第3話 彼女とインタビュー
「神城さんの初恋は、いつですか?」
インタビューで、もう耳にたこができそうなくらい、よく聞かれる言葉。
その度に、私はこうこたえる。
「中2です」
そうして、必ず続く言葉は、
「神城さんくらい可愛いと、初恋は、実った?」
からかい半分の言葉に、私は笑顔でこたえる。
「はい、実りました」
そこで相手が、少し戸惑うのも同じ。
いま大人気の清純派女優なら、叶わなかったとか、嘘でも言うのが、ふつうだと、私にもわかっている。
相手は、チラッと、私のマネージャーに目線を送るけど、いつもマネージャーは、苦笑するだけ。
ーだって、
「でも私がスカウトされて、上京したので、すぐ遠恋に、なっちゃいましたけど」
笑顔でいつものセリフを続ける。
嘘は、ひとつも言っていない。
相手がいつも、
「残念だったね」
と勝手に勘違いしてくれるのだ。
私は、遠恋になったとは言っても、別れたとは、一言も言ったことはないのに。
私の付き合って10年がたつ彼、村上春馬くんは、いま九州の福岡県に住んでいる。
私たちの出身も同じ九州の南部だけど、九州で1番の都市といえば、やっぱり福岡市で、大学もいろいろあったし、私にとっては、修学旅行で春馬くんに告白した思い出の場所で、スカウトされた場所だ。
ーひとを好きになる瞬間を覚えているのは、いったい何人くらい、いるんだろう?
一目惚れ?だから、いろいろ追いかけた?
一度や2度はいいけれど、続けるなら、私からしたら、相手の気持ち、を無視しないで?
ふざけてるの?っていいたい。
というか、それで、ご飯食べさせてもらってる職業についてるわけだけど。
南九州の県庁所在地のある市は、福岡に比べても仕方ないけど、そこそこの人口はいる。
福岡と札幌をくらべるようなものだ。
そんな私たちの中学校も、少子化なんのその在校生は、1500人はいるまあまあの規模を誇る学校だった。
クラスが15もあるから、私は春馬くんの存在を知らないまま中2になった。
私は外見だけでちやほやされ、挙句には告白のあらし。
同じクラスや演劇部の部員以外には、外見だけで、告白される。
告白はする方だけじゃなく、断る方もダメージは大きいのに。
私を知らない女生徒たちから嫉妬され、先輩達からも、呼び出された。
ひどい時には、真冬の屋上に呼び出されて、鍵をかけられたこともあった。
その時は先生に、野球部の子が部室の鍵を返しにきて、なんか屋上に人影があると伝えてくれたらしい。
同じようなイジメは、たくさんあった。
その度にさりげなく誰かに助けられていたけど、私には、だれだか、わからなかったし、
下手したら私のストーカーかと思ってた。
ただ、先生が話してくれた、野球部のひと、と言うキーワードが残っているだけ。
演劇部は、体育館。
野球部は、グランド。
まったく接点がないまま、時はすぎていた。
でも、その誰かは、意外な形で私に答えをくれたから。
なぜなら、彼以外の野球部員が、私に告白してきたからだ。
その当時、バスケット部の彼氏ができたばかりの友人が、机を叩いて大爆笑していた。
「あー、やっぱりかあ。村上は、明日菜に、興味ないと思ってたんだ」
そこで、初めて春馬くんの名前を知った。
やっぱり野球部のひとだったんだと思った。
でも、それだけ。
相変わらずクラスが違うし、部活も違う私達には、接点がなかった。
本当なら、修学旅行だって、クラスが違う私達には、なんの接点もない行事だった。
それをバスケ部のバカップルは、違うクラスで、しかも、男女別にわけられていたのに、
「自由行動だから、問題ナッシング!」
なんて、2人で強引に自由行動の学習計画をかきあげた。
私達たち班員の希望もおさえた完璧な計画書で、そういえば私の友人は、頭がよかった。
あまりに強引な計画とは、正反対な、完璧な計画書。
無理もなく、ストレスもなく、時間にも余裕がある。
でも、クラスメイトでもない男子と過ごさないといけない。
ひどく憂鬱だけど。
「あれ?村上春馬ってー」
友人が相手グループの名前を、きれいな文字で、サラサラとノートに、書いてゆく。
1番上には、これが赤木。アタシの彼。
なんてハートマークで、囲んでて、私以外の女子は、キャアキャアと盛り上がっていた。
「明日菜ってさあ、村上くん攻略したら、野球部コンプリートなんだよねー」
「ああ、あれかあ。神城さんが、村上以外の野球部員から告白されたってやつ。けど、村上はダメじゃね?まだ彼女もちの俺の方がイケる」
「あんたは、いかなくていい!」
バスケ部のバカップルが、わいわい騒ぎだしたけど、私には、ちっとも笑えない。
最近、友人の彼氏の赤木くんの視線が、熱をはらんでる気がする。
ううん、たぶん、きっとそうだ
何度もした苦い経験がそう結論つける。
また、友達の彼氏を奪った酷いやつ。
とか言われて、この友人も離れていくんだろうな?
ため息、ついてたら、いまは、まだ友人に、ぽんと肩をたたかれた。
「まあ、村上は冗談としても。明日菜もそろそろ彼氏作ったら?男避けになってくれるよ」
頭の中なかを小さい頃から、好きだ、愛してます、付き合って!と告白してきた人たちの顔を100人くらい記憶を呼び起こしてみたけど、
やっぱり、なんも感じない。
あっさりあきらめてくれる人は、少数で、ほとんどは腹いせに壁を蹴ったり、罵倒したり、しつこかったり、告白自体が、もううんざりしていた。
ー初恋だって、まだだったから。