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第二話

蛍が俺の手にもった葉から、ふらふらと飛んでいく。


葉から、葉へ。


葉の後ろでも、光ってしまうなら、


ー南九州の片田舎のあの場所で、さ?


あんなに目立つからさ?


俺はつい、前歯で下唇を噛みそうになり、


ーハッとする。


明日菜との新しい約束だぞ?


約束は、必ず守る、


ーは、 


俺には、ないけど。


どうしても、


ーはたせないなら、約束しなきゃよかった。


そう思ってしまうけど、


たとえ、誓いをたてても、


ーやぶる、かも、しれないのが、俺だ。


いや、待てよ?


俺、さっき、明日菜に言ったよな?


明日菜に、今度こそ、俺が守るって、


いや?まて、待ってくれ?


いや、違うかあ。


たしかに、そうなんだ。


ふと、俺は脱力しそうになる。


が、


ーゲロゲロしてる。


うんざりだ。


なんで、こういやな雑音ほど、過敏になるんだろ?


ー俺、ウシ様センサーついてんのか?


だとしたら、すげーよなあ。


だって、ウシ様、ぴょんぴょん、だぞ?


めちゃくちゃ、飛ぶぞ?


ウシ様、飛ぶんだぞ?


わりと、リズミカルだぞ?


あの高低差やリズムについていく?


めちゃくちゃ、すこいな、ウシ様、センサー。


…いらなくね?


相変わらずの俺だ。


「明日菜ー、ウシ様センサーいる?」


いらないのは、俺だけかも知れないから、一応、明日菜にきいたら、明日菜が黙って、俺の背後の地面をみて、さっと、顔色をかえた。


「春馬くん、そこ」


「どこ⁈」


振り返ってみたら、


「にゃあ」


ー⁈


待って⁈俺のウシ様センサーどこ行った⁈


待って!


もう一度、振り返ったら、


ー目の前には、明日菜のスマホがある。


「あれ?」


「それ」


「どれ?」


「これ?」


明日菜がぼんやりした世界をすごした時に、オンライン越しによくみなれてしまった顔ぶれが、


「にゃん、にゃん、にゃーにゃん、わん、わん、わーん」


…さすがプロだな?


ハモってやがる。


というか、


「ーこんなところで、明日菜の特技をみるとは、思わなかったな」


「特技をいかせる職業だね?」


しれっとした顔で明日菜が俺をみる。そして、小さく舌をだした。


「ごめんね?春馬くん」


めっちゃかわいいんですけど⁈


俺の奥さん、可愛くない⁈


俺はウシ様みたいにぴょんぴょん、その場で跳ねたくなるけど、


ーさすがに、こらえた。


とんだ足元に、ホタルいたら嫌だしなあ。


クスクスと明日菜が笑う。


「なに?」


「うん。やっぱり、春馬くんは、春馬くんだなあって」


「だから、俺が俺じゃないなら、誰なんだ?」


「私の大切な私だけの宝物だよ?」


「あれ?」


「それ?」


「どれ?」


「これ?」


そういうと、明日菜が軽く、俺の頬にキスしてくれる。


俺はびっくりした。


そして、癖でキョロキョロするけど、


ついスマホを探してしまうけど、


見ていたのは、


ー虫とり網をもった、中学生くらいの坊主。


が、ぽかんとしていた。


明日菜が笑って、指を唇にあてると、


「内緒だよ?」


って、ウィンクする。


ー器用だな、おい。


けど、明日菜?


たぶん、そいつは。


「お姉さん、目が痛いの?」


「えっ?」


「ここの水はきれいだけど、目を洗うのは、やめたほうがいいよ?」


ひやすなら、いいけど。お姉さん、都会育ちだよね?


と、言ってやがる。


ーマジで俺みたいなヤツいた。


けど、


「ありがとう。やさしいね?キミ。ホタルをとりに来たの?」


そいつは黙って首をふると、網を持って俺の方に、森に来たけど、


「あっ、気にさわった?ごめー」


慌てる明日菜に、素早く網でとったホタルをみせていた。


明日菜が見てる前で、また、ホタルが仄かに瞬き、明日菜の目の前で飛び立つ。


たくさんの光が舞う。


俺は不思議な気分になった。


まるで中学時代の俺みたいなヤツが、いまは、若手人気ナンバーワン女優で、俺の奥さんになった、明日菜といる。


あの頃の俺が、タイムスリップしてる?


わけは、ない。


俺は無意識に腕を組んで、そいつをみる。


素直に、


ーいいなあ。


中学時代の俺に、明日菜は、素直じゃなかったぞ?


ー俺もだけど。


あんなくったくないイタズラな笑顔なんか、見たこと、ある、か?


映画のワンシーンなら、ともかく、中学生時代の明日菜は、まだ、トゲトゲだったしなあ。


そういえば、笑う練習とかあるんだっけ?


明日菜もやってたんだよな?


明日菜はたしかに、天職にであえたんだろうけど、


ー明日菜なりに努力はしてる。


いや、していたのかなあ?


鈴木さんの事件がなければ、きっと、明日菜は、その才能を埋もれさせてしまったんだろうなあ。


18歳の明日菜がたくさんのものを、あきらめて、けど、そのかわりに手にいれた。


そうして、いま、笑って俺のとなりにいる。


明日菜が笑ってる。


ー俺じゃない、ヤツに。


萌えちゃんくらいの歳だけど、


目の前のこいつが、14歳として、10年後に、


ー明日菜が33歳。こいつが24歳。


いや、もっと歳をとって、


明日菜が73歳、こいつが64歳。


ーなしじゃいな。


えっ?


ふつうに、あり、か⁈


ちょっと、待て?


待って?


いや、本気でまてよ?


前言、てっかい、


マジで俺、頑張らないとやばくないか⁈


守るなんて、上から目線じゃダメじゃん?


守らせてください?


いや、それも変だし?


なんていうんだ⁈


「ーふつうに、一緒にいこう、じゃダメなの?っていうか、この人、お姉さんのだれ?」


「私のたいせつな旦那様だよ?」


明日菜が俺の腕に抱きついて、笑ってこたえる。


中学生は俺と明日菜を見比べて、そして、俺の背後を指差し、


ー俺の背筋がこおる。


「ニャア」


マジか⁈


おそるおそる振り返ると、


ーあれ?

  

「なんだよ?おどかすなよ?」


森しかないじゃないか。


ほっとして、そいつをみたら、


ーゲロゲロ。


虫籠に入った、


ーウシ様がいた。


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