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第27話 彼氏と、彼女と、親友と。


小さくドアの閉まる音が遠くにきこえる。


そうして、今度は水道の音となにかを洗う音。


―誰かが食器を洗っている?


でも俺はいま福岡で、ひとり暮らしをしていてー。


家に来るのは、柴原ととなりのー。


「うわっ!やばい!萌ちゃんごめん!空ちゃんと凜ちゃんだいじょうぶーーーーえっ?」


「寝起きのひとことめが、ほかの女の子たちの名前って、こんなにショックなんだね」


明日菜がちょっと落ちこんでいた。


「えっ?明日菜?えっ?萌ちゃんや空ちゃんや凜ちゃんやー柴原は?」


「ー増えてるし」


そりゃあ、真央に頼んだのは私だけどって、なんのこと?


ってか、なんで明日菜がここに?


「あれ?」


「どれ?」


「それ?」


「ーごめん、春馬くん。私には純子さんのマネは、無理みたい」


「へっっ?軍曹?」


「正確には、空曹長」


「へっっ?」


「でも、春馬くんにはいままで通り軍曹って呼んでほしいって」


「誰が?」


「どれだけ寝ぼけてるの?」


「これだけ?」


「ーそのくだりは、いまの私にはムリだから」


「へっ?」


「あー、もう!」


まだまわりきらない頭をグイッてひきよせられて、明日菜がキスしてきた。


ーっ!


びっくりした俺の口を、こじ開けるようにして強引に、明日菜の舌が入ってくる。


一瞬、舌先がふれあったと思ったら、ビクッと明日菜の身体が小さくはねて、唇がはなれた。


一気に、目が覚めた。


覚めても、目のまえには耳まであかくなって、俺から恥ずかしそうに目をそらす明日菜がいた。


ふてくされたような小さな声で。


「もう!純子さんの言う通りになっちゃったじゃない!目は覚めた?春馬くん」


「覚めたけど、もういっかいは?」


「いまは無理だよ。ー心臓がもたない」


そういうと明日菜が俺の胸に、こつんと額をよせた。


「びっくりした?」


「ああ、すげー驚いた。尺サイズのアコウが釣れたときみたい」


「ーほかにたとえがないの?」


「タコ釣りでヒョウモンダコ釣れた時のドキドキ感」


「タコ?」


「マダコ亜目、マダコ科 ヒョウモンダコ属に属する4種類のタコの総称。すげー猛毒のタコちょっと前までは日本にいなかったんだけど、福岡でもつれるようになった。へんな斑点があるから、見た目でわかるけど、絶対触るなよ?オーストラリアで人の死亡例もあるらしいから」


「私は釣りにいかないから大丈夫です。でも、すごく詳しいね」


「嫌な予感がしたから、珍しくスマホを使ってみた」


「えっ?本当に釣ったの?」


明日菜が慌てて額をはなすと、俺を心配そうに見てきた。


「釣ったから、調べるに決まってるだろ?毒のある魚ってわりとよく釣れるからな。見たことがない魚がつれたら触らないことにしているんだ」


「ーそうなんだ」


「まあ、釣りは楽しいけど、運転と同じで、いつでも危険と隣り合わせだからな。危険認識は、絶対に必要だよなあ?ライフジャケットは、絶対じゃないし」


「それ以上言われると、運転も釣りも禁止したくなるから」


そういうと明日菜がまたキスしてきた。


こんどは軽くふれあうだけの、


でも、さっきより、すこし長い?


ーなんだ?


「やけにあまえてくるなあ?俺が泣いたせいなら、無理しなくていいよ?」


「無理なんてしてないよ?ただー」


「えっ、俺、そんなにお金もってないぞ?給料日前だから」


「そっちの無料じゃない!」


「じゃあ、やっぱり有料じゃん」


「なんでよ」


「いっつも柴原に、明日菜の映画に無理やりつきあわされるからー俺もちで」


「えっ?真央、そんなことまでしていたの?」


ー逆にききたい。何で知らねーの?


現実(リアル)から目をそらすなって、叱られる」


「ー私にとっては、春馬くんだけが現実(リアル)なんだけど」


「俺にとっちゃ、間違いようのない現実(リアル)だけどな」


だって映画の大スクリーンで、彼女が他の男とキスしてるんだぞ?


目をそらしたくても、柴原に先の尖がったヒールでおもいっきり脛をけとばされるし。


毎回、痛くて涙でるし。


ー心と身体がボロボロになって映画館をでたら、やっと、明日菜の声がききたくなるんだ。


そうつぶやくと、


「もう真央ってば」


明日菜は、なんとも言えない表情になった。


親友の明日菜を想う気持ちと、彼氏に対する非常な仕打ち。


感謝か怒りか、それともそこまで面倒見させている申し訳なさか。


「まあ、いいやつだよな」


「そうだけど、浮気ないよね?」


「大丈夫だ。俺と柴原は、ふかい友情で結ばれている」


「ーむしろ、心配になるんですけど⁈」


ーあれ?


「じゃあ、白い糸」


「なんで白?」


「紅白だから?」


「もっと深くなってない?」


「じゃあ、水色?」


「どうして、もっと深まるのよ!?」


「えっ?好きな色だし」


「もっとダメじゃん。なんなら一番ダメ!」


明日菜がきれいな眉をしかめるけど、そんなこと言ってもどうしようもないんじゃないか?、


「だって、柴原の旦那がすきな色だぞ?子供も空って名付けるって、決めたみたいだぞ?性別に関係なくつけられるからって。空ちゃんって名前、多いんだな?先輩が俺の前で口をすべらせたしーあっ、ヤバイ。明日菜には、心配させたくないから、安定期になったら伝えるって、約束だったな」


やばい。


明日菜が来ても会えない理由を、自分の口から伝えたいって、言われてたんだ。


妊婦ならコロナの感染リスクを少しでも減らしたいに、決まっている。


里帰り出産もあきらめたらしいし、子供が生まれたら、凜ちゃんで培った俺の育児スキルが役に立つ。


まあ、あいつのお姉さんがふたり福岡にいるから、大丈夫だろうけど。


ふたりとも小学生の子がいる育児の先輩みたいだし?


「えっ?真央、いつの間に」


「入社と同時に、俺の尊敬できるイケメン上司に一目ぼれして、けっこう力業だったぞ。先輩は真面目な人だからいいけど。アレにこっそり穴をあけてたって、俺一生分の秘密を先輩にもっちゃったんだよな」


「ー真央…。なんで行動が純子さんなの?」


やっぱり私も?ーってなんの話だ?


「大丈夫なひとなの?」


破天荒でも大切な親友のことだ。


明日菜が心配そうにきいてきた。


「大丈夫だよ。先輩は、赤木とは違う。どっちかっていうと、浮気される側」


「それもちょっとー」


「なんで?柴原って絶対につきあってる時に浮気しないじゃん。俺との関係を疑うようなやつは、将来、束縛されそうで嫌だって、片っ端からきってくぐらい潔いし。先輩は柴原が中学卒業してから、初めて明日菜と親友だって、うちあけた男だし?30歳で素人童貞だし。それも社会人一年目で無理やり営業先で接待されたからだし?柴原が襲わなかったら、イケメンなのに独身の人生だったんじゃないか?」


「ーいろいろ心配になってきた。真央じゃなくて、春馬くんが」


「へっ?」


俺、なんか明日菜といると、意識しなくても、擬音ばっかりつかってるよな?


「春馬くんも営業先で、そういうことあるの?」


「さあ?コロナだから、そういう飲み会もリモートだしな」


「ーそう」


明日菜がちょっと心配そうな顔になった。


「先輩からいろいろとかわすテクニックを教えてもらったから大丈夫だ。薬が入ると変わる色とか、同性愛者のたまるバーとか」


「あっ、そっちの心配もあったんだ」


なんか安心させるために言った言葉がブーメラン化してるんですけど?


「まあ、先輩が実体験から、教えてくれた話だから、大丈夫だろう?柴原からも忘れないように全部ノートに書き写しさせられたし」


「ーさすが、真央」


「同感」


まったくいい友人と巡り会えたもんだ。俺も明日菜も、


―柴原も。


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― 新着の感想 ―
[一言] 分かる 毒のある魚って結構釣れるよなぁ アイゴとかアイゴとかあと、ウミケムシ
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