二日目 明日菜 ⑥
私は、結局はクレープを買わなかった。もともと、私がたべたいわけでもなかったし。
見て、可愛い、とは、思ったけど、空腹感はあまりなかった。まわりは意外だと言うけど、
ーお菓子は別腹。
って言うのは、お菓子分、無意識にセーブしてるんじゃないかなあ?
食べ放題とかになると、またべつの感覚になるのかな?
私はあんまりお菓子は食べないし、お料理にも、興味がうすい。食べ物全体に、興味がうすい。
ただ幼い頃からそうだったかは、わからない。
ついうっかり食べ残したお菓子を、あさられたり、知らないうちにロッカーや机に入ってるお菓子は、こわい。
中になにがあるか、わからないから、知らない人から、とくに男子からのプレゼントは、申し訳ないけど、食べない習慣がついた。
ちょっと、ううん、かなりショックなことも、私がいないと思って、話してる子たちがいる。
ーイタズラで、すむのかな?
って、思うけど、地元で勝手にアイドル化をされている私は、素人なのに、有名税、らしい。
税金を払いたくない気持ちは、まだ払ってない年齢の私も、なんとなく、わかるけど、わかった上で、思うんだ。
ー私は、ただの中学生。
SNS類はなにもしてないし、スマホのアドレスはあまりないけど、たくさんの知らない人からかかるから、中学生なのに、私のメインはキッズ携帯。
メール代は高いけど、お互いに電話番号を登録しないと、かからないし、すぐに誰からの通話か親に届く。
小学校生ならまだいいけど、中学生なったら、まわりはスマホだけど、ほとんど家族としか連絡取らない私には、その機能だけでいい。
調べたいことがあったら、お姉ちゃんが調べてくれる。家族のスマホやいろんなことで、かんたんに情報は漏れるけど、キッズ携帯には、アクセスができないから、楽。
そういう時は、自分のスマホをもう電源自体を切ることが多いけど、ストーカーみたいに、いまも視線はついてくる。
ー彼氏ができたら、変わるよ?きっと。
そうお姉ちゃんは、言うけど。
ーあのカエル、お姉ちゃん的には、アリだけど?
ーその子なら私もいいかなあ?
って、お母さんが言って、
ー誰でも認めたくないぞ?
って、あまり話さないお父さんがシブい顔をする。
家族はみんな優しいし、間違いなく自分は愛されて育った子供だと思う。
ただ、その家族すら、傷つけてしまうから、私のせいで、悲しんで、家族が怒ってしまう。
ー怒りの感情は、あまり好きじゃない。
告白された時に、いろんなタイプを見るけど、あまりいい気持ちには、ならない。
ー罪悪感で満たされていた心に、相手がいい人なら尚更、罪悪感で、捨て台詞や怒りがくるなら、やっぱり、なんか身体がしんどくなる。
正直、私の容姿は、そこまで優れてるわけじゃない。とくになにもしてないし、福岡にきたら、やっぱりそう思う。
まわりはキラキラしていて、同じ九州でこうなら、東京なんかの大都会では、また違うだろう。
ーそこなら、目立たずに、静かに生活できるのかな?
柴原さんみたいな、美少女がたくさんいるなら、私も目立たずに、生きていけるのかな?
柴原さん、大丈夫かな?
クレープを買ってた子たちと、ラーメンを食べてきた赤木くんたちがわいわい賑やかな中で、黄原くんが話の輪から抜けるよに、村上がいる自販機に駆け出す。
文化部だってきいたけど、黄原くんの足は速い。あとからきいたら、
ーいつも春馬を追わないと、いけなかったから。
よくわからない返事があった。
私もグループから抜け出して、柴原さんに駆け寄る。柴原さんは、
「クレープ美味しかった?」
って笑うけど、少し疲れた表情にみえた。だから、私はつい、手をのばして、柴原さんをギュッとだきしめた。
「明日菜?」
柴原さんがビックリした声をだして、私自身も驚いて身をはす。
つい、お姉ちゃんが、私に、いつも、やってくれてたやり方で、なぐさめていた。
「ごめん、柴原さんが疲れてるみたいだったから、つい」
「疲れてる?」
不思議そうに柴原さんがきいてくる。
「ーうん」
「明日菜にも、そう見えるの?」
「ーにも?」
他にも誰かに言われたみたいな言い方。って思って、ああ、そっか。
ー彼だ。
柴原さんがコーラーを飲んでた人。
村上春馬くんだ。
「村上くん?」
「まあね、明日菜と村上くらいだよ?」
「まて、俺をあっち側と一緒にするな?たしかに、そっち側でもないけど」
黄原くんが麦茶のペットボトルを手に声をかけてきた。そのまま私にペットボトルをくれる。
「春馬は喉乾いてなかったらしい。せっかく買ってやったのに、あいつ、ばっさり言うからなあ。神城さん、やるよ?柴原は、さっき春馬からもらってたよな?」
黄原くんは大丈夫だと思うけど、私はつい首をふる。
「気持ちだけで、嬉しいよ?ありがとう」
「じゃあ、明日菜。私のミネラルウォーターと交換して。お茶が欲しい気分なんだ。村上がくれたんだけど。まだ口つけてないけど、いらないかな?」
差し出されたペットボトルを、みる。
「柴原さんがもらったんでしょ?」
「あの場所に、私しかいなかったからだよ?明日菜がいたら、きっと明日菜にも買ってくるよ?そういう計算は、村上にできないと思うし?」
「まあ、春馬だから、自分ついでに、柴原の分も買って、おまえも春馬系なら、たんにコーラーが欲しかった、か?」
「たまにものすごく、コーラーって欲しくならない?シュガーレスタイプ」
「たまに春馬も言うけど、俺はわかんねー」
「って理由だから、交換しても村上なら、気にしないよ?」
「まあ、そういう理由なら、まったく気にしないよなあ、春馬なら。いちど人に渡したら、かえってこないって、極端に思うやつだし、俺には理解むりだな」
「それでも一緒にいるんだ、黄原は」
「慣れだ慣れ。というか、春馬を重いなら、離れていい、というか離れてくれって春馬のじぃちゃんから頼まれた。春馬がへんな遊びし始めたら、他の友達と俺は遊んでる。アイツはそれでいいみたいだし?その点、お前は難儀だな?」
「黄原っていいヤツだね?赤木より黄原選んだら、よかったかなあ?」
「俺は、釣れねーから」
「まあ、そうだね。いいなあ、村上は黄原いて」
「お前にもできるんじゃないのか?」
黄原くんがチラッと、私を見たけど、柴原さんは不思議な笑顔になる。
黄原くんは、じっとそれを見つめて、
「お前も春馬も、何を考えてるんだ?」
「考えてないよ?どっちかっていうと、神様のサイコロかな?」
「どういう意味だ?ってきいても、こたえないよな?まあ、いいや、これ、さっき春馬がくれたんだ。柴原と神城さんにも、やるよ?」
そう言って、黄原くんがとりだしたのは、
「あっ、その飴…」
小さなパッケージは見覚えがある。私はあまり好きじゃないけど、心配するお姉ちゃんとお母さんから持たされてる。
脱水やエネルギー補給のための飴。
あの日、はじめて村上くんの、
ー声。
をきいた日。
ヘンテコだけど、なぜか目を引く犬がくれたクロックス。
かわりにビニールにいれた飴。
ー覚えていてくれたんだ。
私は自然に笑う。そっか、彼はそういう人だね?
ー私じゃなくても、助けてくれるんだ。
少しの寂しさを感じながら、でも素直にうれしくて、
「ありがとう」
私は黄原くんがもつ飴を手に取る。
「神城さん、やっぱり春馬とー」
「明日菜、じゃあ、ついでに麦茶と交換ね?」
黄原くんがなにか言う前に、柴原さんが私の手にペットボトルをおしつけた。




