2日目 春馬 ①
俺は解散の声とともに、かけだした。
なぜなら、さっき、柴原に捕まった。
「村上、足はやかったよね?走りになってくれない?」
「赤木に、たのめよ?なんで春馬なんだよ?」
俺のかわりに黄原が、嫌そうに柴原に言ったけど、そういえば、こいつ、めずらしく、言い返してたよなあ?
「梅ヶ枝餅、か?」
俺がきいたら、柴原は、うなずいた。
「そう。赤木に頼んだら、嫌だって。それに、アイツにたのんだら。無駄に時間かかるし?」
まあ、たしかに、赤木は、むだな寄り道を、しそうだな?
ラッシーとは、違う意味で。
「柴原も女子じゃはやい方だろ?春馬使わないで自分で行けよ?」
黄原がまた言う。めずらしく言い返すのは、たぶん、赤木に俺が絡まれないため、だろうなあ。
俺が黄原以外と、話すのが珍しいらしく、少し柴原と噂になりかけてるらしい。
黄原は、無駄な争いを好まない。むかしから、俺をフォローしてくれる。
世話すきなんだろうなあ。ほんとうに、いいヤツだけど、じいちゃんとイタズラしても、異世界人は黄原には、怒らない。
というか、危ないって、異世界人に告げ口?注意?してる本人だしな。
ー保護者いないと、危ないぞ?
が口癖だったけど、
ーじいちゃんは、保護者じゃないのか?
地味に、落ち込んでたよなあ?じいちゃん。
「私は班長だもん。抜け出せないよ?」
「その班で、行く場所、決めただろ?」
「だから、村上に、頼んでるよ?」
「なにが、だから、だよ?春馬がなにも言わないからって、走りにすんなよな?」
黄原が言うと柴原は、首をかしげた。
「ちゃんと、言ってるよね?村上は」
「…お前、彼氏、赤木だぜ?」
「まあ、ね?」
さらりと柴原がかえすと、黄原は、複雑そうに、俺と柴原を見比べていた。
そんな黄原に、柴原は笑う。
「私は明日菜を、赤木たちから、守らないといけないからさ?」
「神城、参加すんの?」
黄原が少し驚いてるけど、俺は首をかしげた。
「なんで?参加するだろ?」
「いや、神城いっかいも、話し合い来なかったし、当日、ぶっちもありかな?って」
「お前、神城と写真撮るって、張り切ってなかった?神城さんて、参加しないなら、最初から修学旅行自体を、休むよな?」
「あたり!だからさ?私がガードしないと。明日菜より、さすがに、私を無視できないでしょ?赤木もさ?」
柴原が黄原に、器用に片目をつぶる。
最初、テレビでみたとき、目になんか入ってんのかと、おもったし、リアルでやるヤツいるかな?
ーいたな。いま、目の前にいた。異世界とびこえてきた珍獣。
そんなことを思い出しながら、俺は柴原が手にしてるスマホを覗きこむ。
思ったとおり、地図がのってる。航空写真みたいな地図は、少し見づらい。
だって、下から、屋根見えないしなあ?これ、たぶん、コツがいる。
そんなことを思いながら、自分のスマホで、その画面をカメラでとる。
「同じ機能つかえよ?」
「こっちがはやい。3件は、むりだと思う」
「村上の足でも?」
「小さな子いるから、あまり走りたくないし、たんに並ぶだろ?」
「じゃあ、ここかな?」
柴原が2件指差した。
斜め向かいの2件だ。まあ?いけるか?
「買うのは、5個ずつでいいよ?男子、女子でわけるから。私は明日菜か赤木からもらう」
「神城さん、食うのか?」
ついラッシーがもらった変な味のキャンディーを思い出す。
あんなもん食うヤツが、あまいお菓子を食うのか?
「さあ?明日菜、あんまり、食事に興味ないみたいだし、わからないかなあ」
「春馬と同じか?」
「俺は味は、わかるぞ?」
「明日菜が味音痴みたいな言い方だね?」
「だって、アイツー」
いいかけて、考えなおした。
だって、もらったの、
ーラッシー。
俺にくれたわけじゃないし、ドックフードは、微妙な味が多い。
ラッシーはうまそうに、食い過ぎだと、俺は思うんだ。
あんなにうまそうにくわれたら、誰だって、
ー食いたくなるだろ?
食って、後悔するだろ?
あんまり美味くない、は、俺だけかなあ?都会には、愛犬と人間が食えるクッキーあるらしいし、愛犬家の親戚は手作りフードみたいだし。
あっちは、うまかったけど、異世界人から、怒られた。
たんに、犬が食う分がなくなって、しまうから。
「春馬?」
黄原が俺を怪訝そうにみるから、俺は首を左右に振って、なんでもないとしめす。
神城で口を開く気には、ならない。
「お金、いまわたす?」
「いや、次によるとこで、奢ってくれたらいい」
「女の子に奢らすの?」
「いまさら?」
そもそもお小遣い制だろ?自分で稼いでる中学生は、たぶん、そんな余裕ないぞ?
いや、いまから神城がすすむ世界なら、いるのかな?
俺はつい腕時計をみる。じいちゃんの形見のカシオ。プロトレック。
山登り用の耐久性に優れた時計だ。じいちゃんが亡くなる前にくれた。
電波時計。
ただ、不思議な電波。方位形もついてるけど、使わないよな。
いまの時代、スマホでたぶんいける。ただ、タフソーラーだから、山で迷うならないよりマシだ。
使わないですむがいちばんだけど。
毎週とある日時にある天気図を書くラジオ。
あれは登山家には欠かせない。地図を読み、天気をよみ、
ー山の気候は変わりやすい、
でも、
ー海風も変わりやすい。
ぎゃくに都会は読みやすいのかな?
太宰府天満宮の空は、青空だけど雲がかかってる。
「じゃあ、またあとでね?頼んだよ?村上。あと、私たちが合流する時には間に合ってね?」
「ーめちゃくちゃ、じゃねーか?」
黄原が突っ込んだとき、集合の合図がかかった。
「あっ、行かないと。トイレついでに寄っただけだし」
「トイレついでに走りかよ?春馬」
「あははは。まあ、頼んだよ?」
柴原が笑って俺を見るけど、俺は黙って頷いた、
それくらいは、するさ?
時刻表やその他すべての気象やアクシデントをいまから計算して、班長として、引っ張ってくのは、柴原だし。
俺はただ、くっついて行くだけだし。
最後に一言だけ、会話できたらいい。
そう思ってたのに、目当ての梅ヶ枝餅をダッシュで買ってきたら、目の前には、あの日みた瞳をした神城がいて、
ー寒そうで。
だから、つい、頬に梅ヶ枝餅をあてたら、悲鳴をあげて振り払うから、野球部のおれは、反射的におちる梅ヶ枝餅をキャッチして、
ふと見上げたら、神城がいた。
はじめて、直近にみる神城は、へんてこな髪型をしていたけど、
黒髪に太陽の光が反射したのに、
ーああ、神城だ。
泣いてない。
ビックリはしてるけど、
あの日みた白い煙みたいな、薄い雲の隙間から、空がのぞいていた、
「ー空、色?」
あの日、ラッシーとほった穴で、くるくるまわるネズミ花火。
真っ白な煙がただ、くやしくて、さむくて、
けど、
ビックリした神城が俺を見下ろして、
けど、
変な髪型の神城の髪越しに、
ああ、
ー太陽が、空を照らす。
ー空、色だ。




