春馬 お土産
旅館のお土産屋で、俺はなんか視線を感じる。
ー?
まわりを見渡したが、数人が慌てて視線をそらす。
「俺も知らない目立たないタイプの奴らだな?そんな奴らにも、人気な神城の彼氏って、どうなんだ?」
黄原がわりと好奇心に満ちた眼差しで、俺を見るけど、
ー?
「人気者は、神城で、俺じゃないだろ?」
「あんな彼女をもって、自慢したくならないのか?」
「だから、なにを?」
神城が人気者でも、それは神城の人気というか、見てて、
なんだ?あれ?
俺はいらない。
逆なら、なんか、うれしい気もするけど。
神城が俺を自慢だって、なんかひとつでも、俺を仮彼氏に選んだことを、よかったって、神城が思ってくれたら、めちゃくちゃうれしい気もするけど。
ー神城がすごいからって、言われても、うちの兄貴をすごいって思うけど、神城もすげー、だけど、どっち、も俺じゃないしなあ?
ー俺は、なんも関係ないし?努力してるの兄貴や神城だし?神城はなんか違う気もするけど、兄貴は勉強も部活も、俺なんかより、ずっと努力してる。
俺は兄貴が塾に行ってる間も、じいちゃんと遊び倒してたしなあ。
ー竜生、こっちおいで、一緒に遊ぼう?
ってじいちゃんが言っても、
ー宿題があるから。
って相手されなくて、じいちゃんは、
ー竜生は、勉強好きなのか?
ー好きでも嫌いでもないけど、負けるのは、なんかいやだ。
その答えにじいちゃんは、嬉しそうに笑ってた。
ー負けず嫌いは、いいことだ。
たまには、あそんで?らしかったけど。そんな兄貴をみてたから、兄貴をすげーなは、あるけど、兄貴の努力であって、努力したの俺じゃないよな?
なんで俺が自慢する必要があるんだ?俺はただ見てるだけだし?
本気で首を傾げてたら、黄原が苦笑した。
「まあ、お前ならそうだよな。だから、神城はお前を選んだんだし?けど、俺としては、お前の後輩に同情するけどな。あの場合は、男を見る目は、あるけど、自分を過信しすぎだな」
過信?なんだそれ?
家臣か?たしかに、後輩から使いっぱしりみたいな俺は家臣かもな?
「あっ、後輩のお土産、どうしよう?」
兄貴のリストに後輩はなかった。だけど、俺はずっと疑問だった後輩のセリフを、黄原に聞くことにした。
「なあ、黄原?一個きいてもいい?」
「なんか、あんまりいい予感しないし、疲れそうだけど、いいぞ?」
「野球部の後輩から、私は他の人とはちがいますから、きちんとしたお土産下さいって、恐喝されてるんだけどさ?」
「…まず、それは恐喝でなく、恋に舞い上がる乙女の願いだ」
黄原がため息をつく。
鯉が舞い上がるお空に願い?
「黄原、今日は鯉のぼりは、さすがに、なかったぞ?」
まあ、あるところには、あるだろうけど、今日まわった自由行動の範囲には、なかった。
「本人がそういうんだ、異世界人だぞ?後輩」
「だから、女子を異世界人って、言うなよな?」
「柴原と神城は、わかったぞ?」
「彼氏なら先に神城の名前だせ?」
…なんでだよ?神城と話した回数より、柴原の方が多いぞ?
って思ったけど、口にはしなかった。何回言われても、いまの俺には、無理な気がする。
ー柴原と神城が、まったく違うは、わかるけど。
なんか、ぜんぜん違うけど、
「後輩は、後輩だよな?」
職業、マネージャーで、元リトルリーグ出身だから、めちゃくちゃうまい。
たまに部員に混じってキャッチボールしてる。
ようは、初心者の俺の相手を、たまにしてくれる。
ー先輩、なんで君が悪いほど、ど真ん中になげるんですか?
って、先輩より簡単にヒットうつ。やわらかくて、鋭い打球にビックリだ。
たしかに世話には、なってるから、お土産どうしたらいいんだ?
「というか、来年、後輩もどうせ修学旅行で福岡だよなあ?」
のんきに考えた俺は、10年もたたないうちに、その当たり前に信じてた新しい春が違う春になるなんて、思わなかった。
ー楽しいことは、なにもなくなった。修学旅行もなくなった。なんだか、身体がおもたいんだ。
そうあきらめた瞳が、叫びが、仕方ないけど、きついと嘆くことすら、できない世界がくることを知らなかった。
あたりまえに、来年、後輩も修学旅行に行くんだって思ってた。
だから、お土産をキョロキョロする。
部員には、二年生の野球部代表にお金渡してるけど、有名な歌詞を買うって、言ってたよなあ。
ふとキーホルダーなんかの小さなコーナーに、異世界人が集まってるのがみえた。
俺の視線を追って、
「女子って好きだよな?ああいうの」
キーホルダーか。
なんか、色々あるけど、後輩には、ピンとこない。
ただ、後輩は異世界人だから、可愛いものを?か?
って小さなぬいぐるみタイプのキーホルダーを手に取ってみた。
ーFUKUOKA
ってご当地土産らしいマークいりだ。
だけど、その小さなクマかネコかいまいち判断にこまるそのキャラクターの、黒い目をみてたら、なぜか神城を思い出した。
ー神城がもし東京で、俺たちの故郷、南九州の片田舎の文字をみたら、少しは俺を思い出すんだろうか?
ーけど、まずは、東京ならカメムシたくさんいそうだし?殺虫剤だよな?
凍らすタイプって、いくらするんだっけ?
手にした可愛い?キーホルダーを下の場所に、戻した。
異世界人なら、異世界人と同じで、間違いないだろう。兄貴がくれたリストには、福岡の土産で、去年兄貴が買ってきてくれて、おいしかったヤツが書いてある。
黄原にも手伝ってもらって、リスト通りにかい、うちの異世界人用には少多い量を、後輩には少ないやつを買った。
ー福岡銘菓、筑紫もち。
あとは、通りもんとか、を買いながら、ふとマグカップが目に入る。
俺はマグカップが好きだ。持っても熱くならないし、重たいけど、なんか不思議な重たさで、奇妙な安心感をくれる。
その下に、夫婦やカップル用に大小大きさが違う茶碗とか湯呑みがあるけど、
ー異世界人だって喉かわくし、腹一杯たべたいよな?
ラッシーでものみほしそうだ。マグカップを2個買ったら、ペアカップだよな?
って思いながら、親父と異世界人なら、これかなあ?
異世界人はわりと緑茶が好きで飲んでる。うちは仏壇があるから、一番茶は真っ先に仏様に、ってなるしなあ。
ーじいちゃんいないのに。
って写真みて思うけど。
墓ならまだわかりやすいけど。
ー買っていったら、喜ぶかな?
居間に寝そべり、湯呑みで緑茶のんでるし。
ーお小遣いはほとんど使ってないし。
すべて買っても規定のお小遣い内だ。なぜかそれ以上の金が入ってたけど。
「決まったか?そろそろ、就寝時間だぞ?」
黄原の言葉に俺は湯呑みセットをカゴにいれて、レジにならんだ。




