二日目 夜 黄原 真央 赤木
俺の幼馴染がいきなり、学校中に名前をとどろかせた。
目立たない、空気より、ずーっと、存在感がない二酸化炭素みたいな存在だった春馬が、いきなり、全校男子にそのまんま、呼吸困難をおこす原因になった。
俺の幼馴染が、
あの、
ー神城明日菜の彼氏になった。
いや、なってたのか?
ー彼氏がいてもいいのなら?
って、もともと、つきあってた、宣言だよなあ?
風呂上がりに、実際、春馬は、神城に会いに行った。あの春馬がめんどくさいことには、そもそも近づかない春馬が、めんどくさいトラブルの塊、発電機なくても、灯りをともすランタンみたいな神城に、逢いに行った。
ーそれだけで、すごいよな。
やっぱり、神城とは、なんかあるんだな?
けど、神城は転校するぞ?わかってんのか?
ーわかってたんだよな?
神城に対するイジメは有名だ。だれかが有名税だって言ってたけど、
ーただの南九州の片田舎の中学生だ。
ただ、やっぱり、春馬が言う、
ーオタクは預言者みたいだ。
が、俺にあるかはわからないけど、それでも、
ー貴方なら大スターになれる。
とことん目立ちましょう。
あの言葉は、ほんとうに、そうなるよな?
俺が、さっき失恋した気分になんでかなった、春馬は、
ー別れる恋をする。
神城と春馬の間にある空気は、たぶん、なんか友情とかとは違ってた。
柴原と春馬の空気とは、まったく違う。まあ、柴原も柴原で、春馬にとって、独特だけど。
なんとなく、春馬を離れた場所で待ってたら、柴原がいた。
俺をみて、
「黄原もお迎え?」
「お迎えって、年齢じゃないけど、あいつは、たしかに迷子なりそうだけど、帰巣本能がありそうだ」
「その巣がこれからは、黄原じゃなく、明日菜になるかもだね?」
「真央、の間違いじゃないのか?」
いきなり、違う場所から聴こえた揶揄する声に、俺と柴原が振り返ると、赤木がいつものふたりといた。
昼間、柴原に叩かれた頬がまだ腫れてる。人の悪い笑みを浮かべようとして、痛かったのか、
ーチッ!
舌打ちをした。忌々しそうに俺たちを見てくる。
「真央、お前、最低だな?」
「「「はっ⁈最低なのは、お前だろ⁈」」」
って、俺と赤木の取り巻きたちの声がそろう。
ちなみに赤木と仲がいいクラスの中心で、一緒によく騒いでる奴らだが、赤木とは小学校からの付き合いらしく、ようは、俺と春馬みたいな関係だ。
赤木のそばによくいるけど、こいつらの性格が、赤木なわけじゃない。
だから、赤木の昼間の行動は、赤木の方が最低だと俺たちには、みえた。
だけど、柴原は、
「まあ、最低だよね、お互いに?でも、あんたの方が、最低でしょ?明日菜に何するつもりだった?」
って、表情をまったく変えずに返した。たしかに、あの時、春馬が神城を背にかばったな。
ーどっかのヒーローみたいだった。
「…たしかに、アレは最低だよな」
赤木は罰が悪そうに言った。俺は意外に思った。柴原が続ける。
「そんなに村上が嫌いなの?」
「真央は、俺に見せない表情を、アイツにはするよな?」
赤木の言葉に柴原は、目を少しふせた。赤木はじっと、柴原をみてる。
「こいつらから、注意されて、頭を冷やした。だから、いまはもう元カレだけど、俺が言うセルフじゃないけど、もっと、自分を大切にしろよ?」
「ーむり、かなあ」
柴原は少しさびしそうな顔をした。赤木がため息をつく。
「どうせ神城は転校するだろ?その後、村上を捕まえたらいい。傷心同士、いけるだろ?」
「私と村上に、恋愛感情は絶対的にないよ?」
赤木は口を開きかけ、あきらめたように口をとじる。
俺と赤木の取り巻きふたりは、会話の意味がわからないから黙ってた。
「ー明日菜には、謝って?」
「逃げられるし、怖がられそうだし、お前から言っとけよ?お前には、殴られたし、恥かかされたから、絶対に、謝らない」
赤木が柴原を睨む。
「最低だね?バイバイ、赤木」
柴原は、淡々と返した。
「部活が同じだけどな」
赤木は、ため息をついて、俺をみた。
「いまの会話は、村上や他のやつらに、絶対に言うなよ?」
「言うもなにも、まったく会話の意味がわからないから、言えねーし、そもそも春馬は、お前に興味をもたない」
そう俺が言うと、赤木はまた舌打ちをする。
「よくあんなヤツといるな?お前。嫌じゃないのか?」
「それは、春馬を褒めてんのか?」
「真央が認めてんなら、そうなんだろ?しかも、神城がとどめだ。くそっ!絶対に俺の方がいいはずなのに!」
って悔しそうに言うと、
「村上なんか見たくないから、今夜は他の奴らの部屋に行くから。あと、俺は最低の元カレだけど、お前も最悪な元カノだからな?真央。じゃあ、部活でな?」
そういや、ふたりは部活が同じだ。
ーどっちも気にするタイプじゃなさそうだけど。
たしかに、今日の赤木は悪役だけどな。
赤木の背を見送る柴原をみる。赤木の背をみる表情は、無表情だった。
とても、裏切られた彼女の視線じゃない。
「…ほんと、お前も春馬も、もう少し、違う方向にいけなかったのか?」
俺の言葉に、力なく柴原は笑った。