⑳ 真央
小さな命が私の中で、儚く光り輝いた時から、私には、新しい世界が広がっている。
ほんとうに、生きているのか、ただ願い続けた日から、いまは、もうしっかりとした胎動を、私にだけ教えてくれる。
最初は、ウニューって、へんな感じだったけど、しだいにボコボコって、おしえてくれるように、なった。
それは、ほんとうに、不意打ちの時も多くて、当たり前だけど、
ーああ、私の身体だけど、私じゃない。
私だけ、の、身体じゃない。
ほんとうに、私自身が、そう思えるんだ。
ね?
明日菜。
ほんとうに、さ。
不思議なんだよ?
あの小さな星の瞬きみたいな、儚い輝きが。
あの小学校で飼ってるメダカの孵化みたいなエコー写真が、さ?
ーいま、たしかに、私の身体のなかで、動いているんだ。
そして、
ー明日には、とまって、しまうかもしれない。
ね?
知ってる?
明日菜。
ふつうに、この世に、生まれてきてくれる。
それだけ、が、どんなに、奇跡なのか。
ただ、私の身体から、べつの生命が生まれる。
ただ、それだけが、どんなに尊く、奇跡のかたまりなのか。
ただ、それだけを、ほんとうに、ママたちは願うんだよ?
そうして、願いが叶わない率の残酷な高さを知ってる?
受精卵にもランクがあるんだ。
たくさん、いろんな研究かあるんだ。
年齢だって、よくわからない。
ほんとうに、原因がわからない場合もあるんだよ?
ランクのいい受精卵を健全な若いママが頑張っても、
ーなぜか、着床しない。
ね?不妊治療の病院の駐車場には、たくさんの哀しみに満ちている。
たくさんの人が泣いているから、
ー喜ぶことが罪におもえた。
も、あるんだ。
だって、知ってしまった。
たくさん説明されて、知ってしまった。
心拍確認できない残酷さを。
心拍確認されたって。どんなに願っても、心拍数が弱い、とね。
ーほんとうに、残酷なんだ。
願っても、むだなんだ。
神さまを恨みたくなるんだ。
だって、
安定期は、ほんとうに、すべての妊婦に安定期ではないことを、
無事に、生まれてきてほしい。
ただ、つよく願うんだよ?
誰よりも願うんだよ?
ね?
いまお腹でぽこぽこ動いてる命は、あたりまえだけど、いつも動いてくれてるわけじゃない。
だって胎児って言われるけど、赤ちゃんだもん。
寝てる時間が多いんだ。だから、あまりに、ながい時間、動かないとね?
つい指先で、
トントン。
って、しちゃうんだ。
ー生きてる?
そう確認したくなるんだ。
そしたら、また、ウニューって、動いたり、怒っちゃたのかな?
ボコン!って、強く返事したり、してくるんだ。
ね?
知ってる?
明日菜?
それなのに。
あれだけ、元気だったのに。
ー私は、破水しちゃったんだ。
けど、もう予定日がすぐだったからさ?
あんまり、病院も私や先輩も家族も心配しなかった。
だって、もう予定日間近だったから、いつ生まれても問題なかったんだ。
破水から、始まる陣痛もあるのは、調べていたし。
だけど、余裕だったはず、だったのに。
赤ちゃんの心拍数が、どんどん、おかしくなって、私の嘔吐も、とまらなくて、
ー真夜中、だった。
個人の産院に、麻酔科医はいなくて、緊急帝王切開の判断が下された。
けど、真夜中、だったんだ。
ただ、私は苦しくて、赤ちゃんの心拍数もおかしくて、もうわけが、わからなくなっていく。
赤ちゃんの心拍数、私の苦しみと、容赦なくおそう悪阻ですら、体験しなかった激しい嘔吐。
ね?
明日菜?
帝王切開はね、できるだけ避けたいのはね?
ちゃんとした理由があるんだよ?
ほんとうに理由があるし、私みたいに、急変することだって、あるんだ。
ほんとだよ?
生まれてきた赤ちゃんの首に臍の緒が巻きついていた。
予想外の出来事はたくさんある。
羊水検査したって、遺伝子の異常はわかるけど、それ以外の病気や障がいはわからない。
ほんとうにね。
たくさんの奇跡が重なって、いまは医学的にも発達しているけど。
ー出産は、赤ちゃんも母親も命がけなんだ?
妊婦を襲う病気は、たくさんあるんだよ?
ほんとうに、出産は命がけなんだよ?
赤ちゃんも母親も。
ー結局、麻酔科医は、まにあわなかった。
私の大切なあの儚い輝きは、さ。
ね?
明日菜。
ー私が思うより、力強かったんだ。
麻酔科医が到着するまえに、強引に生まれてきた。
子宮口をおしあけて、ただ強引に会陰をズタボロに切り裂き、吸引機に助けてもらいながら、
「ああ、やった!」
「がんばったな!」
そう医師と助産師さんたちの声がして、
「ふにゃあー!」
って泣いた。
ああ、生きていた。
しっかり見たいけど、あまりに、強引に、この世界に、誕生してくれたからさ。
出血量が、すごくて、感動よりなにより、
ーああ、苦しみから解放された。
そして、
ーちゃんと、いたんだね?
やっと、
ー役目が終わった。
やっと、
解放された。
私は、そう思ったんだ。
ただ、出血がひどくて。吐きまくった唇はカサカサで。
カンガルーケア?
「ほら?お母さんだよ?」
助産師さんが私の身体にのせた重みは、羊水ぶん、かるいはずなのに、どっしりおもくて。
けど、
手足は、ものすごく、ちいさくてさ、まだ顔だちだって、はっきりしないのに、さ。
「あっ、笑ってる」
まだ笑うなんて、ないはずだから、たまたまなんだけど。
ほんとうに、あとからみた映像でね?あくびみたいな笑い方をしたんだよ?
ほんとうに、
ーずっしりとおもくて。
貧血で、処置したはずの傷口が深すぎて、翌日また縫うくらい、出血がとまらなくて、
ーなによりも、
そのずっしり、とした重みに、
「すいません、重くて、キツイです」
私はつい、そう言っていた。
貧血で、ただキツくて、けど、さ。
たかが2.6キロくらいの重さがさ。
ーずっしり、とした重みで。
ああ、私の子が、
ー生きて、この世にいる。
あまりに、強引なその生命力にさ。
ただ、
もう、
ーママは、勝てない。
なんかね?
そう私は、思っちゃってた。
ね?
明日菜。
不思議だよね?
ほんとうに、不思議だね?
あの、星の瞬きのような儚い輝きがさ。
最初に、この世界に、生まれてきたときにはさ。
ーめちゃくちゃ、命がけの力強さを、発揮するんだよ?
文字通り、
ー命がけ、なんだ、
そして、それはね?帝王切開だって、無痛分娩だって。なんだって、関係ないんだよ?
だって、私たちは、母親と子供は、たたかってきたんだ。
そしてー、
ね?
明日菜。
うちの子は、たまたま、力強かったんだ。
ほんとうに、ね?
たくさんの奇跡の塊、なんだ。
それがこれから先、私やイケメン先輩を苦しめるナニカをもつかもしれないけど。
ね?
明日菜。
たくさんの命がさ。
ほんとうに。
ー奇跡の塊になるんだ。
ただ、もう、その重みが。
ーいまは、愛おしくて、たまらない。
ね?
明日菜。
私は、いまから母親として、この子とあるきだすよ?
いままでは、私の中に、いた。
必ず私が、守れていた。
私のもの、だった。
だけど、さ。
もう、生まれちゃったんだ。
ー私じゃないんだよ?
ちゃんと、この子は、この子の道を歩み出した。
なら。
ね?
明日菜。
私も私のシルバーバックと同じだよ?
やっと、であえた、その輝きに。
ただ、
ーあえたね?
笑って、泣いて、怒って、たたかうのかな?
これから、たくさん、一緒に歩むけど。
人生が80年。
ね?
一緒にいられる時間は、ほんとうに、わずかだね?
そこまでは、導いてあげるよ?
けど。
貧血のせいか、あまりに、ずっしりとした重みに。
ーやれやれ。
これが20年以上続くのか?
って。思ったんだ。
ーナイショだよ?
ね?
明日菜。
ただ、いまは、
ーつかれたかなあ。
助産師さんの言葉に感謝して、初日の夜の授乳は、早々にギブアップした。
だって、
傷口の出血が塞がらなくて、翌日に縫合しなおしたから。
貧血がひどくて、輸血寸前だったんだ、
コロナで家族は制限されて。
ね?
まあ、
粉ミルクって、
ーべんり。
産院で知ったのが、私だった。
たくさんの理由で、病気や、アレルギーや、たくさんのバックグランドがある。
だから、むやみやたらに、母乳って粉ミルクを使用している母親には、言わないであげて?
きっと子育てには、たくさんバックグランドがあるんだよ?
よく帝王切開をして産んだ人にさ、出産の苦しみがわからないって、いまだに、言う人がいるんだ。
違うよ?
出産後の苦しみも、危険性もたかいから、できるだけ自然分娩を推奨するんだよ?
だって、赤ちゃんぶん、お腹をきるんだよ?
癒着だって、でてくるよ?
そんな痛みの中で授乳して、赤ちゃんを育てていくんだよ?
違うよ?
めちゃくちゃ、キツイんだ。
しかも私みたいなケースなら、陣痛にも苦しみぬいた。
文字通り、命がけなんだよ?
どんな出産だって、命がけなんだ。
だから、
ーこんなに、ずっしり、おもいんだね?
ただ、
この子の人生が幕をとじる時、私やイケメン先輩はどうでもいい。
ただ、しあわせな人生を、おくってほしい、
私やイケメン先輩が、そばにいれるのは、ほんとうに、わずかな時間なんだから。
ね?
明日菜。
いつか、必ず逢いに行くよ?
柴原は、俺の国宝。
そう毎回、言うアイツは、私の家宝をなんて言うんだろ?
私はただ、幸せだった。
だって、
ーやっと、
あえた。
ただ、しあわせだったんだよ?
読んで頂きありがとうございます。
少しでも面白かったら、どんな少数でもありがたいです。
⭐️やブックマークよろしくお願いします。
ふたりのハッピーエンドを見守って下さったら、嬉しいでしす。
第六章からR15変更してます。完結で、不定期で年齢制限なしのSS書きます。移動ほんとうにすいません。
親切な方からアドバイス頂きました。以前はこちらに載せていた7章からの話です。
https://ncode.syosetu.com/n6506hr
読んで頂きありがとうございました。