スカウト後 明日菜 ②
ー宿泊先におちついたら、お母さんに電話して、加納さんのことを話して、断ってもらって、村上くんに謝って、みんなの誤解を解こう。
あれは、ただのスカウトを断るための口実だった。そう説明するはずが、
「ねえ、ねえ、明日菜?村上を知ったきっかけは、あの屋上?」
柴原さん、じゃない。真央が私の隣で、明るくきいてくる。しかも、あってる。だって、真央は、私に彼の名前、
ー村上春馬、くん。
そう私に教えてくれて、そういえば、修学旅行の自由行動のチェックペンと糊。まわりを消して、それなのに、しつこく残ったふたりの名前。
レッドラインに囲まれながら、シグナルは、ゴーサインだった。2人の部分だけ、糊でしっかり剥がれないように、はってた。
ー真央と村上くん。
今日、全体的には、私が話した男子は、黄原くん。その黄原くんも真央は、レッドラインにしてた。
ーなぜ?
「うん、屋上にいたら、間違えて、鍵かけられて、野球部の村上くんが気づいてくれたの」
ー実際に助けてくれたのは、真央と、あのきらいな教師だけど。あれ以来、なにかとその時の事をいうから、毎回のように私は真央に助けてもらったと言ってる。
ほんとうは、村上くんの名前も口にしたかったけど、なんだかあの先生は、村上くんに絡みそうだから、言わなかった。
たまに思う。
ーなんであの人を先生って、呼ばないと、いけないんだろ?
真央は、バスケ部の女性体育教師とたまに楽しそうに話してる。私には、そういういわゆる先生はいない。部活の先生は、くじ引きみたいだし。そもそも演劇部出身の先生って、どれいるんだろ?
バスケ部の若い女性体育教師は、もともとバスケットをしていたのもあるから、たまに体育館中に響く大声で、注意してる。
し、怖いけど、人気があるのは、一緒に笑って泣いてくれる、悔しがり、がんばりを認めてくれるけど、
ーきちんとあっち側にいてくれる。
そう真央は言う。引き摺り込まれないでいてくれる貴重な先生だと。
あちら側がなにか、私には、わからないけど、真央は笑って言ってた。この修学旅行で、私たちの間も少し変わるのかな?
ーごめんね?明日菜。明日菜は悪くないよ?
真央だって、悪くないよ?傷ついたよね?だって、いちどは、仲良くしてた人だよね?
なんの感情もわかないは、うそだよ?
ーたぶん?
真央は泣いたけど、失恋に泣いたのかなあ?とは、少しだけ疑問に思う。真央がなにを考えてるか、よくわからない。
よくわからないのは、彼もだけど。というか、
ー俺は神城の彼氏だ。
って黄原くんに言ってるけど、
ー棒読み。
なんか、こわれたスマホがしゃべってるみたいだ。あの変な犬の方が愛嬌あった気がする。
というか、なんで、村上くんは、あんなデタラメの私の発言を認めてくれてるんだろ?否定されても,嫌だけど。
ー完全に、八つ当たりした。
のは、たしかなのに。真央と村上くんはなんとなく雰囲気が似てるから、
ーなにを考えてるか、わからない、よ?
チラッと後ろを見るけど、相変わらず村上くんは、私をみてない。真央をみてる。ただ、真央を見てるけど、真央に恋してるとかじゃないのは、見ていたらわかるけど。
ー俺は神城明日菜の彼氏だ。
相変わらず棒読みで、彼氏って言うくせに、目があわない。後ろからついてくる。
だから、
「村上の第一印象は?」
真央から言われて、つい無意識に口に出た。
「ストーカー」
一瞬、空気が凍って、真央が爆笑して、
「ええっ?春馬、神城をストーカーしてたのか?」
村上くんと違って、私たちの会話をしっかりきいてた黄原くんが、村上くんにビックリして言って、村上くんは、すこし首をかしげながら、言った。
「たしかに、してたな?ストーカー」
村上くんの文字に、否定ってあるの?
って、つい思った。
まわりの女子が反応に戸惑って、
「ねぇ、明日菜?」
「ー竜生先輩の間違いじゃないの?」
って、村上くんをみてる。村上くんは、また、首を傾げる。
「ーだよな?」
「どうして頷くの?私は先輩じゃなく、村上春馬くんだから、言ったんだよ?」
ムッとして言うと,村上くんは、
「ー神城さんて、短気すぎない?」
「同感」
「なんで、真央にきいて、真央までうなずくの⁈」
「「ほら、短気だ」」
「ーっ!」
なんなの、このふたり?
ー息がピッタリすぎない⁈
私はつい村上くんを睨んでた。
「ー私の彼氏は?」
知らないうちに声が少しすねてた。村上くんは相変わらず離れた位置でキョトンとして、
「村上春馬?あっ、俺だ?」
なんで驚くの?
「はじめから、私はそう言ってるよ?」
「ーだよな?はい、俺が神城明日菜の彼氏です」
「よくできました」
彼氏に、
ー?
つけなかったから、OKだ。私は呆れて村上くんをみつめてたら、周囲から黄色い声があがた。
「ほんとうに付き合ってるんだ!」
「きゃーっ!」
…否定できなくなった。真央がニヤニヤしながら、私に耳打ちする。
「明日菜の短気は長所だよ?だって、神さまのサイコロとめたんだ」
もりあがる周囲に思った。
ーたしかに、短気かもしれない。
そして、
ー神さまのサイコロって、誰の言葉だったかなあ?




