第6話 彼女と彼氏の好きなとこ
ーほんとうに、私は真央には、足をむけて眠れないなあ。
真央がいなかったら、きっとあの時には、春馬くんと別れていた。
それこそ遠距離恋愛で、別れたカップルの仲間入りしていた。
私のインタビュー記事は、そのまま変わらない事実を、つたえてただろう。
いまも別に、隠しているわけじゃないけど。
私は、本当にいい友達をもったなあ。
ーとは、思うけど・・・。
私は目の前の春馬くんと、ここにはいない真央に、言いたいことがある。
「いくらなんでも、距離が近すぎない?」
ちょっと前のドラマで、男女の友情は成立するのかって、テーマでオムニバスのひとりを演じたけど。ざんねんながら、私のドラマでは、成立しなかった。
ずっと、主人公と仲のいい友達同士で、でも主人公が遠距離恋愛になって、うまくいかなくて失恋して、近くにいた友達と―って、そのまま真央と春馬くんじゃないの?!
ふたりのことは、信頼しているけれど、
「なにも職場まで、同じにならなくても、よくない?」
ついぼやきが、漏れる。
真央は、もともといまの会社が本命だと言っていたし、春馬くんは、東京に本社がある会社を、私のために片っ端から受けていたのは、知っていたけど。
ーなんなら、真央が、
「あいつって、ホントにバカだよね?コロナじゃなかったら、うちの会社のスイスの本社で、3年間の研修があったんだよ?きっと、しらないよね」
って話してくれて、一気に全身の血がひいた気がしたんだから。
100歩ゆずって、宗谷岬とか、国内ならともかくスイスって、なによ?
どこまで、遠くに行く気なんだろう?
しかも、3年って。
「まあ、許してあげなよね?それだけ必死だったんだろうし?リモートでの就活、ほんとうに、きつかったんだからさあ」
って真央に言われて、就活をしたことがない私は、何も言えなくなったけど。
だって、私は中2からいまままで、ずっと特殊な仕事に、ついている。
そりゃあ、最近はOLや看護師や新米医師や教師役とか、そういう役も年齢とともに、増えてはきたけれど、私が演じる役は、まだまだ学生が多い。
なによりも演じる役であって、部分的にしか知らないことの方が多い。
もちろん色々な人の意見をきいたり、演技の参考に本を読んだり、それなりに努力はするけど。
「そもそも彼女の前で、他の子の存在が大きすぎるとか、言う?」
もう一度小声で、文句を言ってみた。
真央について、私がした意地悪な質問に、春馬くんの口からでたのは、私のプロフィールだったけど、
ー俺にとって、あいつの存在は、デカすぎる。
って、ふつうに言うかなあ。
「・・・言うか。春馬くんだし」
しかたないなあ。
自然と私の口がゆるむ。
ほんとうに、しかたないよね?
だって私は、そういう春馬くんがいい。
そういう彼じゃないと嫌だ。
誰の前だろうと、まっぐに大切な人は、大切だといいきる強さをもつ彼がいい。
それは時に空気をよめないとか、よまないとか評価されるものだろうけど。
それがなくなってしまったら、きっと春馬くんは、春馬くんでなくなってしまう。
私の好きな春馬くんじゃなくなる。
ー私が春馬くんを、きらいになることって、あるのかなあ。
というよりも空気をよめる春馬くが、想像できない。
違うか。空気は、なんとなく読めるんだよね?
あえて読まないのかなあ。
どっちだろう?
「ねぇ、どっち?」
眠ってる春馬くんに、問いかけてみるけど、たぶん春馬くんは、わかってないだろうなあ。
私が私のことを、よくわからないように。
だって、修学旅行で告白した時には、もう私たちは終わりを、意識していたんだから。
夏休みが終わるまで。
私が転校するまで。
そんな私のわがままを、春馬くんは下唇を前歯で噛んで、頷いてくれた。
修学旅行の二日目の夜に。