3日目 朝 明日菜
いつのまにか、眠ってた。自由行動の後だから、みんなまだ眠ってー、
は、ない。真央が窓際で朝陽を利用して本をよんでいた。
ブックカバーがされてるから、なんの本かは、わからないけど、真央はぼんやりと目線を落としてる。
「あれ?起きたの?明日菜。おはよう」
私に気づいて、小さな声で言って笑う。
「ーおはよう真央。真央はねてないの?」
「ううん、ちゃんとねたよ?ちょっと前に起きたんだけど、二度寝したら微妙な時間だったから」
そう肩をすくめる。その辺は優等生な真央らしいのかもしれない。昨日の朝もみんなを起こしてたよね?
「なんの本を読んでるの?」
「そばかすの少年って、外国の本だよ?昔のアメリカの話で、その時代がなんとなく感じるんだ」
「なんとなくなの?」
「うん。この話自体は、まあ、ラブストーリーなのかな。ハッピーエンドの」
ー御伽話みたいなラブストーリーだよ?
って真央は笑う。
「繰り返し読んじゃう本のひとつかなあ」
「繰り返し?」
「うん、繰り返し。ストーリーがわかってると、それがハッピーエンドなら、なおさら繰り返し読んじゃうんだ」
「バッドエンドは、ダメなの?」
「どうかなあ。悲恋や感動ストーリーとか、バッドエンドがあるけど、私は成功ストーリーの方が感動するかなあ?なんとなく、かな」
私はあまり本を繰り返し読むはないから、不思議だけど。そういえば、真央はあまり変化を望まないかもしれない。
「真央は東京に住みたいとか、思うの?」
ふと昨日の地下鉄を思い出して、きいた。テレビでみたことがある。東京にはいくつもの電車があるらしい。南九州の片田舎は車が主な移動手段だから、あまり想像がつかないけど。
ー福岡でさえ人酔いしそうなのに。あのテレビのように、たくさんの刺激にあふれた場所で私は生活できるのかなあ。
ー私なら守れる!
あの人、強そうだったなあ。
あんなふうな人ばかりだったら、どうしよう。ちょっとだけ、怖いなあ。
「ースカウトの話?」
真央が首を傾げる。
「スカウトはきちんと家族と話して決めるよ?たんに東京とか、大都会の話。だって、私は田舎の子だよ?馴染めるのかな?」
「それで言ったら、生粋の東京都民って、少ないんじゃないの?たくさんの人がたぶん、親やその前は、地方じゃないかなあ?」
「なじめるってこと?」
「ほんとうになじめなかったら、逃げ出してるんじゃないの?明日菜だって、ずっと東京にいるって決まってないんだし?」
「えっ?」
私はビックリして真央をみた。真央が逆に不思議そうに私を見る。
「どうしたの?驚いてるけど」
「うん。ビックリしたよ?私、ずっと東京に行く気でいたから」
「なんで?」
「なんとなく?」
ーいちど、南九州の片田舎から出たら、帰れない気がしたけど、そんなわけないよね?
そういえば、学校の先生たちも大学は違う場所だけど、故郷で就職してる。
お兄ちゃんが戻ってくる気がないから、って、みんながそうじゃないかあ。
そう思うと、少しだけ安心した気持ちになる。私は思ってる以上にわりとあの場所が好きらしい。
ー学校は微妙だけど。
でも、昨夜のカメラは優しい気持ちになったんだ。
ーきっと、バイバイだから。
そう思ってたけど、私の実家はあの場所だし、家族や真央も、
ー彼もいる。
私の脳裏に村上春馬くんと、ついでにあの変な犬も浮かぶ。もういちどくらい、あえるのかなあ?あの奇妙な愛嬌のある犬に。
「東京に住みたいとかは、ないかなあ?行きたい大学とか、仕事とかが東京にしかないなら、考えるかもだけど。いまは想像つかないかも」
真央が本をとじる。
「ネットが普及したから、いろんなものが買えるしね?わざわざ東京で、ってなると、その場所で体験できる事なのかなあ?」
「体験?」
「そう。買い物も限定ってなってもフリマなんかで、高額取引だろうし?もう体験だよね?五感でその時に感じられることだけじゃないかなあ?」
「ー美味しいものとか?」
「まあ、代表的なのは、喜怒哀楽につながるのかな?よくわからないけど、なんとなくかなあ。昔ほど、東京じゃないと。は、なくなってるんじゃない?ネットで買えるし」
「買い物だけ?」
「さあ?けど、便利だよね、ネット。明日菜はネットに疲れちゃったけど、うまく利用したら、地方には過疎化とめるチャンスになると思うよ?」
大都会の人数も減っていくだろうから、わからないけど。
なんかもう、いろんな意味で争奪戦なりそうだし?
「ー争奪戦?」
「まあ、一流選手ほど、メジャーリーグやヨーロッパのサッカーチームとか、いくよね?お金もあるけど、物足りなくなるんだろうね」
「争奪戦とは、違うんじゃ?」
「選ばれるために争奪戦、だよ?そうじゃなきゃ、育成しても、他に行っちゃうよ?職人長はそれでいいらしいけど、パパは苦い顔してる」
「職人長さんはいいの?」
「うん。私にも世界はひろいから、自由だよ?って言うけど、まだ、私にはよくわからない。いまはネットあるから、私の方が職人さんより、ほかの知識がある気もするんだ。経験ないのに、そう思ってしまう時があるんだ」
真央が肩をすくめる。
「だけど、うちの職人さんたちは、怒らずに、でも美味しいきれいな手品をみせてくれるんだ。何にも怒らずに、文句を言わずに、私に見せてくれるんだ」
笑って教えてくれるから、ただすごいんだ。楽しそうにしてくれて、教えてくれるから、尊敬できるんだ。
すごいんだ。
「明日菜もきっとそういう人になれるよ?明日菜に憧れて、夢をみる子たちがきっといるよ?」
「ー私にはムリだよ?」
「そうかな?けど、あのスカウトした人なら可能性があがるかもだよ?」
真央が笑って、私もつい、
「ーだね」
って、頷いた。なんかすごい迫力があったんだ。
ーやめなさい。
はっきり止めてくれたから。
あの人、本人の言葉だったから。
ネットじゃなくて、普通は、って言葉でもなくて、
ー本人の声だったから。
だから、つい納得して、私も笑ってた。