スカウト後 春馬 ④
「一お前、神城より柴原をみてないか?」
異世界人グループには、きこえないくらいの声で、黄原がきいてきたから、相変わらず癖で、黙って肯定したら。
「そこは、神城のために、きちんと声にだして、否定してやれよ?お前は神城のなんだよ?」
「俺は神城明日菜の彼氏だ」
「ー棒読みだな?」
それ以外、どう反応しろとな?
目の前では、異世界人グループが盛り上がってた。柴原が神城にきいてる。
「村上の第一印象は?」
となりで、黄原が、
「おっ?」
って興味を持って、
「ストーカー」
神城のこたえに、黄原どころか、異世界人グループまで、一瞬、空気が凍ってた。
ー柴原は爆笑してるが。
「ええっ?春馬、神城をストーカーしてたのか?」
黄原が、柴原の笑い声に、我にかえって驚きに目を見開きながら、俺をみてきた。
ーけど、
俺には、心当たりが多すぎる。
「たしかに、してたな?ストーカー」
ラッシーまで利用したぞ?ただ、ラッシーは、ストーカーじゃないと、神城に弁明してやる。
ーラッシーは、基本的に自由な犬。
たまにジャーキーあげたら、喜んで庭に穴掘ってうめて、
ー場所を忘れてる。
庭中わりと穴だらけで、あまりに穴がふえたら、異世界人から言われて俺は、園芸用の小さなスコップで穴を埋めながら、
ーラッシー、埋めてる途中で掘るな?
ってなるけど、結局は埋める作業より、掘ってるラッシーが楽しそうだし?埋めるの忘れて、一緒に掘ってたら、ミミズやモグラいるし、夢中になって、
ー穴がふえて、怒られる。
兄貴が、
ーバカだろ?お前。
夜まで終わらないと、そう言いながら、手伝ってくれる。シャベルで。
そういえば、ラッシーはあの日の穴だけは、掘り返さない。たぶん、バケツで花火を消して、そのまま埋めたから、においが残ってるのかな?
俺はラッシーと庭にいることが多い。
ーはやくラッシーにあいたいなあ?
って神城を見ながら思う。ラッシーと神城はまったく似てないしな。
なにより、うちラッシーは、あきれるくらいマイペースで、のんびりした犬だ。
神城、ぜったい!
ー短気だよな?
まわりの異世界人が俺の反応に戸惑って、
「ねぇ、明日菜?」
「ー竜生先輩の間違いじゃないの?」
って、俺を不思議そうにみてる。ふつうに、俺だって、そう思うぞ?
兄貴めちゃくちゃ優しいぞ?口は悪いし、ずーっとなんか俺に苛立ってるけど、
ーシャベル持ってきて、穴埋めてくれるぞ?
神城の心の穴も、園芸用の小さなスコップより、一気にシャベルかもだぞ?
兄貴は俺と違って、
ー喋るし?
俺はできたら、発語したくない。兄貴と俺なら、考えなくても、兄貴だよな?
だから、素直にうなずいた。
「ーだよな?」
ただ残念ながら、俺より一歳うえの兄貴は、中学三年生で、南九州の片田舎にいる。
ー彼氏がいてもいいのなら?
あのセリフの相手は、兄貴じゃないのか?ただ、兄貴はモテるから、よけいにややこしくなる、は、わかるけど。
ー即決しすぎだろ?神城。
梅ヶ枝餅でも思うけど、神城って、短気だよなあ。
ー俺には笑った顔を見せないくせに。
「どうして頷くの?私は先輩じゃなく、村上春馬くんだから、言ったんだよ?」
ほら?いまも怒ってる。ムッとした顔で、俺に言ってる。
ー柴原には、穏やかなくせに。
つくづく思うけど、
「ー神城さんて、短気すぎない?」
俺はつい柴原にきいていた。
「同感」
柴原があっさりうなずいて、
「なんで、真央にきいて、真央までうなずくの⁈」
って怒るから、
「「ほら、短気だ」
俺と柴原の声が揃った。
「ーっ!」
なんなの、このふたり?
ー息がピッタリすぎない⁈
って小さなぼやきが神城からきこえるけど、柴原と息がピッタリとかじゃなく、たんに神城が短気なだけよなあ。
ほら?いまも睨んでくるぞ?
「ー私の彼氏は?」
あれ?ラッシーがくぅーん?って甘え泣きしてるような声に似てる?
って、思いながら、
ー神城の彼氏?
そりゃあ、
「村上春馬?あっ、俺だ?」
びっくりした。あらためて、思う。
ー村上春馬。
は、兄貴じゃなくて、俺だ。
「はじめから、私はそう言ってるよ?」
言ってたか?指差しただけじゃね?
ー当たり屋だよな?完全に巻き込まれ事故だぞ?
柴原はわからないけど、俺の計画は、加納さんまでだったぞ?
延長?再試合はないけど。
ただ、柴原はキーバー?だったか?
種目自体が違うぞ?しかも、いまの俺は、
ー野球部。
ただ、村上春馬は、どっちでも、たしかに俺だけだ。
「ーだよな?はい、俺が神城明日菜の彼氏です」
村上春馬。
なら、俺だけだ。
「よくできました」
異世界代表ってわけわかんねーな?みとめたら、少しだけ雰囲気がやわらかくなった。
「ほんとうに付き合ってるんだ!」
「きゃーっ!」
異世界人は元気だ。
彼氏ではあるが、つきあっては、ない。いや、これからこの騒ぎに、
ーつきあって、は、行くよなあ。
柴原がニヤニヤしながら、神城に耳打ちする。
「明日菜の短気は長所だよ?だって、神さまのサイコロとめたんだ」
たしかに、とめたよなあ。
まさかの、神城が。
たしかに、
ー人生、わけわかんねー出来事が急にふってきた。
柴原は止めたって言うけど、
ー神城はサイコロをふったんじゃね?
って思いするが、あんな大天才が何を考えるのかは、俺にはさっぱりわけわかんねー、し。
サイコロは、ルービックキューブなら、すげー数になるよなあ。




