春馬
「…こういう時、交友関係が少ないと不利だな?」
「そうか?」
「おまえ、ほんとうにいいな?たまに、ほんとに羨ましいくらいマイペースだ」
黄原があきれて俺にいう。ちなみに、俺たちの部屋には、赤木たちはいない。
俺と顔をあわせたくないらしい。ついでに他の班の連中もそっちについて行ったので、ひろい部屋に黄原と2人でいる。
ーとくに問題なくね?俺たちが部屋から追い出したわけでも、追い出されたわけでもない。
「謝った方がいいか?」
「いや、静かでいいし、俺はお前に言っただけだよ」
そりゃそうだ。黄原には、俺以外にも、友人がたくさんいる。たんに俺につきあっているだけだ。
相変わらず納得したから、黙ってたら、黄原があきれる。
「神城には、きちんと返事しろよ?」
「ムリだ」
「ムリでも、一言でいいから、なんか言ってろ?」
黄原が真面目な顔でいう。
「一言でいいのか?」
「返事をとりあえず神城にしてやれ?」
一言って一字でいいのかな?
「ーあ?」
「神城が付き合ってくれるなら、いいんじゃないか?俺ならすぐ別れるけど」
…どうせ、神城が東京行くまでだし、よくね?「あいうえお」なら、俺にだって返事できそうだ。
柴原は先を読んでくるけど。ヤキモチ、マジで頭の中で、茹でてきな粉まぶしたよな?
なんで、
ーゆでたらダメなんだ?
だよな?ヤキモキは膨らんで、バンクしたらプシュッて、縮むからいいのかな?
ーゆでたら、ベタベタ離れなくなるから、ダメなのか?
どっちもうまいけど。
そういや、親父が毎年、高齢者のお正月は在宅従事者泣かせだと言ってた。
いくら注意しても防げない。嚥下が弱ってるから食べて欲しくない、が、縁起物だから買ったり、同年代の高齢者がお裾分けなさる。
隠してしまうからわからない。
ー毎年、ニュースで注意されてるんだけどな。
ほんとうに毎年、流れてる、し、なかなか、ご家族にも理解が難しい。ほんとうに笑い話やひと事じゃないんだ。
そうぼやきながら、親父は、テーブルに頬杖ついて、あきれた顔で、じぃちゃんが餅を食べるのをみていた。その視線に毎回、じぃちゃんは言い返していた。
ー俺は大丈夫だ!
ーそういう人が危ないんだ。
ー俺を年寄り扱いするな?
ーいくつだ親父?
ーまわりはそうでも、俺は違う。
ーいくつだ親父?
ーだから、
ーいくつだ親父?
ーお前は、ほんとうに俺の息子か?
ーお袋の墓参り行こうかな?
ーそれだけは、すまん!許してください!
息子に土下座するまでがなぜか、毎年、恒例のじぃちゃんと親父のミニシアターだった。異世界人はじぃちゃん用はべつに小さくしたり、できるだけ食べやすい工夫していた。
ーお正月くらい食べてほしいんだ。
って本音は誰だって思うんだよ?それでも、やっぱり死なれたくない。だけどー。
ーほんとうに大変なんだけどな、そのニュース。
毎年、悩みまくるんだ。誰にはどう食べさせてあげられるか、どう隠すか。
ー遠方に住むご家族はどこまで、いまの利用者様をご理解してるか。
毎年、ほんとに頭が痛いんだ。
ーお正月のお餅。
親父は苦笑いだったし、じぃちゃんも嬉しそうに食ってた。
ー春馬、ラッシーにやったらダメだぞ?
と言い聞かせられた。
俺がラッシーにやらないように、毎年、ミニシアターしてたのかな?
小さなイベントごとに、俺はお小遣いでラッシーになんか買ってたし。
飼育本にたしか餅はなかった。でも毎年あきれながら、親父もどこか嬉しそうにじぃちゃんを見てたな。じぃちゃんも笑ってた。
あんな風に笑ってほしいな。そう思うから、黄原にきいた。わからないことは、口に出る。
「なあ、黄原?」
「なんだ?」
「彼氏って、神城に返事してたらいいのか?」
「俺からしたら。おまえが返事するだけ奇跡だ」
黄原があきれて俺をみる。
「そうしたら、神城は俺にも柴原みたいに笑うか?」
「おまえが笑ったら、笑うんじゃないか?ーって、はっ⁈お前なんて、言ったいま?」
黄原が驚いて俺をみた。質問だよな?
「彼氏として、返事してたら、神城は俺をにらまない?」
さっきと、なんか違う気もするけど、同じ内容だよな?内心、首を傾げながら黄原にもう一度こたえる。
「ーああ、あれか。神城お前と柴原には、素直に感情みせてるよな?」
あれが素直なら、やっぱり俺は睨まれてるらしい。たくさん身に覚えがあるから、いまさら、言えないけど。
黄原は少し考えるように俺をみる。たまに黄原や親父はこういうふうに考えこむ。兄貴はすぐに答えくれるけど。異世界人は、怒る。
俺の頭の中では、異世界人は4人くらいしかいないけど、うちの異世界人、柴原、後輩、そして、異世界代表みたいな、
ー神城明日菜。
あいつがボスならクリアしたら少しは、わかるのかな?異世界。黄原や兄貴や赤木たちのことも。
この存在してるのに、なぜか存在してない気分になる世界を、少しは理解できるのかな?
ー柴原はこっちだよな?
あれはべつだよな。
もはや、俺にとって、なんになるんだ?太宰府天満宮と九州国立博物館ってつながってるよな?
国立博物館なら、国宝あるよな?
ーなら、国宝か?
異世界はわからないけど、あっち側からしたら、こっち側が異世界だろうし、なら、俺の世界では、宝だから国宝?
「柴原は俺の国宝か?」
「はっ⁈お前の彼女は神城だろ?というか、俺の質問から、考えたんだろうけど、お前の考えてる過程が相変わらず俺には、わからないぞ?」
「いや、だから、柴原は俺の国宝?」
「なんで柴原だよ?そこは神城をもってこいよ?」
「いや、だって、神城はー」
異世界人、だよな?
いや、いまから、異星人か?大都会でスターになるぞ?たぶん?
俺の古いミザールや手作り望遠鏡で探せるかな?輝くなら、望遠鏡すら必要ないかな?
ー星に願いを。
って昔からあるけど、夜空にひときわ輝くほし。
ーVenus。
かあ、柴原は土ん中だよな?
ラッシーと掘ったらうっかり出土しそうな確率だけど、神城はみんなが目にして、だけど、
ー手にとどかない。
手作りの分光器や望遠鏡に使う菓子箱には、とじこめられない。
なによりも、
ーあんな神城は見たくない。
言葉をとめた俺を怪訝そうにみながら、黄原が腕時計をみて言った。
「ちょっと早いけど、風呂はいりに行こう。どうせ赤木たちは自由にはいるんだし」
「わかった」
そういや、柴原と黄原、風呂の時間がどうこう話してたよな?




