第11話
あんなに、きょうこそ、はやく帰ろって、思っていたのに。
俺は、人が少なくなった電車で、軽くため息をついた。
まあ、連絡ミスは俺だけど。
どうせ、再連絡しても、イケカマ係長がすでに午後出勤を決めていたけど。
ー重役出勤ならぬ、課員出勤?
まあ、みんな残業つづきだから、たんに休みたい。は、あるよな。
ーなら、もっと明日菜といちゃつけたのになあ。
いや、すべては俺の連絡ミスだしなあ。
ほうれんそう、って、だいじ。
ちなみに、
いかのおすし、もっと、だいじ。
だけど、どっちも
ー連携する。
すべてが、一本のラインする?
太い綱となる。
そういえば大きな綱がある神社って、多いよなあ。
あれってなんの意味だったかな?
脳の記録をめくろうとした時、電車が最寄駅についた。
時刻は11時近い。
一応、遅くなるから先に寝てて。
そう連絡した。明日菜と約束するときには、俺は明確な時間を、あまりいわない。
きかれたら、こたえていたけど、
ーあれ?きかれたこと、あったか?
マジかよ?
ほんとうに、
「ーマジかよ?ギリギリじゃん?」
だって、明日菜が東京に行ってから、あの18歳の誕生日まで、俺はたしかに、明日菜にきいていた。
ー何時くらいなら、連絡できそう?
それは、明日菜もおなじだった。
けど、明日菜が恋愛映画やドラマでほかのヤツとキスシーンをするたびに、
ーきか、なくなった。
ーきかれ、なくなった。
もともと俺は、こまめに連絡とるタイプじゃない。
けど、明日菜との連絡ツールのスマホを、かならず高校時代は、もっていた。
ーWi-Fiになんか一度も接続しないくらい、大切に、していたんだ。
それは、あのスマホに、かぎり、いまでも同じだけど。
あのスマホから、逃げ回ってたのも、
「俺だしなあ」
ほんとうに、どうしょうもないヤツだ。
まあ、いまは、わかるけど。
何時くらいとか言えない。
明日菜がきいたその時間に、俺からノーリアクションだったとしたら、
ー明日菜は、たくさん心配し、柴原にきいて。また、傷つく。
俺が明日菜を傷つける。だって、俺には、わからなかったんだ。
俺だって、新しい環境に、慣れるのが精一杯だったんだ。
南九州の片田舎から、九州イチの都会に来たんだ。
右も左もわからなかった。人付き合いが苦手な俺だけど、寮にいたんだ。
大学だって、先輩、後輩はある。同じ学年ても年齢が違う。
とくに現役率の低い名門校なら、学部なら、新入生でも年齢が違う。
それだけ苦労した学校だぞ?たくさん我慢して、勉強ばっかりしてたなら、そりゃあさあ。
ー少しくらいハメ外すは、わかる。
わかるなら、ある程度はつきあう。なら、ついうっかり連絡しないは、俺なら、ある。
あるってわかる。
ーそして、その行動は、明日菜を傷つける。
デタラメな脳が、そう間違えた予測をしたんだ。
いつだって、リアルは、俺の予想とは、違う結末を描くんだ。
だから、最悪を予測していく。
そして、間違えた!は、ふつうより、ずーっと多い。
俺には、ただ、なぞに、ぐるぐるまわるこの脳みそしかない。
たまに吐き気と頭痛に悩む。悩みすぎて、胃が痛いけど。
ー俺は、胃が弱い。
ただ、ぐるぐる回る思考が、すべての五感が完全に一致しない。
ただ、それだけで。
ーふつうにやれてるから、すげえなあ。いいなあ。ほしいなあ。
俺は、まわりに、そう思うんだ。すげーな。みんな、
ーいいなあ。
たくさん、いいなあ。
屋根からみる南九州の片田舎。視界にうつるたくさんの山。
たくさんの自然。
自然は予想不能。魚釣りも予想外。それが自然。
そうわかるけど、
屋根を走って、空高くジャンプして、
ーおちる。
は、むだに危険な高低差を、生み出す。
スピードにのったら、もっと、高くとべて、
ーむだにケガする率があがる。
は、わかるから、やらない。
ただ、真下に、すとんとおちる。
そこから、ひたすらに、火事がどこから起きたら、どこまで火が回る?
その時の風は?
どっちから、逃げていく?
その時、
ー俺は、家族をどう守る?
ー俺は、どうみすてる?
すべての最悪を、南九州の片田舎の屋根で、
予測していた。
ー学校で避難訓練を知ったから。
ー危険予測って、言葉を知ったから。
ーみんな、そうだよな?なんで、アニキはやらないんだろ?
だって、危険予測と避難訓練は、おなじじゃないのか?
幼い俺には、不思議で、しかたなかった。
そんな俺だから、まわりから浮いていた。
兄貴が俺の悪口を言われていた。
そう知った。兄貴は俺にいつも口うるさいくらい、
ー怒れよ!おまえの事だぞ!
そう怒っていた。
けど、
ーああ、そうか。みんな、やらないのか。
ーなら、いい。
きっと、そんな悲惨なリアルは、起きない。
ーなら、いい。
俺は、ただ、納得したんだ。
きっと、あれから、俺は屋根からおちる。は、ない。
兄貴のひとことがなかったら、どうしていたのかな?
ふと思う。
ただ、
ー怒りはない。なんで怒るんだ?違うなら、違っていい。むしろ、いい。
ー俺の頭は常にぐるぐる回る。吐き気がする。頭痛がする。ただ、胃が痛い。
が、違うなら、
ー怒りはない。むしろ、よくね?
たくさん、よくね?
こんな脳じゃないなら、
ーよくね?
いいじゃん。それで。
ただ、それしかない。ほんとうに、それしかない。
いや、なかった。
俺は、くらい道を帰りながら、苦笑する。
今日は天気がいい。南九州の片田舎までは、いかないけど、
ー星がみえる。
俺をてらす宵の明星。
ーVenus。
「なあ?明日菜?俺に怒りや嫉妬を、たくさんの優しさ、愛って、「感情」を、教えてくれたのは、おまえだよ?」
あの南九州の片田舎。
ただ、屋根からおちる。
繰り返していた猿みたいなヤツが。
「ーまさか、でさ」
やっぱり、宇宙に輝く、いちばん星。
俺を、優しく照らすんだ。
そして、
ーやっぱり、最低な彼氏だな。
を、自覚した。
森は嫌だけど。
コンビニスイーツ買うかな?
ー食べる、なら、いいんだよな?
ちなみに。いつも柴原の実家の職人さんたちが食べてくれたから、
ー味、しらない。
が、俺、なんだよなあ。
そもそも、あまいのあんまり食べないし。
なぞに空ちゃんブームの地球の形のグミ。
ーまずくねーの?
ほかにもいろいろなヤツ流行ってるけど。
ちなみに空ちゃんはグミ好きだけど、グミをあまり食べない萌ちゃん的には。
ーもう食べない。
らしい。
まあ、流行ってる年齢層も財布に、エグいよなあ。
って、思う。
し、まあ、けっきょくは、
ー空ちゃんはグミすき。
ー萌ちゃんはグミはあまり食べない。
まあ、なぞなお菓子は、まあ、流行る理由がある。
Youって、安心フィルターかけると高校生でもアプリ落とせないらしい。
まあ、たしかになあ。
でも、まあ、
ー子供達の情報収集能力、侮れない。
ママ友ネットワークもかなわない。
らしい。
ちなみにお茶会もある程度の年齢層までは規制される。
ただ、
ーYouはかなり厳しい規制がはいる。
マジか?
だけど、
そうだよなあ。
で、
あのグミ高いなあ。
あれは、You発じゃないよな?
まずそうだけど、美味いらしい。
世界戦略すげーな。
マジでよくできてる。
ターゲットも流行らせ方も。
財布に、えげつねー。
けど、
なら俺の手作りも、
ー人による?
なんだよなあ。
明日菜、マジでうーん?なんかないかなあ。




