二日目 女子部屋 明日菜
部屋に戻ると、同室の子たちが、
ー増えてる。
「なんで、こんなに増えてんの?」
真央があきれた声で代弁してくれた。修学旅行の団体が泊まれるくらい、安いけど、すこし古びた大きな旅館。
布団を和室一面に敷いて、みんなでねてる。夜中にたまに女性の先生がみまわりに来るけど、あまり厳しく言わない。またみんなヒソヒソと話してた。
まだ、消灯前だけど、みんな本当なら、部屋にいる時間のはずだけど…。
「だって、明日菜の話をききたいんだよ?みんな。つきあってるの、村上竜生先輩じゃなく、弟の村上春馬くん、だよね?」
「あとスカウトされた話は、どうするの?」
「村上は、東京行くまでの男よけの仮カレ?」
ひとりの子の言葉に、ドキッとする。となりで、
「やっぱり、そうくるか…」
真央がぼそっと言う。やっぱり、って…。真央が首を傾げて言う。
「ー赤木たち?」
「うん、赤木くんや何人かの男子が、そうじゃないと、神城さんが村上くんを選ぶはずないって、みんなで騒いでてー」
「ちょっ!」
慌ててひとりが肘でその子をつつく。
「あっ、真央、ごめん」
話してたひとりがバツが悪そうに、真央を見るけど、でも、話をふったのは、その真央だよね?
真央は、首を傾げたまま、軽く笑ってる。
「大丈夫だよ?赤木のことは、もう自分の男を見る目がないって言うか、むしろ、赤木に悪いなって、思うし?」
「えっ?」
「なんで?」
私もふくめて、みんなが驚いたら、真央は肩をすくめた。
「だって、私たち部活が同じだからさ?部員たちが気まずくなるの嫌じゃない?つきあう前に、きちんとその辺を考えたら、よかったなあ、って」
「ああ、たしかに、ふたりとも同じバスケ部だよね?」
「気まずいよね。気を使いそう」
みんなが頷いてる。
「まあ、部内恋愛は、私と赤木だけだから、そう気まずくはならないようにするよ。他にも部内恋愛がいたら、男バスと話すから、気を使うけど、いまは、大丈夫かなあ?」
「真央なら、うまくやりそうだよね」
「赤木も反省しないだろうしね」
まわりが納得していく。真央は、また肩をすくめて、けど、少しだけ目を伏せた。
ー?
って、思ったらまた一瞬で、目をあげて、もういつもの真央だった。
「ーで、赤木やほかの男子が、明日菜と村上に、なんの噂を流してるの?」
「だから、明日菜と村上くんは、つきあってなくて、明日菜が転校するまでの仮カレって」
「赤木もみんなも、明日菜がスカウトされた時に一緒にいたよね?」
あきれた顔で班の子たちを真央がみる。私は見れなかったけど。
ーだって、仮カレは、あってる。
村上くんにしたら、歩きスマホみたいな当たり屋にあったドライバーだよね?
止まってるのに当たられて、
ー逃げていく。
…子供達の方がマナーいい。福岡はたくさんいたなあ。
歩きスマホは、素直に周囲から違う空間になるから、隙が色々できるって、お姉ちゃんにお兄ちゃんがうるさかった。
お兄ちゃん的に、お姉ちゃんが心配らしいし、きいたお姉ちゃんから、私に話がきたけど。
痴漢やスリやひったくり、とか?
ーあれだけたくさんの人がスマホしてたら、悲鳴あげても気づいてくれなさそうだけど。
とは、博多駅でも思ったかなあ。とは、言っても私が生まれて育ってきた時間分だけ考えても、もうスマホや携帯は日常生活に馴染んでる。
動画もみて育ってるし?ラジオなんか全国の民放がただできけるから、楽しいらしい。
いまは他県にいるお兄ちゃんは、南九州の片田舎のFM放送をたまに聴くらしい。
方言まるだしでラジオは話すから楽しい。
ー友達には英語の方がまだわかるって、言われたらしいけど。
私たちの地域は、高齢者になるほど、同じ日本なのに通じないらしい。
テレビが普及してるから、もう若い世代の感覚だと、使わなくなってる方言もあるのかなあ?
とは、思ったけど。
まだ他県暮らしがそう長くないお兄ちゃんは、南九州の片田舎の方言だけど。
ー明日菜は、方言がそこまで、つよくないよね?
ってお姉ちゃんと比べて、お兄ちゃんが言ってたなあ。芸能界とかいったらどうするんだろ?
わりと音楽みたいだから、難しい気もするけどなあ。方言なおすの。
私にもやっぱり方言ってあるし。そんなどうでもいいことを思ってるうちに、話がすすむ。
「そりゃあ、私達もあの場にいたけど、でも、まあ、うーん?明日菜、結局、スカウトどうするの?」
「あれ、返事したよね?彼氏がいてもOKならって」
やっぱり返事したことになるらしい。
「…親と相談する」
「じゃあ、スカウトにのる可能性があるってこと?」
「えっ?マジで?」
「サインや写真撮って!」
「はいはい、それは柴原真央マネージャーを通してからね?」
スマホを取り出した子たちから、さりげなく真央がかばってくれる。
「いまの明日菜は、ただのクラスメイトでしょ?」
って、こっそり隠し撮りしていた子たちのスマホからデリケートしてる。
ー私は、ただのクラスメイトだけど。
「あー、先輩に頼まれたのに、明日菜のパジャマ姿」
「ただのどこにでもあるジャージ姿だよ?」
「雰囲気だよ?雰囲気。明日菜って、スマホでも、カメラ通したら、また雰囲気が違うし?」
「そうだ!せっかくだし、みんなで撮ろうよ?」
「中学の修学旅行は、人生に一度だけだよ?」
「ーたしかに。そうだね?私のカメラでみんなで一緒に撮ろうよ?明日菜?」
真央が私に言った。真央のスマホなら大丈夫かなあ?
私よりなんか注意してそうだし?
ー中学時代の修学旅行は、たった一度だけ。
このメンバーでは、ほんとうにそうだよね?
忘れられない修学旅行の一枚に、
ースマホがある。
その場ですぐに見れるすごい技術がある。
ーお母さんたちを安心させてあげられるかなあ?
修学旅行のしおりがボロボロだったから、心配してるよね?
福岡からすぐに写真がとどくんだ。
ーすごいなあ。
すごいなあ、手のひらで。私も頷いた。
「うん、みんなで撮ろよ?」
どうせ犯罪事件とかで、
ー守秘義務どこ⁈なぜにアルバム⁈
ってなるし、みんな持ってるし、学校管理分もあるだろうし、
ーいるの?卒業アルバム。
って不思議だけど。
ーそこにいた、証、かあ。
デリートばかりの時代に、たしかに残る軌跡でもあるのかなあ。
ー来年の卒業式にたぶん私はいないけど。
いないかも、だけど。
そう考えると、ちょっとだけ、みんなと撮るこの一枚を大切にしたいって思って、素直に笑ってた。




