スカウト 春馬 ②
ーカレシガイテモイイノナラ?
何語だ⁈神城⁈異世界語か⁈
って、俺が理解できる間も無く、
「なんで!村上なんだよ!選ぶなら、どう考えても、俺だろ⁈」
「痛っ⁈」
いきなり赤木が激怒して、真っ赤な顔で神城の腕を強くつかんだ。
だから、とっさに、身体が動いた。
ー俺と、柴原と、スカウトと。
「やめろよ!」
「あんたは私の彼氏でしょ⁈」
「やめなさい。痛がってるでしょ?」
俺はグループの輪をかき分け、神城をつかんでる赤木の腕を払いのけて、背後に神城をかばう。
ーカレシガイテモイイノナラ?
って、何語だ?どこで区切るんだ?って思いながら、けど、神城の肩を荒々しくつかんだ赤木に、怒りがわいた。
だって、神城は俺と背があまり変わらないのに、すごく華奢だ。
ーサラダしか、食べないヤツだぞ?、
動物に例えらんないけど。
だって、草食動物多いし?
ハムスターの赤ちゃんなんか、すごく小さいぞ?ヒヨコはモコモコで、
ー鳥類だけど。
とにかく、目の前の赤木をにらみつけていた。だって、赤木はバスケ部に入るだけあって、俺より背がデカい。
力だってつよいだろ?あの大きなバスケットボールを、片手でもつんだ、握力だって強いはずだ。
それに、こいつは、
ーばしっ!
と独特の風切り音がして、赤木の頬を、柴原がなぐった。
「あんたみたいな、最低野郎より、村上の方が何倍も明日菜にお似合いのイケメンだよ!」
って言いながら、赤木じゃなく、俺の背後にいる神城に、視線をうつした。
チラッと後ろをみると、間近にみた神城が、血の気を失って、柴原をみてる。
俺はそっと二歩、身体を横にずらした。柴原が神城に、走り寄り抱きつく。
「大丈夫?明日菜⁈ケガしなかった⁈」
「ーえっ?」
「赤木、バカみたいに力強いから、怖くなかった?ごめんね?私の最低の元カレが。ほんとうに、ごめんね?大丈夫?」
って言いながら、最後の方は、柴原の声が震えた。戸惑ってる神城の顔色が戻ってくる。
ああ、そうだよ?神城。柴原はちがう、だから、
ーだいじょうぶだよ?
「あんな最低野郎が初恋なんて、見る目ないよね?怖がらせて、ごめんね?明日菜?明日菜は悪くない!」
って神城に抱きつきながら、柴原は泣いた。
「赤木、サイテーだな?」
黄原が妙に冷静な声でいうと、班の奴らが、一斉に赤木を黙ってみていた。
赤木はわめく。
「だけど、どう考えても、俺だろ!村上より、ずっと神城に似合ってるの!」
「いまのお前みていたら、どう考えても、春馬が上だな」
「さすがに、真央がかわいそうだよ?」
「赤木、サイテー」
黄原だけじゃなく、異世界人までいいだし、
「なに?修羅場?」
「修羅場ってより、サイテーじゃん?」
なりゆきを見ていた野次馬からも、声が聞こえて、赤木は舌打ちをした。
「くそ!覚えてろよ?村上!先に集合場所に帰る!」
「あっ、待てよ!」
逃げ去るように走り出した赤木を、赤木の取り巻きの二人組が追っていく。
神城に抱きついて泣いていたはずの柴原が、それを見ながら、ため息をついた。
「班行動が基本なのに。あー、どうしよう?」
「俺と黄原がラッパのマークに、お世話になりました?」
「まて!俺まで、それに巻き込むな!」
「それも、あり、かあ」
「柴原⁈」
「赤木たちをラッパにするから、だいじょうぶ。トイレに行っていなくなってたってする」
そういうと、柴原は、スマホで教師に連絡をとるために、輪から離れる。
かわりに異世界人たちが、神城をかこむ。黄原も心配そうにいるから、だいじょうぶだろう。
俺は、神城の隣に立つ、なんか迫力がある女の人をみる。その人は、俺をじっとみていた。
観察されてる虫の気分だ。
そういえば、あれだけ虫がわりと好きだったのに、ファーブル昆虫記を読んだことないや。外国人だから、外国の昆虫か?で、毎回、手が伸びないんだよなあ。
「…あなた、ほんとうに、あの子の彼氏?」
よくわからないけど、
「ー神城が言うなら?」
いまだに、
ーーカレシガイテモイイナラ?
何語だ⁈だけど。
神城が言うなら、なんかの言葉だろう。
ーん?
いま、この人、彼氏って、言わなかったか?
えっ⁈
と気づいたが、俺はすでに、肯定していた。ビックリしてる俺の前に、一枚の名刺が渡された。
芸能界プロダクションの名前と、
ー加納千夏。
千も夏があるんだ。
ー何歳生きるんだ?鶴がこの人⁈
だから、こんなにエネルギーの塊なのか⁈
「まあ、いいわ。あなたのことは認めてあげる。というか、貴方との関係さえ、認めたら、彼女はスカウトを、うけてくれるみたいだし?」
ああ、そっか。神城たしかに言ったな。
ー彼氏がいてもいいのなら?
返事してるじゃん?しかも自分で。
だって、
ー彼氏がいてもいいのなら?
だよな?自分で決めてるじゃん神城?そうだよな?柴原?
教師とのやりとりを終えた柴原が俺の所にくる。
柴原がとなりにきたから、俺は口をひらいた。
「…絶対に、神城を守ってくれますか?」
この世界に絶対は、ないって知ってる。
だから、神さまはサイコロをふらない。
だって、0÷0=♾。
あの無限にある選択を、俺がいま選ぶんだ。
ー自分の意思で、神城にも、柴原にも、残酷な選択かもしれない、サイコロを、いま選ぶよ?
だって、
「私にできる精一杯で、必ず守ると約束するわ」
そう異世界人ーいや、加納さんが言ったんだ。
言ってくれたんだ。
強い言葉なのに、不思議な、つつみこむかのような優しさで、
ー大人が約束してくれた。




