第5話 すいません、修正しました。
相変わらず、変なヤツだ。
俺は壇上の娘婿をみながら、頭痛がしそうになる。
さっき、いわゆるバージンロードを歩いて、明日菜をこいつに預けて、託して、大丈夫かと、本気で思った。
なぜなら、明日菜抜きで、控え室で両家で、はじめて顔合わせをしたとき(地元だから、ヤツのご両親には、会って挨拶をしてる)、ふざけたひとことを、言いやがった。
ーバージンロードって、結婚してもからも歩くのか?
無言で殴ったヤツの兄を、俺は内心で褒め称えた。
だってあれ、日本でしか通じないぞ?和製英語の代表だし?いま、意味あんの?
いまの花嫁って無垢なのか?明日菜はともかくー?
って、ぼやいて、また殴られていた。
まあ、たしかに、あれは男の浪漫か?無垢な花嫁。
けど、どうなんだろ?俺には、柴原も無垢だしなあ?
って、本気で首を傾げて、
ーはいはい!私もずーっと無垢だよ?
朝陽が悪ノリしていた。
こっちは、うちのやつが軽く小突いていた。
複雑さが一気にまして、納得した。
ふつうに、
ー花嫁のための通路。
ウェディングロード。
過去、現在、未来、に繋がる道。
そう言いやがる。
ー俺は、過去かよ?
苦い思いで俺は、その言葉を、
ーふつうなら、結婚式のスタッフさんとかに、きくんじゃないか?
なんで、こいつから、きくんだ?
しかも、
ー過去⁈
俺はいまからも、明日菜の父だぞ!
まあ、花嫁が扉の前に立つのは、母親のお腹にいる時をあらわす、ベールダウンで、ゼロになる。
そうヤツは言った。すべてをゼロに戻して、扉が開いて、明日菜の過去を、現在を、未来を、
ーつなげるロード。
それが、バージンロード。
ウェディングロード、
ー花嫁のための道。
そう説明してきた。
ー明日菜の過去を、過去として、受けとめる。それごと、俺が一緒に歩いていく。
そう、ヤツは言いきった。
ー俺は、過去かよ?
ちくしょう?
絶対に、初孫は、女の子がいい!
ーおまえも味わいやがれ?
なんで、かわいい娘を、こんな奴に、託すんだ?
ー俺は、過去かよ?
納得がいかない!
そもそも13歳で大都会にやった娘だぞ?
なんでこんなヤツに、いまさら過去扱いされなきゃ、いけないんだ!
ー俺は、過去かよ⁈
納得が、いかない!
…きっと、結婚式場のスタッフからきいたら、納得したかもしれないが。
ーなんで、こんなヤツからきかなきゃ、いけない⁈
ー俺は、過去かよ⁈
納得が、いかないが、
くそったれ!
アイツが、俺とともに歩んでくれる女房が、編んだレースのベール。
ーせっかく、きれいなんだから、表情が見えてもきっといいわよ?
そう笑って、丁寧に、けど、大雑把にぬいあげた。
ベールダウンしたくせに、明日菜の顔がよく見えちまう。
そりゃあ、正式な結婚式じゃない。
その証拠に、あいつは、ウェディングロードに、
ー太陽のタマゴ色。
を、持ってきやがった。
食えないぞ?あんな高級品?しかも、なんで、中身だよ?
赤色と青銀のシールはどうした⁈
いや、たしかに、おまえは、無宗教だろうけど、
悪魔祓いは、わかるが。
殺虫剤は、いやだ?
なんだよ?それは?
ー南九州の片田舎は、たしかに陽射しが違うけど。
殺虫剤代わりのウシ様は、いやだった?
タマゴもなんか思い出す?
ーウシガエル。
ふざけてんのか⁈
なんで、こんなヤツに大切な娘をやらないといけない⁉︎
まじめにきいた俺がバカだった。
しかも、
ー俺は、過去か⁈
朝陽が大爆笑しているが、頼むから、おまえは、まともな、旦那を連れてこい⁈
ーお父さん、私は和式にしてあげる。
それでも、披露宴で演出なかったか?
知らないが、てんこ盛りだろ?
一生にいちどなら、まあ、何回でも?いまなら、ありだろ?
ー親としては、こんな想いを何度もは嫌だが。
俺は、過去かよ?
そして、現在のお前にたくすのかよ?
ーおまえと、明日菜は、未来を歩むのかよ?
そうさ?
あの日だって、いつだって、扉の前に、ただいたさ?
ーオギャア、って泣き声に、泣いたのは、いつだった?
ああ、そうさ?
あの扉かよ?
ああ、そうさ?
あの時、ほんとうに、
ーゼロ、で、誕生したんだ。
妊娠から、誕生。
明日菜が生まれる前に、ゼロにもどった命がある。
ー俺には、わからなかった哀しみがある。
それを生み出したやつが、ベールダウンして、
ー俺に権利を譲ってくれたんだ。
ああ、そうさ?
そうだ。
ーあの日、カウンターは、
ー0。
を、刻んだ。
あの扉が明日菜を、0にもどして、俺は、
ー過去だけど、マイナスとマイナスはプラスになって、
くそっ!
ほんとうに、くそったれ!
ほんとうに、くそっ!
なんで、こんなやつに託すんだ?
なんで、こんなヤツにー。
ーウシさまの色を、もってこないだけ、えらくね?
奇妙な納得をひとりしているヤツに、
ーそもそもなんだよ?ウシガエル。
おまえの好物なのか?
呆れ果てすぎて、
ー俺は、食うなら、太陽のタマゴがいい。
それをくれるなら、
ーまあ、いいさ?
陽太と朝陽に、見守られ、輝く太陽の光に、たくさんの笑顔をみせてくれるなら、
ーいいさ?
ー過去には、ならないぞ?
いや、たしかに、過去だけど。
ー俺たちしか知らない明日菜だぞ?
アイツのお腹に宿った命が、ただ、儚くて、俺は何にもできなくて、
ーもう一度、宝物をくれたから、おまえが大切に磨き続けるなら。
扉がひらいた、
ー0。
を、ふみこんで、
マイナスとマイナスを踏み締め、噛み締め、
ー現在のお前に、託すさ。
いつか、おまえも味わいやがれ!
くそったれな、未来を。
ーありがとう、よ?
俺もみてみたいさ?
はじめて、長生きしたいって、思った。
ー陽太がいつか結婚したら、絶対に、大切にしようと思って、
ーこいつと、朝陽の相手は、絶対に気に食わない。
ただの嫉妬だ。
仕方ないだろ?
ー俺は明日菜の親父だぞ?
くそったれ!
 




