スカウト 真央 ③
明日菜の優しい腕の中で泣いたあと、赤木が漫画みたいな捨てゼリフを村上に残して去って行った。
あーあ、班長は私だよ?
素直にめんどくさいなあ?って思ってたら、村上がラッパの提案してきた。
たしかに、いちばん、わかりやすいし、赤木たちは、あまり教師ウケはしない。
私を教師は、信じるだろうし、班の子達も証言するだろう。まあ、通じなかったら、このスカウトした人利用しようかなあ?
って思いながらスマホをかけた。すんなり、事情は通った。
スマホを切ると村上がスカウトの人と話していた。村上が視線をくれたから、私もスカウトの人の前に立つ。
ほんとうに、強い眼差しをもつ人だ。なんだろう?きちんと自分の足で立つ人だ。そう思ってしまう。
村上が手にしてる名刺をのぞくと、有名なプロダクションと、
ー加納千夏。
千回夏をむかえるくらい、長生きしてほしいのかなあ?
ー私は、そこはもう、休んでたいなあ?
暑そうだ。
って思うけど、夏に負けないパワーありそう。私や村上にも、明日菜にもない、
ーなんかすごいパワーがありそう。干からびてない大人。
私が隣に並んだことを、視線で確認して、静かに村上が口をひらいた。
「絶対に、神城を守ってくれますか?」
ね?
村上?
ーこの世界には、絶対なんて、きっと存在しないよ?
ああ、けど、絶縁体は、あるかあ。ピリピしないですむやつ。
痛い思いしないで、安全に遮断してくれる物質。
だけど、人の感情には、存在しないよね?
ー絶対。
反対が、相対。
皮肉だね。言葉すら、皮肉だね?
だから、神さまはサイコロをふらない。
だって、0÷0=♾。
あの無限にある選択を、
明日菜が止めたって、私はおもうよ?だけど,村上はちがうのかな?
だって、まっすぐにスカウトの人をみている。
ーそっか。
村上は自分でルービックキューブを止められるんだ。
ーそっか。
それなのに、明日菜のために、そっちを選ぶんだね?
そっか。私も静かにスカウトマンをみつめた。そうしたら、その、加納さん?は、しっかり私たちをみつめかてして、うなずいた。
「私にできる精一杯で、必ず守ると約束するわ」
明日菜を視界の隅にとらえて、そう言った。
ー言ってくれたんだ。
強い言葉なのに、不思議な、つつみこむかのような優しさで、
ー大人が約束してくれた。
「あなたが彼氏っていうのは、意外だけど」
「それは、俺も同意?」
「お似合いですよ?明日菜と村上」
たぶん、村上も明日菜も、告ったつもりも、告白されたつもりも、
ーないなあ。
明日菜って、短気だなあ。私は友人につくづくそう思う。明日菜は短気だ。
のんびり、というか時間軸からしてズレてる村上についていくには、振り切るくらい明日菜が短気でもいいけど。
ー手強いよ?
だって、村上だ。
そして、明日菜だ。
だから、私は面白い。
ふたりがこれから、どれくらいの時間を過ごすのか、わからないけど、そばで見守っていたい。
とりあえず、明日菜が告白したことを自覚からかなあ?
村上は、告白って言葉を理解しても,告白って意味をわからず、男避けとしか考えてなさそうだし。
ーなによりも、
「…東京本社なんですね?」
私はきいていた。
「ええ。彼女のご両親を説得して、東京にきてもらうわ。1日でもはやく。と、言っても夏休みに引っ越しかしらね?」
スマホのスケジュールを見ながら,もう頭の中では明日菜を引っ越しさせる手配はすんでるらしい。
「ー夏、か」
複雑そうに、村上がつぶやく。私も複雑だった。南九州は暑いんだ。
「だいじょうぶだよ?村上?村上が明日菜のそばにいたら防げるよ?」
…村上がどうなるかは、別として。まあ、気づかないで終わるだろうし?
「私も明日菜のそばにいるから」
…夏が来る前に、明日菜を逃したかったけど、明日菜がきちんと道をのこした。
加納さんが、そんな私たちをじっとみてた。




