スカウト 真央 ①
ハンバーガー屋でも、どこでも、
ー明日菜は、視線にさらされている。
それがわかってたけど、私は、地下街や地下鉄の独特のいろんな反射が辛かった。
みんな眩しくないって、言うけれど、地下鉄の電車のライトもつらいし、電車に反射して、床を照らすのもつらい。
なにより、へんな風が肌を刺激する。においが独特で、背中を嫌な汗がつたう。
お姉ちゃんがどうして、福岡に住みたいのか不思議に、思うけど、私も大学受験するなら、たぶん福岡だ。
南九州の片田舎には、大学がないし、まだ受験に二年近くあるのに、私は県で一番の進学校や、違う県の寮がある高校も視野に、期待されてる。
し、私もさすがに、自分が他の人とは、なんか違うは、わかってきてる。
けど、
ー大学や高校って、なんのために、行くんだろ?
パパを、喜ばせるために、行くの?
それなら、行きたくない。考えるだけで、身体がなんだか重たくなるんだ。勉強もしたくない。私にだって、苦手だな?はある。
興味がないから、暗記も苦戦して、実はもうやらないって、投げてる単元もあるけど、それでも、授業で教師の話し方なんかでわかるから、なんとなくそこも、点数ならとれる。
理解したか?は、わからない。
視界にふと入ったり、なんとなく、耳に残ったり。それが、ふつうに、まわりもだって、思ってた。
たくさんの興味を、導いてくれたのは、
ーパパじゃない。
さすが俺の娘だって、言うけど、私にたくさんの不思議を、教えてくれるのは、いつだって、
ーお嬢?おもしろいだろう?
そう手品みたいに、きれいで美味しい和菓子をつくる職人さんたちだ。
私を可愛がってくれる職人長は、中学卒業してからすぐ、私のひいおじいちゃんの元で修行した、らしい。
パパは経営者だから、職人さんたちとは違う。大学に行って、学んだって言うし、職人さんもそれでいいと言う。
パパは現場を見ながら、きちんとケアしてくれてる、っていうし、
ーへんに、いじっぱりだし、頑固だしなあ。
職人さんたちには、パパの評価は、いいみたいだ。そしてママも、
ーよくやってる。
そう職人さんたちが、私の頭をいつも撫でてくれた。私に両親の悪口は言わない。職人さんたちは、言葉は荒いけど、優しくて、つくるお菓子は、美味しい。
ただ職人長は、選んだ仕事ではなかった。家の事情もあり、地元で働く場所が、この仕事だったって言う。
ーだから、お嬢には、たくさんの世界を知ってほしい。勉強はつまらないかもしれないけど、なにか夢中に、なれるものを知るキッカケ、もあるかもしれない。
お嬢がのぞむなら、いつだって、手品をみせてやる。
そう笑うから、高校には行くのかな?けど、県でいちばんの高校には、私がすむ場所からは、とおい。通えない距離じゃないけど、寮にはいるよね。そうしたら、優しい職人さんとは離れちゃう。
ー気が進まない。
ずーっとあの、
さすがは、俺の娘だ!
と、
俺の娘に限って、そんなわけあるか!
って言葉が、あたまで交差している。
そんなふうに、なぜか、せっかくの修学旅行なのに、沈んだ気持ちでいたら、明日菜が手を繋いでくれた。
少しひんやりした手が、私の無意識に汗ばんだ手を、優しく握る。
私は驚いて明日菜をみたら、明日菜が心配そうな眼差しをしていた。
その後ろから、似たように心配そうな村上もみえるから、私はふきだしそうになる。
くらい気持ちが一転して、優しく切ない気持ちになる。そして明日菜に笑いかけ、村上に視線をおくると、村上は視線で
頷き返した。
そうだね?村上。
グループの子たちは、もうすぐ自由行動がおわることを、嘆いてるけど、私と村上にとっては、
ーいまから、だ!
ぎゅっと、明日菜の手を握る。
「柴原さん?」
不思議そうに、明日菜が私を見上げてるけど、私は笑って、地下鉄博多駅で降車すると、筑紫口にむかう上りエスカレーターに向かう。
エスカレーターは、ふたつあとって、速さが違うから、壁側の速い方に人が多く流れてた。
私たちは急がないから、もう片方をえらぶ。
「あれ?こっちが遅い?」
「なんか損した気しない?」
「いいじゃん、ゆっくりで」
首を傾げる班の子達に、言いながら、あと少しだけ、あと少しだけ、
ー神さまに、サイコロふるのを、待ってほしかったんだ。
けど、
博多駅の筑紫口にでたら、地上にでても、明日菜は輝いてたから、スマホが、もう誰がどれだか、わからないくらい、明日菜をターゲットにするから、私でもかくせない。村上も、まわりを見渡し、少し青ざめる?
そして、
ーネットに、ながしてみる?とりあえず。
って言葉に、ぞっとした。とりあえず⁈待って!ネットにとりあえず?
明日菜は、ただの中学生だ!一気に身体の体温が、あらゆる体温が、頭に集中しかけたとき、
「やめなさい!」
そう声がした。
ー怒りで無音になりそうな耳に、はっきり、大人が言った、声がした。




