第8話
そんなことを考えていたら、いきなり、春馬くんが、
「明日菜って、すげーな」
って、言ったけど、
ね?
春馬くん?
「ウシ様と見比べて、そう言われても、こまるよ?春馬くん?」
そもそも、私じゃなく、どうして虫籠のウシガエルに、話しかけてるの?
私の返事に、キョトンとして、また見比べてくる。
から、
「ー似てない!からね⁈」
つい言ってた。
ね?
でも、やっぱり、
「知ってるか?ウシ様もトノ様もさあ」
続けるのが春馬くんだよね?
「きいてる⁈春馬くん⁈」
「メスは、オスを背中にのせて移動するんだって。メスがでかいんだ」
「きいてない⁈」
「俺は、明日菜にとって、重いか?」
そうきかれて、驚いた。春馬くんは、その少し茶色がかった瞳で、さびしそうに私をみていた。
「えっ?」
重い?春馬くんが?
どういう意味?
むしろ、春馬くんにとって、私の存在が重いから、そう言うの?
ひやりと背中に、嫌なあせがつたう。
そういえば、コロナ騒ぎで2年間、春馬くんとあえなくて、せっかく会えた日に、春馬くんがトイレに浪城したよね?
あの時も、同じように、いっきに身体がひえた。
私の手が冷たくなりそうになった時、春馬くんがまた口をひらいた。。
「だってさ?明日菜が日本固有のカエルとするだろ?」
ね?
春馬くん。
私はいっきに体温がもどるんだ。
だって、、、。
「なんでカエル、、、」
私のさっきの緊張感を、かえしてほしい。
というか、ほんとうに、
ーいい加減に、ウシガエルから離れてよ?
って、思ってしまうけど、春馬くんの手にしっかりあるウシガエルの張りぼて。
「ウシ様は、日本の生態系をいまじゃ壊してしまう品種あつかいだぞ?」
真剣に言うけど、私じゃなくウシガエルの張りぼてに話しかけてる。
「ーウシ様に罪は、ないけど、そうだね」
一応、習慣でもう返事する私は、もはやなんだろ?
「日本人に、カエル食べる文化が根付いたら、よかったのか?」
ーウシガエルは、たべらたくないと思ってるはずだよ?
「…たべない理由も、あるんじゃない?」
そもそも美味しそうには、みえないよ?
色も微妙だし。ガマ油なんかはわかるけど、皮膚に毒がある薬があるよ?
ね?
春馬くん。
修学旅行のあの夜も似たような会話だったよね?
「なんで明日菜は、固有のままなんだ?トノ様を食べるタガメだって、ウシ様は食べるんだぞ?」
こんどは、ウシガエルから私に目をうつすけど。
ね?
春馬くん。
「…だから、なんでカエルなの?」
しかも、トノ様って、なに?
せめてカジカカエルとかなら、声がきれいっおもえるのに。
ウシガエルって、ふつうはニャアじゃなく、
ヴモー、たよ?
大きいから鳴き声で眠れないよ?
なのに春馬くんはマイペースで。
「都会でカエルって、いるのかなあ?」
今度は夜空を見上げた。ホタルが舞うこの場所にも、福岡都市圏のあかりが、夜空をあかるくする。
「さあ?ペットショップに、他のカエルはいるけど?…飼わないよ?」
「いや、飼うのたぶん、大変そうだし、飼わないよ?」
ね?
春馬くん。
調べたの⁈
私はあきれる。
「そもそも春馬くん、カエル嫌いだよね?」
「ーたしかに」
とたんに嫌な顔になる。
私は、ため息をつく。
経験からわかる。春馬くんと、つきあうようになって、学んだ。
ーあまりつっこまない。
受け流しって大事。
「それで?」
「それで?」
ね?
春馬くん。
切り替えたはずだよ?
「春馬くん?」
私の声がワントーン低くなる。
さすがに黙って、春馬くんがじっと私を見つめる。
わたしも黙って、春馬くんの少し茶色がかった瞳をみつめた。
そうしたら、お口がアイスクリームな春馬くんは、
「神城明日菜の最大の魅力だったかなあ?目力。ー明日菜に幽霊役やらしたら、めちゃくちゃ怖くない?柳の木あるぞ⁈蛙とびこむ、ー井戸⁈」
って、ぶつぶつ言ってる。
ね?
春馬くん。
人前では、やめた方がいいよ?
それに褒められたのかも、よくわからないよ?
最後の、
ー井戸。
は、嫌だなあ。井戸からでる幽霊もカエルにビックリじゃないの?
「…ぜんぶ口に、でてるよ?」
私はため息をつく。
「あれ?」
キョトンと目をまた瞬く春馬くん。
「それ?」
私はとりあえず返すよ?
「どれ?」
もうわかるんだ。
「…これ?」
春馬くんのそばにいるよ?
もう写真を撮られてもだいじょうぶだよ?
私は春馬くんにキスをする。
けど、暗闇だから、春馬くんてみんなわかるかなあ?
ネットもリアルも、勝手な噂になるんだよ?
軽くふれる春馬くんの唇が、やさしい熱をわけてくれる。
春馬くんが抱きしめてくれる前に、私は身を離した。
黙って、春馬くんをみあげる。
春馬くんが苦笑した。
「ほんとうに、よくウシ様に捕まらないで、俺のそばにいるよな」
相変わらず、ウシガエル?
でも、そっと手を伸ばし、たったいま、春馬くんの唇に触れた唇に触れる。
ーそういえば、この唇、春馬くん以外も知ってるはずだよね?
その役が終わると、ほんとうに忘れちゃうから自分でも不思議だけど。
ね?
春馬くん。
知ってる?
逆はなかったんだよ?
ーあの日までは、
ほんとうに、私は春馬くんを忘れたことはないんだ。
胸にふいに罪悪感が込み上がってくる。
のに、
「けど、明日菜をまるごと食ったの、ー俺だけだ。そういえば、最初のウシ様、17匹って食われたのかなあ?カエルの手触りって、独特なんだよなあ。あれ、不思議だよなあ」
て、ぶつぶつ独り言をいいだした。
ー相変わらずのウシガエルに、
「俺の釣るアコウも根魚だけど、硬いしな。アコウは美味いけどな。ウシ様、都会じゃ高いらしい。そもそも居酒屋にいまはいないよなあ」
私はそもそも居酒屋に行ったことないよ?
いつも千夏さんがガードしてくれたし、未成年の飲酒は、いまは優菜みたいになる。
ただ、あれ、世代により違うのかなあ。
昔は高校卒業したら、飲んでた。会社も大学とかもルーズだったし、高校の打ち上げでのんでも停学?くらいかなあ。
人によりけりだけど、わりと昔はルーズだったような?
大学で新入生が、旧姓アルコール中毒になるはたまにきく。
急性アルコール中毒は、ほんとに怖いよ?
って、寮母さんや千夏さんが私たちに口を酸っぱくして言ってた。
女の子はとくに、注意がいる。
ぼんやりそんな事を考えてる間も春馬くんは、相変わらずで。
「けどイケカマ係長が言ってたなUFOキャッチャーに昆虫食ある。高いよなあ。イナゴやセミ、蜂の子なんかは、昔からあるけど。俺が赴任するはずだった場所は、たしかに夏に蚊がめちゃくちゃ増える?だったかなあ」
ウシガエルの餌の話になってる。
でも、そうだね?
わずかな夏に、その命をすべて燃やして、ただ、時代につなぐ小さな命。
かあ。
ちいさくて儚いひかりが、ヨタヨタとたよりなく舞うこの場所で、春馬くんは、へんな独り言をやっと、やめて私を見つめる。
「明日菜。怖いなら、俺は待つよ?」
いきなり真剣に言ってきた。
「えっ?」
いまウシガエルの話だったよね?
「明日菜が待ってくれた10年。いつまでもおんぶはしなくていいよ?」
私が春馬くんをおんぶしていたと、春馬くんは思ってたの?
ー春馬くんは、、、。
うん、そうだね。
ほんとうに、重いよ?
井戸の下に幽霊でいてもさ?
井戸は桶がある。
きっと、私をすごい重さで、ひっぱりあげてくれる。
ひかりがささない場所で、きっと、冷たい場所で、だった、人をにくんで、やり場のない怒りに、寒さに凍えて、頭からウシガエルが飛んできても、
ーウシガエルに食べられる前に、助けてくれるよね?
だって、
「ウシ様みたいに明日菜に引っ張ってもらうだけじゃダメだ。いや、あの場合、たしかに意味あるけれど」
その時は理解できないつぶやきだったけど。あとからきいて、赤面した話だったけど。
正直、ベットの上でも、春馬くんは春馬くんだけど。
ーウシガエルの話をしてくるから、困るけど。
「いま、明日菜が女優として、他のヤツとキスしたら、俺はどうするのかな?」
って、首を傾げてる。
そうだね。いまなら、私たちは、どう思うんだろう?
ただ、さ?
ね?
春馬くん?
お願いがあるんだよ?
「私のキスをカエルの皮膚に、たとえないでね?春馬くん」
「明日菜、やっぱり、超能力テスト」
「うけないよ?」
それに、
「私は離れない」
私はもう一度、春馬くんにキスをした。
けど、
ーカエルの感触って、
やっぱり似てね?
って、思ってるんだろうなあ?
やさしい不思議な感触。
あの中2の夏と同じで、
やっぱり、
ーウシガエルより、ムカデが私の脳裏にうかぶんだ。
そんなシチュエーションの恋愛映画なんか、誰かみたいんだろ?
私は唇をはなすと、クスクスと笑ってた。




