第49話
記者さんの出身地は、浅草。
わりとスカイツリーがよくみえる場所もある。
当時の自立式電波塔の世界記録を、抜こうとして、ついでに、日本のことも知ってもらいたいから、
ー634メートル。
むかしその地域にあった、武蔵の国からとったらしい。たしかに、日本人なら、わかりやすい、ごろあわせ。
まるで、31日が、月末でない月を、覚えるための、
ーにしむく、さむらい。
みたいだ。
ただ、なんで11月だけ侍?って、意味がわからなかったけど、
ー侍イレブンだからじゃね?
って、あっさり、言ってたけど、
たぶん違う。ただ、おかげで覚えたけど。
日本人は、たくさん、むかしから、言葉がある。
日本語は、日本語としか、言われない。
そりゃあ、古典や、現国、小論文etc。たくさん授業もわかれては、いくけど。
私は春馬くんの腕に、しがみついたまま、夜空をみあげる。
ーそんなに、車には、乗ってなかったから、福岡都市圏の灯がみえる。
こんな田舎だけど、空は、やっぱりあかるい。
南九州の片田舎とは、違う。
けど、東京よりも、はっきり、夜空は、見えていた。
そういえば、小学生の頃、春馬くんは、天体望遠鏡が、好きだったらしい。
たまに、口にしていた。
ー親父のミザールって、三脚が木だからおもいし、不安定なんだよなあ。
たまにボヤいていた。
わざわざ真央の家まで重たい望遠鏡を持ってきて、室内に置いて、窓ガラス越しに遠くの山に、ピントをあてていた。
ーどうして、室内なの?
まるで、犯罪者みたいだ。覗いてるのは、山だけど。
ガラス越しに、望遠鏡をみてる。
ーんー?昼間だから?
春馬くんの声と、真央の声が重なってた、
室内は晴天の外よりは、たしかに日陰で、ふたりは、ふたりのルールらしい。
あとからきいたら、うかつに太陽を覗かないために、春馬くんの亡くなったおじいさんの知恵、だったそうだ。
そのあと、太陽の黒点を、調べるパネルで、観察してたみたいだけど。
たまに、私に写真くれていたけど、わたしには、
ーまだら模様。としか、受けとらなかった。
興味があるかないか、だろうなあ?
寮の後輩たちで、3人思い浮かべて、
ー興味もつなら、野良猫みたいな、あの後輩だろうなあ?
なんとなく思う。
他のふたりは、星座や神話に、興味を持ちそうな気がする。
私も、そっちかも?
でも、
野良猫みたいなあの後輩は、たしかに、わかる。
きっと、望遠鏡の世界に、夢中になるんだろう。
春馬くんや真央みたいに、レンズを四角いテープで、囲いするかは、しらない。
ー四角い視界で、見たかった。
理由は、それだけ。
そういえば、私がロケで行った時に送った浅草の名物。
ー雷おこし。
記念に風景を撮って送ってたら、角度的に、提灯に1文字ずつ書いてあった、お、こ、し、の、「こ」が「さ」にみえていた。
しばらくして、真央と春馬くんから、
ー雷のおさしみ?
ー柚子こんにゃく?
って、返事がきていた。
ふたりの特性なのか。たんに、どんな有名店やその土地を代表する名産品でも、直接みて、たべるか?
五感の完全一致は、たしかに、いまの時代も難しいなあ。
お取り寄せとかも、あるし、美味しいけど、
ーやっぱり、いちばん、最初に食べた味が美味しい?
…スルメって、あるから、ちがうか。
西九州にいけば、呼子がある。いつも不思議なくらい、
ーイカが、まわってる。
あれも行かないと、わからない。
春馬くんは半生のイカを軽く炙って、マヨネーズに七味唐辛子を混ぜて、それにつけて食べるのが大好き。
有名な釣りスポットもあるけど、コロナだからあまり足を、運んでないらしい。
というか、教えてもらいに、行く予定が、コロナで行けなかった。
呼子は、佐賀県だから。
呼子の朝市、こんどいこうな?新鮮なウニを、その場で割って食べたりさ?、朝市だから、漁師さんの奥さん手作りのスルメがブーンしてるわけ。
ー味がちがうんだ。
そう笑ってた。まあ、春馬くんが釣る魚じゃないなら、行きたいかなあ?
イカの活け作りなんかは、ほんとうに不思議だと、春馬くんも真央も、首を傾げてる。
家で再現するのは、厳しいらしい。
たぶん、やり方あるけど、イカを活きたまま自宅に持ち帰るが、厳しいらしい。
あの魚やタコなら、生きてるけど、
そういえば、魚のテレビで、魚帽子の魚博士が言っていた。
ウツボは身体のヌルヌルのおかげで、陸上も長い間移動できると。
それなら、春馬くんのお魚もタコもヌルヌルしてる。
って、たんにヌルヌルに、反応していた。
「浅草かあ。柚子こんにゃくの?」
「春馬くん、あの場所は、雷おこしの店だよ?」
「まあ。けど。都会、だよな?じゃあ、いいか。時間も、もったいないから、ついてきてください。あっ、携帯、画面はロックで、できるだけ、光消してくださいね?」
春馬くんは、自分のスマホだけ、ライトを最低の灯りにあわせた。
「明日菜は、こっちな」
しがみつく腕をとかれ、そのかわり、しっかり手を握り返してくれる。
けど、
「…ゲロゲロだなあ」
ウンザリ顔で言って、
「まあ、こっちから、いくかあ」
私の手をひきながら、歩き出す。この場所は第二駐車場で、春馬くんは、歩道を少しあるいた。
そして、第一駐車場まぎわのチェーンをくぐる。
第一駐車場にも、車はたくさんいた。
ーどっかで、みたような?
私が考えてる間にも、春馬くんは、ぐんぐん進んでいき、小さな小川の上にある公園内の小さな橋で足をとめた。
車道側じゃなく、山側をふりかえる。
「ほら?明日菜?きれいだろ?」
そう言って、携帯の灯すらけした。
「あっ」
息をのんだのは、私、千夏さん、記者さんの3人。
小さなかわのせせらぎと、ゲロゲロ、りーん、ジージー。虫の声と、
ー不器用にとぶ、蛍光色のあかり。
ちいさな命を点滅させて、存在を必死にアピールしている、
「…蛍?」
私は小さくつぶやいていた。
※ さむらいは、十」と「一」を縦書きすると「士」に見え、「士」は侍の意を持つことから。
らしいです。




