SS 信号
「なんじゃと⁈うちのお嬢に男じゃと⁈」
わしは信号停車中に、つい叫んだ。
南九州の片田舎の故郷で、先代から技術をうけつぐ和菓子職人じゃ。
かたりは古いがまだ還暦じゃ!
わしの和菓子屋の看板娘のお嬢が自転車に乗って、となりの男と楽しそうに話している。
なんじゃ、あの男は!
まえに見かけた、
ーインスタントラーメンではないようじゃ。
しかも、あれはチャル○ラ。
曲がりに曲がった四角じゃ。
曲がりに曲がり、四角。
しかも縮れている。
すごいんじゃ。日本のラーメンは。
ちなみに、博多は、まっすぐじゃが。
あれは、博多っ子の気質か。
そもそも、
ーハリガネ。
もはや、生で食べたら?
茹でる意味があるのか?
まあ、食べているうちに味の染み込み方が違うんじゃろうが。
ーいや!そんなことより、お嬢!なんじゃその男は!
わしはイライラしながら左折のウィンカーをだす。
お嬢に声をかけるつもりじゃ。
信号がみどりにかわる。
誰がなんと言おうと、みどりにしかみえん!
横断歩道は歩行者優先じゃから、停車する。
お嬢とそいつは、自転車に乗って目の前にー。
ーん?お嬢しか通り過ぎてない?
怪訝そうに渡り終わったお嬢が振り返る。
わしも目線を追うと、真正面に自転車がある。
その後ろでしゃがみ込んで、靴紐をむすぶ小僧がいた。
堂々と横断歩道で止まってる。
わしはカチンときた。
歩行者信号はチカチカしている。
なのに小僧はどく気配をがなく、チラッと後ろに視線をやってるだけだ。
わしは怒鳴るために、窓を開けて、
「あっ、ゆっくりでいいですよ?」
自転車をとめて、お嬢が小僧を追い越し走って戻ってる。
ーん?
お嬢を目で追って気がついた。
シルバーカーをめいいっぱい頑張っておす高齢の女性がいる。
そういえば、さっき信号待ち中にもおった。
青信号ですぐシルバーカーをおしながら、必死に歩いていたんじゃろうが、シルバーカーを押しても歩く速度は遅い。
チカチカの信号でまだあと4分の1あった。
お嬢がすれ違ったと同時に小僧は立ち上がり、わしにペコリと頭をさげ、ほっとした顔をしていた。
そのまま自転車を持って立ち止まり、お嬢がシルバーカーの女性と無事に横断歩道を渡り終わった。
やつもふたりにつきそうように渡り終わった。
自転車を車側にし、自分を挟んで二人を隣にして歩く、靴は、
「なんじゃと?靴紐なんかないじゃないか?」
それがわしが小僧とのはじめての出会いで、
ーできれば、わしのあとを継いで欲しかった唯一の小僧じゃった。
今日、子供の病院から帰る途中、信号停車していたら、自転車に乗っていたふたりの女子高生が信号をわたりきる前に、ひとりが振り停車し、もうひとりは、歩道に自転車を止めて、シルバーカーの方をアシストしてました。
きちんと車に頭下げて、
ーすごいなあ?でした。
中学時代の春馬には、できないだろうから、めいいっぱいの行動です。
とにかく優しい光景でした。
いまはニュースみて、ひとりの同年代の子を持つ母親として、ちょっと川が書く気にならないです。最終話遅れてすいません。