2日目 春馬 ④
ーこういうの、バイタリティーにあふれる?って言うんだったか?
とにかく、黄原と俺をのぞく、赤木たちイケメン?3人が神城になにかと、絡んでは、さりげなく柴原が話題を他の女子にふっている。
ーどっから、わくんだ?そのバイタリティー。
もはや、感心して、俺は黄原と集団のあとから、ついていく。
ー柴原、スゲェとしか、言いようがない。
し、俺は無意識に、下唇を前歯で軽くかんだ。
柴原にも、24時間ガードはむりだ。
そんなことをしていたら、いくら、柴原でも参ってしまうだろう。というか、もともと、中学生の柴原が、そこまでするほどの話じゃないはずだ。
そもそも、正義感とは、なんとなく違う距離にいるのが俺たちだ。
ルールはルールとして、守っていくし、反抗期とは違うけど、必要性を感じないなら、そのままルールを淡々と守る。
反抗するだけのメリットを感じないし?まあ、逆にみんなが守るルールでも、メリットが勝るなら、単独でそっち側になる。
基本的に俺たちは、群れにいない。最初から、群れからはぐれてる。だから、なんで、
ー柴原は、神城を守ってんだ?
って思うけど、バカだよなあ。理由なんか俺がいちばん、わかるだろ?
俺が巻き込んだくせに。柴原だって、あの日の俺だったはずだ。
神城の存在を、名前でしか知らない俺と違って、柴原は知っていたなら、もっと、ショックをうけたはずだ、
「赤木たち、めげないな?俺も声かけてみようかなあ?神城さんと写真とりたいよなあ?」
黄原がスマホ片手にソワソワしだす。なんだったかな?黄原は神城を好きとかじゃないらしいが、アニメキャラ?に似てるらしく、写真が欲しいらしい。
「だって、コスプレなしに、存在がコスプレだぞ?」
…どういう意味だよ?黄原は俺なんかより、ずっと賢いくせに、たまに、
ーわけわかんねー?
というか、たんに、俺が理解できないだけで、わりと黄原たちは、時代の先駆者みたいな気もする。
ただ、前に進むのか、その場にいて、ひとつを追い求めるのかは、わからないけど。
ーバイタリティー、は、同じか?
そして、俺にとって、神城は、
ーもはや天敵。
梅ヶ枝餅でそう認識したんだ。知ってるか?
ー食い物の恨みは、地獄まで続くんだぞ?
極楽なら、たぶん、食い放題だし?
餅の食い放題とか、大食いチャレンジは、さすがにないだろうけど。
餅はあぶないんだ。もともと正月に、邪気払い、神聖な食べ物だし、いまは一年中、スーパーに行ったらあるけど。
毎年のように年末になったら、ニュースで喉につまるから、注意ってながれて、とくに嚥下能力が下がった高齢者宅では、家族も居宅介護支援チームも気をつけてるけど、
ー隠してしまう。
し、もともとつまりやすいから、毎年、ニュースになるのに、なぜか、毎年、ビックリされるニュースだ。
なんのために、年末に注意喚起してるんだ?
って、親父が首を傾げてるし、俺もじぃちゃんが小さく切って、それでも慎重に食べてたのを知ってた。
美味しそうに食うから、食べられるなら、食べてほしい。だけど、あぶないし。せめて、見てる前で食べてほしい。
…つまらせたら、すぐ救急車よぶから。
俺は一口一口を真剣に食べてたぞ?似たような餅はたしかにあるけど、あの太宰府天満宮の梅ヶ枝餅だぞ?
ゴミ箱に、落とした奴は、カラカラになったから捨てたけど。
蟻にはごめんよ?だけど。わざわざ走って、買いに行ったんだぞ?
混雑していたから、本気で走りはしなかったけど。なんかスマホばかりみて、前見てない大人ばかりだから、子供達が避けまくりだけど。
ー親もスマホ見てるから、あたる。
あれ、どうすんだ?俺は当たり屋じゃないぞ?って、ヒヤヒヤしながら、買ったんだ。
それだけ苦労した梅ヶ枝餅が、地面にポトリ。わりとショックだったのは、仕方ないだろ?
ー蟻には、悪かったけど。
「やめとけよ?神城さん、男嫌いみたいだし、迷惑だろ?班の写真くらいなら、柴原が撮るだろ?」
「なんでだよ?せっかく撮るなら、ツーショットがいいじゃん?」
「それこそ、なんでツーショットなんかいるんだよ?修学旅行の思い出なら、班全員だろ?全体的にだろ?」
「ツーショットなら、彼女ドリーム見るくらい、自由じゃないか?」
「…俺、拘置所に、面会行かないから」
「なんでだよ⁈蟻の行列をスマホで撮ってるヤツより、ずっと健全だろ⁈」
「蟻をバカにするな?一匹の小さな蟻が食い物見つけて、やがて、でっかい行列で、食い物を巣まで運んで行くだぞ?リアル開拓大冒険だ!」
力説はしたけど。まあ、いいかあ。俺はチラッと神城をみる。
「万が一、ネットにでも流出してみろ?神城に迷惑なるぞ?あいつ、敵多そうだし?」
俺の言葉に、自然と黄原も声をおとした。
「そっちか。めずらしく、お前がよく話すな?とは思ったけど。たしかにな。俺のスマホは、わりとフリーに遊んでるよなあ」
黄原の親は課金にビクビクしてるらしいが、俺はいまいちコイツのスマホのセキュリティーがどうなってるか、わからない。
課金はしないだろうけど、黄原は新しいもの好きではある。
たまに、ゲームでいちばん強いって奴がいたら、課金ばかりしていて、強いキャラで勝ち進んでたらしい。一気にやる気が失せるらしい。
中学生には、到底できない勝ち方だよなあ。ってぼやきながら、まあ、そのために大人になるもありかな?って俺も思う。
大人になれば、働いて使う金は自由だろうしな。ガキの俺からしたら、大人はめんどくさそうだけど、自由でもある。
それに黄原は無課金で、いろいろなゲームアプリを落としていた。
黄原は工業系の高専を視野に入れて、将来へアプローチしてるらしい。
俺は素直に、それだけ夢中になれる世界が羨ましいと思う。
思いながら、
ー神城のネット流出は、たぶん増える。
個人レベルでは、いまは、まだ、たちうちできない。だから社会という強力な保護がいる。
プロテクトがいる。
相変わらず赤木たちをかわす柴原に、余裕ないよなあ?
俺は、立ち止まって、時刻表と、スマホの交通情報を照らし合わせる。
いまのところ、どれでもありか?
「どうした?春馬」
「いや、そろそろ腹減らないか?」
俺が少し大きめな声をだしたら、
「お腹はまだ減ってないけど、甘いもの食べたいね?」
柴原が足をとめる、
「さっき和菓子だったから、今度は洋菓子にしようか?明日菜?」
「…えっ?また、食べるの?」
「明日菜を太らせる、が、裏テーマなんだ」
「あっ、それいいね?真央!」
「明日菜はたしかに、痩せすぎだよ?」
「えーっと、マップ!マップ!」
異世界人が一気ににぎやかになったけど。
「そんな裏テーマはじめて、きいたぜ?」
赤木まであきれていた。甘いものと女子って、
ーバイタリティーすげくね?




