スカウト 真央 ②
赤木が激昂して、明日菜の腕をつかんだとき、それまで動かなかった、
ー村上が動いた。
私はその行動に切なくなった。村上は、私でもたぶん他の子でも、動くだろう。
ー村上がその光景をみたくない。
それだけで、動くのは、わかってるけど、
ね?
気づいてる?村上?
それなら、明日菜を、村上の背後に庇う必要はないんだよ?村上が前にでる必要はないんだよ?
ーもう、明日菜は村上の名前も顔もみてるよ?明日菜は今日、ずっと村上を視線で追ってたよ?
だから、赤木も激怒したんだ。これが、村上のお兄さんなら赤木は、尻尾まいてるんだよ?
だけど、いま、村上が赤木に噛みついたのは、赤木より背が低いくせに、他人になんか興味がないくせに、
ー見つけたら、どうしたらいい?
子供達が捨てられた子猫に、かまわないでいられる確率はどれくらい?
大人ですら、たぶん目を逸らしながら、
ー幸せを願うだろう。
無責任に餌はやれない、飼えないと判断しながら、
ー大人だって、胸は痛むし、飼えないなら、手が出せない、も、あるんだ。
だって命には責任がある。たくさん傷ついて、誰だって、悔恨を積み重ねて、生きていくんだ。
それだけ、なにかをあきらめて生きていく。たしかにそうなんだけど、
ーそれだけ傷ついて、大人になり、守りたくても、守れないリアルをしり、けど、やっぱりさ。
みるのは、痛いんだ。
失くすのはいやなんだ。
傷つきたくないんだ。傷ついて欲しくもないんだ。そう私の手品師たちは言うけど。
ーお嬢?お嬢は、お嬢で考えていいんだよ?お嬢が生きてるこの時代と、俺らが子供の時とは、もう違う。苦しみも怒りも悲しみも、笑うツボすら、違うんだ。
たくさんの世界が、手のひらサイズで、すごいんだ。
猫型ロボットのポケットみたいに、すごいんだ。そう笑って、いつも私の頭を撫でてくれる。
その優しい手がいま、明日菜に伸ばされて、だけど、
ーやめなさい。
そう鋭い声で制止したこの人に、私は明日菜を託したい。ね?村上?
ーリアルはいつだって、残酷だね?
ただ、でも、
「彼氏がいてもいいのなら?」
明日菜が村上を指さし、はっきり口にしたよ?だから、さ?
ー私も動いてあげる。
村上だけが背負わなくて、いいよ?それに、さ?
ー神様がサイコロをふることを、明日菜がとめたよ?
彼氏がいてもいいのなら。
私は呆気にとらえて明日菜を見たけど。笑い出しそうにもなったんだ。
ーだって、明日菜は幸せになれる。
いくつもの優しさを、明日菜は家族から与えられてる、
ー愛されてる子なんだ。きちんと、さ?家族って身近な存在から愛された子なんだ。私とは違う。
耳に残る声は、
ー俺の子に限って、そんなわけないだろ!おまえの血筋だろ?
じゃあ、ママは浮気したの?パパはママをそう思うんだね?
それなのに、
ーさすがは俺の娘だ。
テストの紙切れ一枚が、私をパパの子供にするんだ。ね?村上?
いくら他人が褒めてくれても、身近な家族から否定され続ける私たちは、よくわからない存在だよね?
だから、明日菜を託したいのかな?
ー知らない大人に。他人に。明日菜には、幸せになってほしいんだ。
心から,そう願うんだ、あの真冬の屋上で明日菜を見つけた時に、村上か私にくれたパスは、
ーどのゲーム、なんだろう。
たくさんのルールがあるスポーツに、日本中が沸いた女子ワールドカップを、リアルタイムには見てないけど。
だって眠かったし?だけど、ニュースでみて、やっぱりうれしかった。
ただ、
ー再試合だね?だから、野球かなあ?
たくさんのボードゲームや賭けに、サイコロってあるけど、いくつまで使うんだろ?
大好きなルービックキューブをくるくるまわしながら、たくさんの1を作ってあそびながら、不思議な遊びに夢中になるけど。
いま,この瞬間、明日菜がルービックキューブを止めてくれたね?ぐるぐるまわる脳みそは、刺激があまりに強すぎて、ルービックキューブをまわしながら、もう吐き気すらする時もあるけど、
ー明日菜がとめてくれたね?
すこしひんやりした手の感触を私はわすれたくないのになあ?
赤木のバカ!
って思いながら、頬を平手でたたく。痛いから嫌なんだ。みるのも、きくのも、暴力全体が、嫌いなのに。
きっと、村上が我慢した怒りだし、私なら、大丈夫だよ?いまなら、許されるシチュエーションだ。
ー誰も不思議に思わない。当然の怒りで流すから。
その皮肉さにパパを思い出しながら、赤木をたたいた。明日菜の握ってくれた温もりを、優しさを、
ー傷つける怒りに変えた。
ふり、をした。村上が黙って譲ってくれたから、私は明日菜に抱きついて、
ー泣いたんだ。
だいじょぶだよ?明日菜。私はもうそばにいないけど、きっとさ?
ー優しい明日菜には、優しい人が寄ってくるから。
明日菜は守ってもらえるよ?私と村上の精一杯の、
ー神様のサイコロだったんだ。
それを明日菜がとめたんだよ?
すごいね?明日菜。優しい明日菜の体温に、ただ、よくわからない感情に、ただ、泣いたんだ。




