明日菜 二日目 夜
私は真央と部屋に帰る途中、旅館ないにあるお土産屋さんで、村上くんを見つけた。
そういえば、彼は太宰府天満宮でも、天神でも、居残りしていた、というか、太宰府は私のせいでもあるけど。
ーでも、あれは、村上くんが悪いよね?
今日一日、村上くんをみていたから、彼があの時、私のスカートの中をみたのかは、少し疑問だけど。
「あれ?村上って、お土産買うんだ」
真央も気づいて足をとめた。私たちの視線の先で、村上くんは可愛いぬいぐるみのキーホルダーをみてる。
「村上くん、お兄さんがいるだけだよね?」
つい口にでてた。
「そうだよ?明日菜の噂になってた先輩は、男だよ?ああ、でもー」
真央がふと、言葉をとめる。
「ーなに?」
「うーん?まあ、買わないんじゃないかなあ?」
って真央が少し苦笑いした時、村上くんはキーホルダーを元の場所にもどした。
「…どうして、真央は村上くんのことが、わかるの?」
「そりゃあ、明日菜より先に村上と話してるからだよ?明日菜、修学旅行の話し合いとか、ぜんぶサボってたから」
…そうだけど。
私はじっと真央を見る。さっき、なにを言いかけたんだろ?
私の友人は、きっと、クールにみえて、優しいんだ。村上くんに、なんか、あるのかなあ?
ー彼女や好きな人いたら、私の仮カレなんかやらないって、わかるけど。
「まあ、私と村上に、恋愛感情ないから、安心してよ?」
「真央はそうでも、村上くんは….」
「ありそう?」
「ーわかんない」
「素直じゃないなあ」
そう言いながら、真央がまた歩き出す。私もこんなひとめにつく場所で、村上くんに話しかける気には、ならない。
あのやりとりを、
ー今日は、避けたい。
あいうえお作文は、カ行にいきそうな気がする。
真央の言葉の通り、村上くんと真央に恋愛感情がないのは、わかるから、黙ってた。
真央を相手に、あいうえお作文が通じるのかは、わからないけど。
「修学旅行終わったら、学校が大騒ぎだろうね?明日菜と村上と、明日菜のスカウト話で」
「ーなんで、みんなそんなに、他人に興味あるんだろ?」
「自分じゃないから、じゃない?」
真央が肩をすぐめる。
…反論できない解答だよね?
「村上は。他人に興味なさそうだけどね、狭い世界にいそう。小さな世界かなあ?知ってる?不思議ない小さな世界の絵本があるの?」
「お菓子本?」
「うーん?理科?かなあ?面白いんだ。職人さんがくれて読んだんだ。村上の世界みたいだった」
「どうして?」
「なんとなく?なんかそれぞれ立ち位置がハッキリしてるからかな?エネルギーも?」
「えっ?逆じゃないの?真央も村上くんも、なんか…」
今度は私が言葉を止めてしまう。
「村上と私が?」
真央が興味深そうに、見てきたから、しょうがなく言葉をつづけた。
「なんか、迷子みたいに、みえるよ?」
迷いながら言ってた。真央がキョトンってなる。そして、ふきだした。
「大丈夫だよ?あの世界ははまあ、ヘンテコな世界で、エネルギーもらうと、元気いっぱいになるって、そういう中身の絵本だったよ?すごく小さな世界の話なんだ」
ーあんなの目で見えないよね?
って真央は、残念そうに笑った。
「絵本の絵の真似して、たくさん円書いたりしたけど、絵は絵だから、悔しかったかなあ」
「絵本が悔しいの?」
「うん、わからないものがあると、考えちゃうんだ。職人さんたちは、考えていいって、言ってくれるけど、パパは素直に読んで暗記しなさい派だから」
「公式とか暗記して、当てはめた方が早いよ?そのための公式でしょ?」
「うん、そうなんだよね」
真央は素直に納得してる。あっ、たぶん散々言われたヤツだ。
「真央、勉強楽しい?」
「明日菜と同じだよ?」
「えっ?」
「好きな教科は、楽しいけど、きらいな教科は、眠ってたい」
真面目に真央が行って、私たちは同時に吹き出してた。
それから、ふと思う。
「真央は、職人さんには、ならないの?」
「うん、その選択肢は、いまはないかな?なんかパパが大学にいくもんだ、って小さな頃から言ってたから、もうそういうもんだって、思ってる」
「真央なら、なんでもなれそうだけど」
「芸術方面は、ダメだね」
美術と音楽悪かったかな?ペーパーテストで誤魔化してたけど。
「明日菜の方が先に進路見つけたね?」
「進路なのかな?」
「航海って言わないから、いいんじゃない?羅針盤ないし、わりと自由かもだよ?」
「迷わないかなあ?」
「加納さんいるし、私や村上がいるよ?」
…村上くんは、転校するまでだよ?
って言葉を、私はなぜか飲み込んだ。