第7話
ーなんで自分から、その方向を選ぶわけ?
私はあきれながら、焦りまくる村上をみる。
まあ、なにを考えて、そうなったのかは、わかるけど。
ー痛いの嫌い。
も、わかるけど。
となりの明日菜に、
ーほんとうに、コイツでいいの?
って聞きたい気持ちが、つい、でてくる。
まあ、明日菜は、
ー春馬くん以外は、いらない。
即答だろうけど。
私だって、いまさら、明日菜や村上の相手が違うなんて、想像すら、できないけど。
私はチラッとイケメン先輩に、目をむける。
みんなが呆れてる中、イケメン先輩だけ、ハラハラしてる。
やさしい私のシルバーバックは、群全体に今日もやさしい。
ーいまさら、私もイケメン先輩以外を、まだ、考えたことは、ない。
いまからさきも、は、わからないけど。
なにかを確約することが、私は苦手で、未来予想図がえがけない。
決まり切ったルーティーンが大好きで、ハプニングには、弱い。
予想範囲内でのハプニングには、強いけど。
予想範囲がたぶん、違う範囲になるから、わけわからなく私は、なる。
あの日、明日菜がマネージャーさんにスカウトされたとき、予想外に村上が抵抗しようとした時も、少し焦ってた。
まあ、少しだけど。
いまは、毎日、よく焦ってる。私とイケメン先輩の宝物に、焦ってる。
笑ってる。
落ち込みもする。
ただ、そのすべてをイケメン先輩が、やさしく受け止めてくれる。
イケメン先輩は、稀有な人だ。
ー福岡支社も、みんな、やさしい。
私たちがなにを考えてるか、きかずにいてくれる。
ただ、存在を認めてくれる。
それは、私たち以上に、たくさんの人生の経験値とみてきた世界の違いなんだろなあ。
私や村上の世界は、せまい。
わかってる。
いくら、世間で流行っても、ニュースになっても、ひとめみて、興味がわかないなら、知りもしない。
ただ、そうしなくちゃいけない、って理解したら、流されてしまう。
は、私はある。村上には、ない。
私は、男女の関係も、いろんなことも、誘われたら、なんとなく抵抗できない。
ーそういうもんだ。そう思ってしまう、流されてしまう。
ふつうに、流れにのる、ふり、をしてないと不安になる。
でも、村上は、そういう面はない。
ないから、フォローをしてくれる。
どんなに正体不明のヒーローでも、その製造者や、魔法使いや、宇宙人とかさ?
人間じゃないかもだけど、正体が完全に不明なヒーローなんか、いるのかなあ?
まあ、いるのかな?
世界中のすべての民話や神話を調べたことないし、一生かけてもすべて知るは、むりだし?
世界を知りたいとも、思ってみたけど、
ーなんか疲れる。
も、正直にあった。
いまは、私の大切なシルバーバックの帰りを宝物と、うとうと待つ時間が大好きだ。
ミルクの甘いにおいと、たまにヨダレでベタベタになりながら、私は抱っこする。
生まれたその日から、どんどん変わっていく顔立ちを、シルバーバックとにやけながら、みつめるんだ。
ねぇ、明日菜?
ただ、それがいまの私には、幸せで、私にも、
ーイケメン先輩以外は、考えられないよ?
いま、は?
かなあ。
どうしても、さきのことは、私には考えられないけど。
さっき、真正面から、明日菜が明日菜のお父さんとバージンロードを歩いてきたけど。
逆から真正面にみるとは、思わなかった。
ーお前以外、誰に俺、言うの?
あんたのマイブームのウシガエルにしたら?
あれ、音を改造してるよね?
って思ったけど、村上なら、
ー柴原が言うならやるか?
ってなるから、言わなかった。
さすがに明日菜が可哀想だし、なら、イケメン先輩のお祖父さんは?だけど、それも可哀想だ。
ただでさえ、変な挙式になるに、決まってる。
まあ、ふたりをずーっとみてきたんだから、私でいいかなあ?だった。
だって、私がみてきたよ?明日菜の代わりにずーっと、村上をみてきたよ?
だから、村上がなぜ、この3人を選んだのかもわかるけど。
ーふつうは、私だけのはず?
村上を産んでくれた、村上のお母さん。
明日菜を育て守ってくれた明日菜のお父さん。
ー成り行きで、神城明日菜ファン代表の、うちの日本支社長。
ー村上の場合、神城明日菜ファンとしてだろうけど。
ねぇ?
明日菜。
村上はさ?
ずーっと、見てきたんだ。
悔しそうに、かなしげに、いつも下唇を前歯で噛んで、私にスネをけらせてさ?
そんなに辛いなら、
ー目を閉じちゃえ?
ー耳を塞いじゃえ?
ーいっそ、すべてを、口に出しちゃえ?
…ほんとうに、あきらめちゃえ?
そう思ってしまうほど、ただ、明日菜のウェディングシーンを見てきたんだ。
たくさんのファンにまぎれて、悔しさに、もがきながら、だけど、それが明日菜が決めた道なら。
ー明日菜が決めた、から。
あの日に、私と村上が明日菜を、もっとおいつめた。
一度は、救えたはずだったんだ。
ほんとうに。
そう思えたんだ。
加納さんをはじめ、東京で、たくさんの明日菜を守ってくれる大人がいて、明日菜は故郷をはなれて、けど、輝いて、
ー南九州の片田舎じゃない、けど、離れてもないこの九州で、福岡で。
お疲れ様?明日菜?やすめた?
そう迎えるはずの18歳。あの日。
ー嘘が真実をこえた、んだ。
私も村上にも、明日菜がわからなくなった。
ーほんとうの、明日菜はどこ?
ただ、わかんなくて、それでも明日菜は、明日菜で。
ー明日菜だったから。
ただ、明日菜だったから。
村上は、あきらめちゃダメだって、そう私も言い聞かせた。
私はふたりの間をつなぐしかなかった。
私は、決めないよ?
毎回、村上にそう言い続けた。
だって、
ーそれは、逃げ出せるけど、ずーっと、心にひきずり続けちゃうよ?
誰かに何かを決めてもらうのは、ほんとうに、楽なんだ。
いま、ふつうに、たくさんの情報がある。
ー嘘が真実になる時代に、かんたんになった。
むかしは、もう少し時間がかかってたと思うし、いまも、昔も情報は、かなりのお金になるんだ。
たやすく国家単位で、ひっくりかえるけど。
やさしい情報や嘘もたくさんあるなら、
ー嘘が真実。
でも、いいのかなあ?
そう思う時もあるんだ。
たくさんの記事が、ネットが絶望の鐘を鳴らすけど、
おなじくらい、たくさんの幸せの鐘も鳴らしてる。
ーあんたんとこは、お金があるから、延命を選ぶとたいな。
…それは、たぶん、違うよ?
遺書でも書いてくれないと、無理だよ?
ー亡くす恐怖に耐えれる人は、決断をいざできる人は、
ーたぶん、思ってるより、かなり少ない。
その延命措置の残酷さを、医師もわかってる。チームケアのみんながわかってる。
けど、さ?
ーそのご家族を亡くす恐怖は、わからない。
その歴史を私たちは、個人ファイルの書面やデーターでしか知らない。
から、
ーなんにも、言えない。
あんな風までして、生きたかなか。
ーたぶん、みんなそうだよ?
元気な時に、たぶん、みんな、そう思うはずなんだ。
だけど、
家族、なんだ。
遺書でもないと、無理だよ?
違うか、なんて言うんだ?
エンディングノート?も違うか気もするけど。
ウェディングロードがあるなら、エンディングロードもあるんだろうか?
ねぇ?明日菜。
私たちは、見たくないドラマや映画があるんだ。
もちろん、村上は恋愛映画やドラマもだけど、
ー明日菜が死ぬ。
は、見たくないんだ。
私と村上は、暴力も苦手だけど、人が悲しんでる姿も苦手なんだ。
ーお前は人の心がわからない。
散々、言われて育つけど、
ーだって仕方ないじゃないか。
見るのも嫌だ。
いやなんだ。
ただ、嫌だって、思うんだ。
ただ、終わりしかない世界なら、いっそ、消えちゃえ?
って思って、
ー消えるの?は、嫌だな。
って、素直に思うんだ。
だって、村上や、明日菜がいる。
いまは、イケメン先輩も、何より私の宝物がいる。
ねぇ?明日菜?
ーほんとうに、コイツでいいの?
私が苦笑いしたら、明日菜が私を振り返って、首を傾げる。
そして、目があったら、こまったように、けど、やっぱり、
ー村上をみて、しあわせそうに笑った。
ねぇ?明日菜。
アイツがいま、焦りまくってる理由は、
ーただの嫉妬が原因だよ?
自分で自分に嫉妬して、どうすんの?
って、私はあきれながらみてた。
そうして、やっぱり、
ーしあわせだよ?私も。
そうふたりに笑うんだ。




