スカウト後 明日菜
加納千夏さん、からもらった名刺を、私は、大切にお財布に入れる。正直,どこまで本気なのか、わからないけど、村上くんは、いてもいい。
そう言った。
ーえっ?
だったけど、こればかりは,どっちに、
ーえっ?
だったけど。それ以上に、
「赤木たちが、もう先に着いてるだろうから、いまごろ、大騒ぎかもだね?明日菜と村上の話で」
って真央が笑う。柴原さんから、真央呼びに変わった。少し照れくさくて、小恥ずかしい気持ちと、うれしさを感じながら、真央にきいた。
「真央、一応きくけど、失恋したんだよね?」
泣いたよね?赤木くん平手打ちしてたよね?
「したした、ガッツリした。しばらく、フリーで、いいくらいには、したよー?」
…明るく返される。嘘で泣けるほど、真央が器用だとは、思えないし、その目には泣いた後がまだ残ってる。
ーごめん、明日菜。
そう泣いてくれたよね?
真央はまったく悪くないのに。むしろ、私に怒りをぶつけてもおかしくないのに。
真央はそう泣いた。ーのかなあ?私は目の前の友人を見る。私は、そもそも明日菜って,まわりから呼ばれても、親しい友人は、いなかった。
いわゆる、ボッチでもないけれど、クラスカーストとは、また違う女子独特の同調や共感が、苦手だったけど。正直、クラスカーストは、男子の世界に多い気もする。
柴原さー、じゃない、真央は運動部で明るいし、赤木くんが彼氏だし、頭いいけど、よくわからない不思議な存在、私もまわりの子たちと同じことを思ってた。だからって、悪口をいう気持ちはわからないけど。
真央と村上くんは、なんとなく雰囲気?空気感⁈がにてる。だから、今日、よく一緒にいたのかなあ。
「ねぇ、ねぇ、まだ班の写真を撮ってないから、撮ろうよ?」
課題の一個だから?って、真央が提案する。
「赤木たちがいないぞ?」
「だから、いまのうちに撮るんだよ?あんな最低な元カレの写真なんかいらないし?赤木と明日菜が一緒に映るなんて、どう使うか、アイツわかんないし?」
「わかった、じゃあ、俺のスマホでいい?」
村上くんがスマホを取り出すけど、
「なんで、お前がカメラマンになるんだ?今日のある意味メインキャラだぞ?」
黄原くんがあきれてる。その間に、真央が集合場所に向かう私たちを、見送ってた加納さんの元に走ってく。真央って、足も速いなあ?バスケットに足の速さって、やっぱり、関係あるのかなあ?
同じ体育館を使うから、真央のプレイは、なんとなく目にしてるけど、あんまり真剣に走ってない、というか、まわりを見ながら、ゆっくり動いてる気がする。
真央はスリーポイントを正確に決めてた。淡々とゲームに参加してたかな?一年生の秋には、もうレギュラーだった。それでも周囲の先輩たちとも仲がいい。
真央が走る姿を、そういえば、見てるようで、見てない気もする。私も演劇部の練習してたし。
真央に手を引かれて、また加納さんがやってきた。少しあきれた顔をしてる。真央はまったく気にせず私に言った。
「ほら、明日菜、スマホかして?」
って手をだす。
「えっ?」
「きっと、明日菜にとって、大切な思い出になるからさ?」
「それは、みんなも同じー」
私が言いかけたら、加納さんが頷いた。
「そうね、あなたのご両親の許可を頂いたら、東京に転校になるものね」
「ーえっ?」
私は驚いて、加納さんをみる。加納さんは首を傾げた。
「あら?私、とことん目立ちましょうって、言ったわよね?私が東京本社所属とも」
ー言ってた。
でも、待って、それじゃあ、村上くんやせっかく仲良くなれそうな真央とも、離れるの?まさかすぐの話だなんて、思わなかった。
「彼氏とは遠距離になるけど、別れなくていいから。あなたの望みは、もう叶えてるわ」
加納さんがばっさり言う。たしかに、私が言ったけど。私は村上くんをみる。
ーなんで否定しないの?
このままじゃ、離れちゃうよ?って思うけど、そもそも、それなら、
ーそばにすら、来てくれない。
もう手放したくない。
「ーそうですね」
お母さんに断ってもらおう。南九州の片田舎から、福岡にきてもコレなら、大都会は、素直になんかキツそうだ。
ー村上くんには、謝ろう、ちゃんと。
どう考えても、さっきのは、私の身勝手な八つ当たりで、彼は優しいから、否定しないでくれた、だけ?
今日はじめて会話?したけど、あまり、いいイメージないような?初対面から、スカートのぞかれたし?梅ヶ枝餅に負けたし?アリにも負けたような?
ーまったく相手に、されなかったなあ。というか、会話したかなあ?
とにかくあとで謝って、加納さんには、悪いけど、断ろう。私にはムリだよ。
やっと冷静になって、そう思ってたら、
「ほら、村上、こっち、明日菜の隣においでよ?」
「いやだよ?俺はゴールポストを守る」
「それは、いまじゃないだろ?」
「とにかく撮るわよ?はい、笑って?」
数枚、加納さんが撮ってくれた。私がスマホを確認したら、センターにいる私より斜め後ろで、黄原くんと村上くんが肩をくんでた。
黄原くんが無理矢理くんだのかな?村上くんは、驚いてる。
私のスマホに、
ーカエル、がやってきたよ?お姉ちゃん。
お母さんに、言ったら必ずお姉ちゃんまで伝わるなあ。
どうしよう?って思いながらも、私はクスッと笑ってた。




