第13話
俺と明日菜は、不気味なウシガエルの箱を手に、記者さんと加納さんに、合流した。
「なんか子供と話を、してなかった?ーって、なんなのそれは!」
「きゃあっ?」
記者さんが悲鳴あげるけど、
「それをいうなら、ニャアですよ?」
って、言ったら。
「「「そういう問題じゃありません」」」
女性陣の声が、そろって、つっこんだ。
けど、なんで女子って、とっさにあんな甲高いサイレンのような声出すんだろ?
あれ、低い声の女性や、高い声の男性にもでるのか?
たしかに、小さな子供は、よく声をだすのが楽しいだろうなあ?って、キャーキャー言うよなあ。
子供の声は、ほんとうに、ひびくんだ。
あれ、いきなり、やり出すから、親も冷や冷やだって、凛ちゃんみながら、軍曹が言ってたな。
ー軍曹って、悲鳴あげるのか?
顔立ちは、紛れもなく美人なんだろうけど、
ー迫力が、、、。
一尉が悲鳴あげてそうだ。
そういえば魚って、たまにさばく時に変な声でなく。
なくというか、空気でる?かなあ。
明日菜の前でさえ、さばかなければ、明日菜は、たべるのかなあ?
そもそもスーパーで、一匹買っても、スーパーですら、いまの時代は、捌いてくれるしなあ。
釣り魚は、その場で、わりと血抜きするんだ。
いまは、かなり冷温きくやつ、簡単に売っていて、魚をうっかり置いてたら、CMみたいに、カチンコチンに固まる。
わりと剥がすの大変になる。ただ俺の釣る魚は、なぞに元気だけど。
元気に家まで、ドスンバタンとうるさいんだよなあ。
それにしても、よくとっさに、そんな悲鳴あがるなあ。
外国映画とかだと、ヒェーだったか?
いや、やっぱりきゃーか?
とっさに悲鳴って、すごい瞬発力だよなあ。
俺は、ウシ様と記者さんを見比べて、気づく。
ーそう言えば、この記者さんには、重役を、かってもらう必要がある。
だから、
「ーいります?これ?」
ずっと、手を伸ばしたら、また悲鳴をあげられた。
俺、村上春馬、23歳。
奇妙なデジャビュに、とらわれる。
だってさ?
「春馬くん、悪気ないのは、わかるけど、子供相手でもわかるけど、ふつは、悲鳴あげちゃうよ?」
「…空ちゃん、これ、いるかなあ?」
「一応、春馬くんが、もらったんだよ?その子」
「もらったのは、明日菜も、だろ?そうだ、東京の寮にー」
「うちの後輩たちが、倍返ししてくるよ?」
そういえば、奇妙にハモりやがったな。
いや、歌はうまかったよなあ。さすがプロだよなあ。
いくつくらいだったかな?高校か?
俺は、明日菜を、じっとみつめる。
明日菜が東京に行ったばかりのころ、明日菜は、俺に弱さをみせてくれた。
中学生の俺は、バイトなんかできなくて、南九州の片田舎にバイト場所なんかなかったし。
なんか近所のじいちゃん、ばあちゃんの農作業手伝っても、野菜で満足できたし?
ー東京は、ほんとうに、おなじ日本か?ってくらい遠くに感じた。
柴原と地図帳片手に、いや、ときに地球儀もみながら、語り合ってたな。
世界からみたら、こんなに小さいくせにさ?
ー13歳の俺には、果てしなく遠い場所だった。
空にうつる星ですら、届かない。いや、俺や柴原には、みえる光が、明日菜からは、見えないんだ。
たくさんの人工の光が、LEDに変わっていくなかで、
それでも、あかるくて、ふといまいる空をみたら、
ーいまは、空を舞うホタルと明日菜がいる。
高校生の頃、柴原とホタルを見ながら帰りながら、いつだって、明日菜が会話になってた。
ーホタル捕まえて、明日菜におくる?
ーかわいそうだし、死ぬぞ?
ー映像は?
ーたぶん映らないよな。ライトないし。
ー火の玉だよね?
そういえば、お墓の怪談に、のぼらなくなったな火の玉。
科学的研究は、いいけど、不思議をほんの少しは、残しててくれても、よくない?
夜の墓なんか人気がないから、危ないし、子供たちは、好奇心の塊だけど、わりと好奇心と臆病は、同じくらいの意味がある。
あれ、タッグをくませたら、すげえよなあ?
タッグだったよな?釣具のタックルじゃなく。
そういえば、新しいタックルほしいなあ。けど、ありがたいことに、もらえるボーナスの使い道は、もうきめてる。
ボーナスで、いけんのかなあ?
俺は明日菜を見つめる。あの日、冬の寒さに凍えて、いまにも雪みたいにふわふわ飛んで、消えちまいそうだった女の子。
あの日、わけわからない焦りと、
ー守らなきゃ、止めなくちゃ!
ただ走って、たんだ。
走って、走って、
ーけど、ヒーロー役は、柴原にゆだねた。
ヒーローに、なりたいわけじゃなかった。
ただ、身体が動いただけだ。あまりに、寒そうだったから。
寒空に、とけちゃいそうだったから。
「春馬くん?どうかしたの?」
明日菜がふと俺をみてくる。理想の身長まで1センチ足りない俺だけど。
手を伸ばして、明日菜の髪に触れる。
「よく、がんばったよな?」
やっぱり、その言葉しか俺には、言えないけど。
「春馬くんや真央、優菜や千夏さん、たくさんの人のおかげだよ?」
ふわっとやさしく笑う明日菜には、
ー中学時代のトゲトゲなんなかなくて、俺はふつうに、思ってた。
ーあれだけトゲトゲだったら、ウシ様も吐き出さないか?
あの日、ラッシーとたくさん掘った土の中で、くるくるまわったネズミ花火。
ただ、最後の音とともに、消えた白い煙。
あのラッシーと掘った穴の中で、ただ、くるくるまわってた。
土のなか、泥だらけで、四方をもとりかこまれて、ただ、くるくるまわるネズミ花火。
ヘビ花火に、追いかけられるネズミ花火は、さ?
角度さえ合えば、とんだのかな?
なあ、じいちゃん。
じいちゃんは、
ー逢いたいと、願ってた人に、逢えたかな?
俺は明日菜の髪を撫でていた手をめて、その後頭部を腕に力をこめて、けど痛くないように抱きしめる。
「春馬くん?」
「安心しろよ?明日菜が放してって、言ったら、ちゃんと放すからな」
「…ふつうは、放さない?じゃないの?」
「えっ?」
「映画だとそうだよ?」
「えっ?」
「英断には、あるかもだけど」
「えっ?」
「永遠に、はなれたらどうするの?」
「えっ?」
「餌は、いらないよ?釣られたけど」
明日菜は小さくため息をつくと、いつものあきれた瞳で俺をみた。
「春馬くんが釣った魚に、餌やならない、じゃなくて、餌やれないの、知ってるから」
「まあ、な。リリースか、食うかだし?」
明日菜が楽しげにクスクス笑う。
なにが嬉しいんだ?
「だいじょうぶよ?明日菜。その時は村上くん、私たちが全力でしめるから」
って加納さんが言って、マジでびびってる俺だ。
釣られた魚の気分になって、
ーあれ?
釣った魚に、餌やらないの、
ーどっち⁈
って思ってた。
イケメン先輩は、きちんと飼育本をみて、さらに研究して、餌や環境整えていきそうだけど。
さ?
マジで、
俺と明日菜って、
ーどっち⁈
だった。




