第24話 彼氏と彼女と、驚きの轟木夫婦
「「はっ?」」
となりのトトロならぬ、隣の轟木夫婦のあまりに息の合った土下座に、俺と明日菜の口から、これまた、息の合った、擬音がでる。
ちなみに、轟木家の三姉妹を思い出すことで、ある意味現実逃避していた俺は、いまだに、まともに明日菜の顔をみれずにいた。
小さな座卓には、四人分のコーヒーがご当地マグカップで、湯気をたてている。
インスタントのコーヒーを入れてくれたのは明日菜で、ご当地マグカップは、東京にも送った明日菜とのペアカップだ。
つまりご当地マグカップでも、二個買えばペアカップになる。
もっと数を増やせば、ファミリーカップにも。
そんなに、マグカップいるか?
けっこう丈夫だから、なかなか欠けたりしないぞ?
あれ?うちでも邪魔くさく感じるってことは、明日菜の家でも同じじゃん。
俺は、轟木夫婦の土下座の衝撃も忘れて、明日菜をみてしまう。
明日菜は突然のできごとに、きれいな瞳を大きく見開いて驚いていた。
ちなみに東京からきた明日菜は、轟木夫婦に配慮して部屋の中でもマスクをしている。
というか、この部屋でマスクしてないの俺だけ。
涙と鼻水で腫れぼったくなった顔を、そのままさらしている。
こういう時こそ、マスクいるよな?
釣り場ですら、海中がよく見える釣り用に開発されたサングラスをかけて、マスクをして、キャップをかぶっている。
コロナ渦でなければ、完全に、不審者みたいなやつらが、漁港にゴロゴロしている。
のんびり釣りしている。
そういえば、デミオで山道を、夜中にドライブしていた時に、爆音鳴り響かせる改造バイク集団とすれ違ったことがあったなあ。
みんな黒マスクをしていて、感心した話を会社でしたら、最近、朝のミーティングで、電撃入籍を発表した、イケメン先輩が微妙な顔になり、たまたま営業に顔をだしていた柴原から、あの手の輩は、コロナ前からマスクをしているといわれた。
ーなるほどな。
なら毎回、ああいう人たちは、インフルエンザには、かからないのか?
そういうと、先輩と柴原も、首を傾げていたな。
先輩の妹が看護師さんだから、きいてくれるといわれたが゛患者の情報は、教えられないって返事だったような?
こういう時こそ、スマホをつかうんだろうか?
あいつらは、なんでも知ってる機器字引だし。
「ちょっ、春馬くん、なにぼんやりしているの?顔を上げてください轟木さん」
明日菜が、焦っていた。
あっ、そうだった。
目のまえには、黒マスクの爆音バイクより、馴染みのある、一尉と軍曹が、俺に頭をさげているけれど、
「一尉はわかりますけど、なんで軍曹まで?」
「私は、これでもイチの指導役だからな」
「イチ?」
「ん?夫の名前だが?君もそうよんでるじゃないか。轟木 壱と」
ーあっ、壱、だったんだ。
凜ちゃんや空ちゃんが「ちいー」とか「いちー」とか言ってたけど。
あれ?でもであったばかりの頃に、萌ちゃんが私のお父さんは、一尉って言っていたような?
あれ?じゃあ、俺こんな年上の人を、名前呼びしてたの?
しかも、呼び捨て?
ーまじか。
「いや、こっちこそ、すいません」
「「はっ?」」
頭を下げ返す俺に、轟木夫婦の擬音がそろったけど、なぜか明日菜だけが、あきれたように、俺を見て、つぶやくように言った。
「さすが春馬くん」
あれ、なんか、ほめられた?
首を傾げて明日菜を見返すと、マスクで口元はわからなかったけど、きれいな瞳が、優しくつつみこむように、俺をみていた。
ちょっと泣きそうな、ほっとしたような、そんな潤んだきれいな瞳で。