第22話 彼女と隣人一家夫婦
ドライヤーをつかうと、音で、春馬くんに気がつかれちゃうと思ったから、髪は、まだ濡れていたけれど、仕方ない。
私は深呼吸してから、そのインターホンを押そうとして、先にドアが開いて、びっくりした。
中から、ショートカットのよく日焼けした活発そうな中学生くらいの女の子が、でてきた。
私をみて、大きな瞳を、さらにまん丸に、ひらくと、
「わあ、やっぱり、お母さんスゴイ!パパっ!きれいなお姉さんが、玄関の前にいたよ」
振り返って、快活な声で、言った。
「ああ、やっぱりかあ。相変わらず、純子さんの野生の勘はすごいなあ」
中から、優しそうな男の人が現れた。
この人が、春馬くんの言ってた一尉さんかな?
ラフなスェット姿だけど、背筋がぴんと、伸びていて、細身なのに鍛えてることが、わかるシルエット。
かっこいい人、という春馬くんの言葉通りの人だなあ。
その後ろから、
「やあ、昼間は、荷物をありがとう」
と、娘とよくにた顔のとなりのトトローじゃない、轟木純子さんが、迷彩服のスェット姿であらわれた。
本当に春馬くんのいう通り、迷彩柄のスェットなんだ。
「それで、どうしたんだい?珍しく村上くんの家が、騒がしいと、おもってたんだけど」
やっぱり、あんなに大騒ぎしていたら、わかっちゃうよね。
私は、顔があかくなるのを、感じつつ、あやまった。
「夜分にお騒がせして、申し訳ございません」
「いや、うちのほうが、いつもドタバタしていて、村上くんに、迷惑をかけているからね。べつに、いいいんだけど。…キミは、村上くんの彼女だよね?」
そう問いかけられて、私は名前を名乗るのを、一瞬ためらう。
でも、ためらっている場合じゃないと、思いなおした。
これからも、私が春馬くんと過ごすためには、絶対に必要なことだから。
「神城明日菜といいます。東京で、女優をしています」
そういって、私は、彼らから距離を十分にとって、マスクを外す。
マスクなしなら、距離がいる。
ーへんな時代。
純子さん以外のふたりが、目を見開いて私をみてる。
純子さんだけが、頭に?マークをうかべていたけど、
「ほらお母さん。この間お父さんとのデートで、見に行ってた映画のヒロイン役のひとだよ」
「あー、あの恋人でもない男どもとキスしていた破廉恥女か!」
その言い方は、ちょっと。
まあ、確かに、たくさんイケメン幼馴染たちから告白されて、毎回、強引にキスや壁ドンされるいまどきの少女漫画っぽい、ヒロインだったけど。
私は、表情がみえないように、またマスクをしなおす。
「そんな有名人が、村上くんの彼女か。まあ、彼なら納得もいくか」
「そうだねー。春馬兄ちゃん、いい男だし。私が、あと少し年を、とってたらなあ」
「ふつうは村上くんが、若かったらなあだぞ?」
「えー、だって、私と春馬兄ちゃん8歳も違うんだよ?私が22歳になったら、春馬兄ちゃん三十路じゃん」
「僕と純子さんの年齢差だろう?」
「だってお母さんたちは、お母さんが年下をゲットしたんじゃない。女の夢だよねえ。この間の映画も、年下の幼馴染を、結局はヒロインは、ゲットしてたし」
ーポケ○ンみたいに、言わないでほしい。
一応ロングランになるくらい大ヒットしている映画なんですけど。
それにしても、一尉さんと純子さんは、8歳差なのかあ。
一尉さんが落ち着いているからか、純子さんに落ちつきないからか、あんまり、年齢差は感じられないな。
ふたり並んでいると、間に娘さんがいらっしゃるからか、夫婦の雰囲気が、よく似ている。
「それで、神城さんは、こんな時間に、どんな要件なのかな?」
「えっと、それがー」
私はチラッと、中学生の娘さんをみる。
まさか一尉さんに、もらったアレが原因で、春馬くんが、トイレにとじこもっているとは、娘さんの前では、言いづらい。
その視線に気が付いて、純子さんが言ってくれた。
「いいか、萌。私はいまから、この破廉恥な女子と、大事な話がある」
「「「あれはそういう役!(です)」」」
私と轟木父娘の声がかぶる。
「冗談だ。それはともかく、大事な話がある。萌は凛が起きないか、みていてくれ」
なんかこの会話、親近感があるなあ。
萌ちゃんが、あきれたように、純子さんをみていた。
「お母さんと春馬兄ちゃんって、似てるよねー。はあい。わかりました。あっ、私、神成さんと、春馬兄ちゃん大好きだから、誰にもいわないから、安心しててね」
バイバイと、元気よく手をふると、萌ちゃんは、パタパタとスリッパをならして、奥にいく。
どうやら、萌ちゃんは一尉さんと同じ感覚の持ち主みたいで、助かった。
私も、純子さんと春馬くんには、通じるものがあると思うから。
一尉さんがそれで?と聞いてくれたので、中にいる萌ちゃんに聞こえない声量で、私は春馬くんが、一尉さんがくれたものをあけて、トイレに閉じこもって、泣いてしまったこと。
おそらく、私のために、いろいろといままで春馬くんが、我慢していただろうことも、すべてうちあけた。
話を聞き終わると、
「あんたが原因じゃないか!」
純子さんのまわし蹴りが、キレイに一尉さんのみぞおちに、ヒットしていた。