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第25話 彼女と彼氏の時計事情with轟木夫婦


「ねむい」


そうつぶやいて春馬くんが、小さな座卓にもたれるように、眠ってしまった。


春馬君くんが壱さんに、ずっと、一尉って階級だと勘違いしていたと、逆に土下座して謝ってから、30分後。


マグカップの中身が、日本酒にかわってからすぐのことだった。


萌ちゃんの話から、一尉と勘違いしていたと謝った春馬くんの言葉をきいて、


「壱、酒だ酒だ。やけ酒だ」


となぜか、純子さんが騒ぎだして、壱さんが自宅に取りに帰って、春馬くんのマグカップに、お酒を注いでいた。


私のマグカップには、手のついていないコーヒーがある。


緊急事態宣言が解除されたとはいえ、私は今朝まで、コロナ感染率の高い東京からきたので、まだ小さなお子さんのいる人の前で、マスクをとることに、ためらいがあったから。


一応、自費でPCR検査はうけたし、結果は、陰性で、いま私に風症状はないのだけど。


福岡に個人的な理由で行くということだけで、もしも、コロナにかかっていたら、私の場合、色々な人に、迷惑をかけてしまう。


当然、春馬くんに会いに行くことは、事務所には言っていたし、いままでスキャンダルとは、無縁だった私だ。


もともと色々なインタビューで、初恋が中2の時で、すぐに遠恋になったことを、話している。


むしろ、清純派女優のとして売っている私にとって、春馬くんとの熱愛スクープは、プラスに働いても、マイナスになることはないし、私も春馬くんも社会人として、働いている。


不倫でもなければ、浮気でもない。誰にも文句は、いわれない関係だ。


それに、春馬くん自身も周囲に隠していない。


だって、入社の時に、面接で言っていたくらいだし。


「あいつって、謎に運だけは、いいのよね」


とは、一緒にリモート面接を、うけた真央の感想だ。


なんでも面接官のひとりが、私の大ファンだったらしく、そのおかげで、話がもりあがったらしい。


そりゃあ、話が盛り上がってくれないと、こまる。


私の仕事を、春馬くんは嫌がっていても、一番応援してくれて、自分の感情よりも、私を優先させてくれるくらい詳しい。


だって、私のかわりに、真央がどんなに春馬くんが嫌がってても、私の仕事の内容を、事細かに話していたからだ。


春馬くんが撮影や公開日になると、連絡がつきにくくなる原因は、私にあった。


私自身の気持ちの問題であって、春馬くんには、重いもの。


浮気がばれる前に、白状してしまうようなもの?


ーちょっと、違うか。


でも罪悪感は、毎回あるんだよ?


ただ、カメラがまわると、私の中のなにかが、スイッチが入る。


そして、スイッチが切れたら、罪悪感も切れている。


だって、それが私の選んだ職業だもの。


もう10年も神城明日菜という人間を、構成してきたモノなのだから、春馬くんには悪いけど、受け入れてもらうしかない、と思っていた。


彼の涙をみても、そこは変わらない。


だって、私は彼の想いを、知っていたのだから。


それでも、私は春馬くんがいい。


とても、身勝手で残酷な彼女が、私だった。


ピピッと春馬くんの腕時計から、電子音が聞こえる。


春馬くんが大学に合格した時に贈った、私からのプレゼントの腕時計は、私の雑誌が整理されている本棚に、飾られていた。


わりとアウトドア派な彼のことを考えて、贈った耐久性に、すぐれた男性用の時計。


いま私がしているのも、その時に、ペアで買った女性用のスリムな時計。


春馬くんのすきな、空色の時計。


未成年で売り出し中だった私は、事務所の言うとおりに、ネットでえらんで、マネージャー経由でうけとった。


ファンの間では、プレミア価格で取引されている、いまはもう存在しないモデル。


私が言うのもなんだけど、売れば、結構な価格になる。


しかも、春馬くんのものは、未使用のもの。


私が願ってた使い方とは、違うけど、たいせつにしてくれている。


おなじタイミングで、私の腕時計も時を刻んでいることが、うれしかった。


私の場合は、目立たないように、電子音は消しているけど。


ふともうその時計が、23時になったことに、気が付いた。


「あのー、お子様は、大丈夫ですか?」


お隣でセキュリティが、しっかりしていても小さな凜ちゃんがいる。


大丈夫なんだろうか?


すると壱さんがわらって、手を横にふる。


「お酒をとりに帰った時に、萌に頼んどいたよ。明日は土曜日で部活もないから、神城明日菜の恋愛記事を、ネットサーフィンするって言ってた。きみにスキャンダルがないことを祈るよ」


「大好きな春馬兄ちゃんを、とられたたんだ。萌にとっては、また父を失ったような気分なんだろう。私だって、正直、言っておもしろくない」


「ああ、そうだね。春馬くんは、本当によく似ている」


「ああ、零さんにそっくりだ」


マグカップのお酒をグイッとあおるようにして飲んで、純子さんがいままでにない、妖艶な笑みを、私にむけた。





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