第22話
朝ごはんの話をしていたら、始業開始時間になったんだけど、
ーなんでうちの課は、受付にいるんだ?
いや、理由は、かんたんだ。
イケカマ係長がそのまま、この場所で、朝礼をはじめたからだ。
ちなみにハゲ上司は、自分の部署に、急いで行った。
あの人やり手だから、他の部署も管轄している。
うちのプロジェクトリーダーは、イケカマ係長で、
「朝ごはんの問題って、たしかに深刻な問題よねー。プロジェクトの参考ついでに、ここで朝礼にしましょう。人数いないしね」
さきに出社した鈴木兄妹を、受付まで呼び出した。
俺と鈴木兄妹とイケカマ係長と受付さんのふたり。
柴原とイケメン先輩は、産休と育休でいない。
だからって、まったく関係ない受付嬢を2人参加させてどうするんだ?
いや同じ会社だから、関係なくは、ないのかな?
「いいじゃない。どうせアンタのほしい情報は、奥さん絡みでしょう?」
「まあ、そりゃあ、そうですけど」
「朝ごはんに限らず、食事って、だいじよねー。けど女性に限らず、いろんなダイエットもだいじよねー」
「ー矛盾してません?」
まあ、病気や関節痛とかでも、ダイエットはいるしな。
ただ、俺は、女性の体型については、よくわからない。
よく、タレントやアイドルにアンチ?とかが、
ーこの◯◯。もっと痩せろ!
とかコメントしてる気もするけど。
ーいや、誰基準⁈痩せてるぞ⁈
そもそも、
ーいや、その動物が痩せてたら、おいしくないだろ?
って、毎回、思うのが俺だ。
ちなみに、俺はそのアイドルやタレントを知らないから、
ーなんの基準⁈
なんだけど。
たまに明日菜関連で、なんとなく見てしまう時がある。
いや、明日菜は、たしかに華奢だけど。
「してないわよ?ねえ、優菜?」
「まあ、女子にすれば、そうですよね。思春期だと、かなり気になってくるし。痩せても痩せても、太ってる気になるし」
「そういえば、優菜も.あんまり食べなくて、家族が心配した時期があったね」
鈴木兄さんがいう。
もう会社だと、鈴木兄さん。
そうなった。
会社に同姓同名がいたし、本人が提案してきた。
まあ、無難だけど。
本人がいいなら、いいんだろうなあ。
ー本人がいいなら。
というか、
「えっ?鈴木さんって、ダイエットしてるの?明日菜からは、優菜は、毎食きちんとたべるよ?って、きいた事があるけど?」
俺が驚くと鈴木さんは、苦笑した。
「寮母さんがきびしかったし、明日菜が食べないだけだよ?明日菜って、ほんとうに食べないんだよね。私も心配なんだけど…。体質なのかなあ。お菓子もあまり食べない気がするけど」
そこで、言葉をくぎると、俺をみた。
「お菓子は、たんに村上くんのせいじゃないかなあ?彼氏の手作り食べないのに、他のお菓子を食べることが、無意識で許せなかったんじゃないかなあ?明日菜だし」
「ーたしかに。俺だな」
ここに、柴原がいなくて、よかった。いたら、確実に、なぐられてる。
軍曹といい、うえの上野さんといい、柴原といい、なんで俺のまわりの女子は、手がはやいんだ?
いや、
ー手がはやい。
って、いろんな意味があるけど。
俺はイケメン先輩をおとした柴原を思いだして、納得する。
ーたしかに、あいつは手がはやい。
イケメン先輩はのんびりというか、どっしりしてるから、
ーやっぱり、お似合い。
美女と野獣?
いや、
美女とゴリラ。
もう福岡の動物園には、いないシルバーバック。
福岡どころか日本では、数カ所でしか見れないシルバーバック。
貴重なシルバーバックをアイツは、手に入れた。
やっぱり、すげーな。柴原。
出産祝いを明日菜が軍曹に相談して、風呂上がりにも使えるオーガニック布製のタオルポンチョを贈っていた。
ちなみに俺は、柴原から紙オムツケーキなるものを要求された。
いろんなものが、ケーキになるんだなあ。
って感心したら、あとから違うものを請求しなおしやがった。
ー俺の給料って、お前より安いぞ⁈
相変わらず、俺の財布に、厳しい柴原。
だから国宝って、見るときに金いる事が多いのかなあ。
けど、宝物は、個人だから、たしかに大切な分、いろんな方法で金使ってでも、たいせつに維持して、守るよなあ。
まあ、明日菜の方が給料いいだろうけど。
ー俺の年収が明日菜を、上回ることって、あるのかなあ?
そういえば、明日菜って、俺との結婚が純愛だの、さすが恋愛ドラマのヒロインとか、さらにイメージアップしたらしいけど。
ーたんに俺が、安月給のサラリーマンだからじゃね?
これがIT企業とかの大金持ちなら、どう評価が変わるんだろ?
しあわせなら、関係なくね?
ー幸せにしないとダメだよなあ。俺が。
がんばって、明日菜を幸せにしないといけない。
ちがうか。
ーふたりで幸せを、きずいていくんだ。
人生が80歳を超えるとは、限らない。
明日、突然に、終わるかもしれない。それなら、
ーいまを、たいせつにする。
ーいまを、生きる。
よく言われる言葉で、
ーそう言われる意味が、最近になって、ようやく、わかってきた。
ようやく、だ。
だって、俺は、これから未来を、明日菜と歩んでいく。
ー行くけど。
俺が勝手にかけたオールリセットだし?
けど、あの時、ちゃんと明日菜の意思は、確認したよな?
ー婚姻届で。
偽物じゃないぞ?
有名人は、いや、あれって、わりと一般人でも被害があるから、決して他人事じゃないんだけど。
ー理由は、ちょっと違うけど。
まあ、率的にはー。
あの理由なら、一般人の方が被害は、多いだろうなあ。
逆にあの理由なら、有名人は避けるしな。
いまもあるのかなあ?
俺はスマホのニュース読まないし、最近は明日菜のためにニュースは、控えていたしなあ。
もう明日菜は、知ってるから、ふつうにみていいとは、わかってるけど。
繊細な明日菜には、きっと、いろんな情報や映像が、まだまだ負荷になる。
知ったいまでも、いや、いまからが俺は慎重になる。
たんなる過保護だ。
わかってるけど、わかってないのが、
ー俺なんだよなあ。
俺はほんとうに、失敗からしか学ばない。
成功から学ぶことがあったのかなあ?と
いうか、成功ってさあ、予想どおりの結末だよな?
なら、予想してるからー。
ー模範解答、じゃないのか?
は、違うんだよなあ。
成功体験がだいじ。
よくわかって、
ー俺は失敗からしか学べない。
も、よくわかる。
だから、
「俺が美味しいお菓子を、作ればいいのか?」
そう言うと、イケカマ係長があきれた。
「たぶん、食べないわよ?明日菜さん」
「…明日菜、わりと頑固だから」
鈴木さんにまで、哀れみをこめた眼差しで見られる俺。
「おふたりは、朝ごはん食べますか?」
鈴木さんが、受付さんたちにきいた。
「私は実家なんで、母が用意してくれるから.食べますけど。というか、運動部出身なんで朝は必ず食べますね。もう習慣です」
若い子がいう。
「えっ?運動部?室内系?」
「はい。キックボクシング部でした」
「「「えっ⁈」」」
って、珍しく俺まで驚いたのに。
「だから筋肉あるんだ」
鈴木兄さんがひとりだけ、うなずいてる。
「わかります⁈」
受付嬢が目を輝かせてる。
「うん。なんとなく」
「お兄ちゃん、相変わらず、よく人をみてるね?」
「みてるというか、目に入るだけだよ?優菜もみたらわかるだろ?」
「…わかんないよ?」
「村上くんは?」
「俺は明日菜と柴原しかわからないから」
「なんでそこでも真央なのよ、あんたは」
イケカマ係長が呆れると、もうひとりの受付さんがクスクス笑った。
「まあ、隠されるよりマシだと思うけど。ちなみに私は食べたり、食べなかったり。一人暮らしだから自由かなあ」
「アタシは食べるけど、旦那は食べないわね。食べるとキツイって言うわ。野菜や豆乳くらいね」
「やっぱり飲み物からですかね?」
とするとジャングルをミキサーにかけるのか?
そういえば、スムージーあるよな?
「とりあえず買う方が安心して飲むと思うわよ?それより、肝心なことを忘れてない?あんたの悩みとトラウマを、一気に取り払う方法があるわよ?素直な明日菜さんなら」
イケカマ係長がその話をして、
ー俺は一気に忙しくなった。
けど。
ーうちの会社って、自由だなあ。
けど。
たしかに、一理ある。
は、わかったんだ。やっぱり、きいて正解。
ーイケカマ係長。
うちの頼れるプロジェクトリーダー。




