⑲ 明日菜の父
ー変なヤツだ。
俺は妻とそいつの話を、ききながら、思った。
ふつうに、
ー変なヤツだ。
そして、
ーまあ、だから、明日菜は選んだろうな。
は、わかった。正直、明日菜に彼氏がいた事もあのデミオ事件で初めて知らされたのが俺だ。
仕事が忙しく、子育ても家庭も、妻に丸投げだった。
それに娘なら、朝陽の方が俺は可愛い。明日菜ももちろん可愛いが、あまりに朝陽とも俺や陽太とも違っていて、
ーほんとうに俺の子か?
いや、ちがうな。
ーほんとうに俺と妻の子か?
だった。
俺にも妻にも似ていない。産院を疑っていた。
親戚から言われて、バカな俺は反対する妻を押しきり、DNA検査をした。
結果は、当たり前に、俺たちの子だった。
そして、俺には、罪悪感だけが残っていた。
罪悪感から逃げるように、仕事にうちこんだ。
稼いで食わせて、なに不自由ない暮らしを与えてやればいい、
いまから思えば、バカだ。もっと一緒に、たくさんの時間をいればよかった。
たった13歳で家を、俺の元をはなれて、いまや俺より年収がある。
もっと、そばにいれば、よかった。
明日菜は、俺の呼びかけには、反応しない。
俺以外の家族や事務所の人間には、反応するくせに、俺の呼びかけには、反応しない。
ー俺がいつも仕事に、逃げていたから。
いつだって、ちいさな明日菜がよってきて話そうとしても、
ーいま、忙しいからあとでな?
そう言って、あとできいてやったか?
いつだって、公園でだって、ついスマホを確認して、そのまま習慣で操作しなかったか?
俺の記憶の明日菜は、いつも笑っていたけど。
ーいつから、泣き顔をみていない?
朝陽はわわかりやすい娘だ。大学まで家にいたから、よくみていた。
明日菜も見ていた、
ーつもり、だった。
女の子なんて、そんなもんだ。いつかは、父親をきらいになる。
それが間違いだって、最近の若い奴らにきいて知った。
最近の子は、父親好きなまま育つことが多い?
いや?そういえば、朝陽は俺に対して、あまり態度が変わらなかった。
明日菜より、年の差分、俺はたくさん可愛がって、陽太はもっとかわいくて、
ー明日菜は、13歳で東京に行って。
もっといえば、明日菜の前に妻は、流産していて、俺はうけとめきれなくて、
ー流産した妻から、逃げてなかったか?
俺は愕然とした。バカな?いや、違う。
なんてバカだ?
いまごろ気づいた。明日菜じゃない。俺が仕事に逃げたのは、
ーねえ、話をきいて?
泣きながら言っていたのは、
泣きくずれていたのは?
ー俺は、ダレからにげた?
ーなにから、逃げ出した?
俺は愕然としていたら、
「俺が必ず明日菜の手をつかみます」
そして、絶対に今度こそ、守ります。
少し茶色がかった瞳が俺を見ながら、強い輝きをもっていた。
いつのまにか、カメラ機能をオンにしていたらしい。
俺ははじめて、そいつの顔をみた。
そして、
「俺に明日菜さんと一緒に歩む人生を、許してください。かならず、今度こそ、間違えないーは、言えないけど」
「「「「言えないのか⁈」」」」
めずらしく明日菜をのぞく神城家全員でつっこんでしまった。
そいつは少し茶色がかった瞳をきょとんとさせて、
「だって、絶対って言ったけど、現実は無理かなあ?だから、努力ってあるんだし?」
「前言撤回、はやすぎないか?」
俺が思わずいうと、
「だって、それが俺です」
あきれるくらい馬鹿正直に言いやがったから、
俺は、あきれて、
ー変なヤツだが、
ー変なヤツだが、
「絶対にひっぱりあげろ?」
俺の言葉に、
「絶対に俺が守ります」
…前言撤回もここまでくると、
もはや、苦笑いしかなかった。
なあ?明日菜。
俺はうつらうつらしている明日菜をみた。
なあ?
ーお前の未来を、こいつにたくしても、いいか?
昔は、いや、きっと、いまも。
親が勝手に、結婚相手を選ぶは、あるけど。
なあ?
明日菜。
ーこれは、どっちに、はいるんだ?
そして、俺はいまからでも妻に謝ろうと思った。
あとから、
ー死ぬまで、恨む。
言われて、びびったのは、もう仕方ない。
どうやら、死ぬまで、
ーいっしょにいてくれるらしい。
なら、
退職したら、どっか、のんびり旅行でもしよう。
退職まであと何年だ?
その頃には、笑っていてくれたら、いい。
なあ?
明日菜。
お前の未来を守るのは、もう俺たちじゃないかもしれないが、
ーいつか、また、いっしょに旅行に行こう?
あたらしい家族とともに。
きっと、また、
ー旅行に行こうな?
そして、
ーあの南九州の片田舎に、いつか帰っておいで?
地元の焼酎でむかえてやるよ?
悔しいけどな。
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