第10話
結婚式は計画どおり?村上殴られて、おわり、
場所は、隣にはある披露宴会場に、移った。
明日菜と村上がお色直しをしてる時間、私たちはセッティングをいそぐ。
村上にとっては、いちばん、叶えたい夢のひとつだ。
むしろ、このために、結婚式もどきを明日菜に、サプライズしてる。
しあわせな記憶とダイレクトにつなげちゃえ、ただ、楽しい時間だと私だって、明日菜にそう思って、ほしいんだ。
イケカマ係長の作戦通りに、すすむかは、わからないけど。
ー明日菜は、生真面目で優しいから、たぶん、そうなるけど。
「どうかなあ?」
親友としては、ちょっと、
ー強引すぎない?村上?
って、思うけど。まあ、明日菜より、あいつに、サプライズを用意してるから、いっかあ。
うちの職人長が張り切ってた。
幼い頃から私に料理の不思議をたくさん教えてくれた人。
私にとって、手品師みたいな職人さんたち。
ー手品みたいに、不思議に変化して、美しくて、繊細な味が、人々を魅了する。
不思議な日本の和菓子。
ーどうして、私は職人には、ならなかったんだろ?
ーどうして、村上は、教わってたくせに、あんな変な味をつくるんだろ?
そしてなにより、
ーそんな村上のお菓子を、職人さんたちは食べて、お腹を下すんだろ?
私と明日菜は、絶対に村上のお菓子は食べたくない。
そう思いながら、私はパソコンのモニターで、最終チェックをする。
・・・こんなふうに、役にたつとは、思わなかったな。
進化って、不思議だ。
素直に感心していると、イケメン先輩が苦笑する。
私がちらっと見上げると、大きな手が私の頭をくしゃっとなぜるから。
「・・・くさいです。先輩」
「ええっ?とっておきの香水つけたのに」
「・・・森林のにおいなんて、ジャングルにかえるつもりですか?」
「ハンティングしにくるだろ?真央は」
そう笑う先輩は、やっぱりくさい。
というか、私が苦手なだけだけど。
私のあの宝物のうんこは、平気なのに。先輩のにおいは、いまだに好きになれない。
たまに他の女のにおいにイラっとするけど、単純に、先輩は満員電車や人込みをいどうするから、どうしてもにおいが移るときもある。
先輩を自分のものだって思うことは、ないけど。好奇心からこういう展開になった私だけど、先輩は、違うけど。
ーもし先輩に、であわなかったら、私は、どうしていたんだろ?
素直に明日菜と村上を祝っていたのは、わかるけど。
私と村上は、なぜか世の中に、勝手に白黒に表現される。
ーいつからオセロで、いつから、虹色で、いつから、
グレーゾーンって、言われるんだろ?
不思議な色のグレー。
灰になるから灰色。
けど最近のブームをみていると、ゾンビが多い。
ゾンビは、ゾンビで、灰にはならない。
むしろ陽の光をあびて灰になるなら、有名なドラキュラだろうなあ。
そのむかし、白人を見たことがなかった日本人は、赤ワインを飲む場面をみて、吸血鬼を信じたらしいけど。
日本酒には、たしかに色がないかなあ?
私はつい献血車をみたら、無料で血液検査だ!ラッキーって思っちゃうけど。あれ、成分献血すら、なかなかパスできない。
血液の比重がかるい。私達の宝物を生んだ時も、あやうくその輸血に、お世話になりかけたけど。
まあ、無料で血液検査してくれるラッキーさはあるし、キャナルシティ博多に、たしか献血ルームがあって、わりと快適だったりする。
ただ、あれは自分が健康じゃないとできないものでは、あるしなあ。高校の頃、生徒会って、だけで足を踏み入れた場所だし?
コロナ禍だけど、いまはもう簡易的な手術なら、手術室まで抱っこして、手を握って、あまいバニラのにおいがする麻酔薬がきくまで、そばについててあげられる。
リカバリー室でやっぱり目が覚めた時に一番に見てあげられる。
いろんな人たちを、リカバリー室でみて、不謹慎だけど、不謹慎だけど、
ー懐かしいなって、年齢で思う時がある。
外出先で、私達の宝物か泣いちゃうとき、あわててあやすけど、泣き止まない時、焦るけど、
ーあらあら、懐かしいわ。うちの子にも、こういう頃があったのよ。
にこにこして、いってくれる人がいる。
ーいまはコロナであえないけど、ちょうどこれくらいかしら?
うれしそうに重ねる笑顔がある。もちろん、謝るけれど、ふと気づけづば、あたたかな眼差しの方が多い。
うちの子は癇癪が激しい。
イケメン先輩は、本気で引っ越しを考えている。村上のところに。
まあ、あのマンションは、特別かもしれないけど。
おなじ白と黒からできるくせに、イケメン先輩は、
ーシルバーバック。
ーシルバー。
銀色に輝くのにさ?
私や村上は、同じ白と黒を混ぜるのに、
ーグレー。
だけど、
灰色は、白色と黒色とおなじく光のみで色彩がない、
ー無彩色。
とも呼ばれる色のひとつ。
混合比率を変えることでいくらでも、色のパターンをつくりだせる、
ーグレー。
グレーゾーンの子供たち。
シルバーバックの先輩は、たしかに金やプラチナみたいに、輝くのかもしれない、
それ自体が輝いているかもしれないけど。
「あっ、到着したみたいだよ」
私のシルバーバックがそう言って、私はパソコンのキーをひとつ、たたく。
結婚式の明るい雰囲気の曲が流れて、意外と歌唱力がある明日菜の後輩たちが歌いだす。
ー若くてもプロなんだなあ。
村上のお隣の子供たちが、目を輝かせている。
「新郎、新婦の入場です」
私はマイクをとおして伝える。あたたかな大きな拍手につつまれる。
コロナで大声は出せなくなって、けど人々はその代わりに、打楽器を鳴らす。
音をならすことは、やめなかった。
いろんなリズムがこの約三年間、リズムを刻み続けた。
言えない想いをただ、拍手にこめて、私は見守る。
明日菜が来ているのは、シックな灰色のドレス。
でも金星のように、夜空にひときわ輝くような、明日菜が着たら、グレーがいっそう輝いていく。
村上が大好きな月の境目。
圧倒的な白と黒の狭間に。
ーそのグレーに、ただ息をのむ望遠鏡の世界がある。
月のクレーターよりも、何倍も、光って、そして、圧倒的な黒を、輝かせる狭間の光。
ーグレーゾーン。
虹色界隈の子供たち。
そう呼ばれるかも、しれないけど。生きにくさは人一倍、むかしから、あるのかもしれないけど、
ー明日菜だって、生きにくいんだよ?
誰だって、つらくて、それでも、生きてくんだ。
誰もが幸せな世界は、ただの理想かもしれないけれど。
ーそれを手に入れたいって、願ったって、いいだろ?
ただ、願って、いいだろ?
そう村上は、笑っていた。
村上が選んだシックなドレスは、けど、13歳の明日菜とはもう違う。
大人になった明日菜は、可憐に、けど、とてもきれいに着こなしていて、となりにたつグレーのタキシードをきた村上を導いて、やっぱり、輝かせている。
ううん?村上が明日菜を輝かせているのかな?
私達、福岡支社はプロジェクトを、いま根本的に、見直しをかけはじめた。
多くの大人がいま、不登校とむきあっている。さまざまなことが少しずつかわりはじめて、けど、
ーやさしい夢ばかりは、みていられない。
ーやさしいリアル、ばかりじゃない。
それは、もうすぐに子供たちの耳に、目にはいる。
そういう時代に、もうなっている。
それなら、
ー不登校をうみださない取り組みを考えていく。それは、ほんとうに、夢のプロジェクトで、とても傲慢で、それこそ、
ー卵が先か鶏が先かって、よくわからない話にもっていく、かもしれないけど。
いまの科学者がタンパク質から、解明していったように、いつかは、どこか突破口が見つかるかもしれないし、
ー生きているうちには、無理かもしれない。
それくらいひとりひとりが、個性がちがう。
ーそれでも、
私の大切な親友たちは、いまこの瞬間、世界中の誰よりも、きれいに輝いている。
ねえ?
明日菜。
ーもう、寒くないよね?
いつかまた、南九州の片田舎に、あつい太陽の陽ざしに、巨大なハエにびっくりするあの故郷に、
一緒にかえろうよ?
村上のあの車に、私のシルバーバックは狭すぎるから、レンタカーでもかりてさ?
のんびり23個のトンネルをこえて、そうして、トンネルをぬけたら、
ーかえりは、またながいトンネルがある。
けど、もう二車線できれいになったからさ?
ーゆっくり帰ろう。
だいじょうぶだよ?
ーうちのシルバーへバックは、運転も優しいんだ。
「ーしあわせそうだなあ?」
そうやさしく毛むくじゃらが言う。
「うん、だって、初恋が実るんだよ?」
「それもあるけど。真央がしあわせそうだね?」
そう先輩が笑って、でも、ちょっと心配そうな顔をした。
「けど、村上くんに、あのイタズラはどうなんだい?」
「だって、明日菜だけ、は、ダメでしょ?私は村上より、明日菜の味方だよ?」
「僕もそっちの方が安心だけど?」
ーきみたちは仲が良すぎる。
そう先輩が少し不満げに言うけど、
「あきらめて?」
「じゃあ、僕と明日菜ちゃんが話すのもあきらめて?」
「いいよ?」
私が即答すると、先輩は苦い虫をたべたゴリラみたいに眉間にしわをよせて、でもため息をついて、しかたないなあ、って笑うんだ。
「こればかりは、明日菜ちゃんに、同情するよ?」
「そのぶん、村上にたっぷりお返しするから?」
「ーきみは無傷なんだな?」
「私の罪は一生、村上が償うから、だいじょうぶ」
だって、私はあいつの国宝だ。
国宝は、逆からみても国宝だ。
さかさまに見ても国宝で、
ー世界規模はわかんない。
たった、ひとつだけ、わかることは、
ー灰色のドレスをきた、明日菜は、とても輝いていて、しあわせそうに笑ってる。
まあ、このあと、どうなるかは、わかんないけど。
いや、明日菜は、短気だからわかるけど。
ーなんで私に任せるんだろ?
私が動かないわけないよ?
だって、私は明日菜のかなしみも見続けて、無視し続けるあんたに、怒りもしたんだよ?
まあ、怒りは、いちばん無駄なエネルギーで、けど、なによりも強いエネルギーだけど。
ーあんまり得意じゃない。
お山のてっぺんから見下ろすサルよりも、私や村上は、電柱のてっぺんから、まわりを警戒してみわたす目立つサルだ。
高い建物はみあげて、低い場所は見下ろして、けど、たまに二階の窓にいる相手とは、目が合って、びっくりして、いろんな線路を伝って逃げる。
電信柱のてっぺんのサル。
電波塔のサルではない。
北米や欧州にも野生のサルはいなくて、ニホンザルは貴重。
そして、
ー見ざる。
ー聞かざる。
ー言わざる。
ーサルは貴重で、
・・・いないのになんでハンティングしたいの?
北海道育ちの大学の友人が、ゴキブリに興奮していた。
ーあの心境かなあ。
もしも砲弾じゃなく、保護ネットに変えられるなら、
ー誰もなににも傷つけずに、
モンキーハンティングは成功するんだろうか?
でも結局は、どんなにネットをはりめぐらせても、かいくぐるモンキーは、いるだろうから、私のシルバーバックは、私だけのシルバーバックでいい。
電信柱の上からこんにちは?
は、私には先輩だったけど。村上はー。
電信柱の上に上って、じっと夜空の星をみあげる群れからはぐれたモンキーだったのかな?
そうして、新しいWi-Fiやたくさんの波に、風にふかれて、
ー怯えて凍りついた村上の心を癒してくれたのも、
明日菜だよ?
そして、ふたりの想いのつよさに、私も憧れて、いまはイケメン先輩と私たちの大切な宝物をまもっていく。
いつかあの小さな輝きが、儚い瞬きが、いつかは、大きな力となれるように、ただみまもり、けど、導いて、時には、泣いて、怒って、たくさんの感情をいま私にくれるんだ。
ーひとの気持ちがわからないアスペルガー。
そういうのなら、
ーどうかそれをいう人たちに、優しい世界であってほしい。
そう思うんだ。
ーそれが人の心だというのなら。
そう信じさせてほしんだ。
もう私と村上は、生きる術を手に入れてる。けれど、これから未来を生きていく子たちに、
ーどうか夢をみさせてほしい。
ただ、存在する心を信じさせてほしい、
ーひとの心をわからないというのなら。
ー優しい世界をみせてほしい。
そう願っている。




