシーに傷口舐めさせたら洗えよ?雑菌はいるぞ?」
「わかってる」
俺は素直に黄原がくれた薬を手にとった。この痛みもきっと夏までだ。