⑰ 懐かしい夢。
なつかしい夢を、またみそうになる。
明日菜に誘われてやってきた福岡県糸島半島のとある漁港。
春というよりは、もう初夏の陽射しがあつくて、明日菜は長袖のパーカーをはおっていたけれど、私は脱いで七分だけのTシャツになった。
「優菜、日焼けしちゃうよ?」
明日菜が心配してくれたけど、私は笑ったんだ。
「だいじょうぶだよ。いままで寒いところにいたし、もう私は日焼けを気にしなくていい立場だし」
明日菜は人気女優だからそうはいかないと知っている。
むかし、私もその夢をおいかけていたから、日焼けや美容には、とくに気をつけていた。
けど、私のくらしていた場所は、そんなことよりも、ずっと大切なことがおおくて、それに日本のように、簡単に物資は手に入らなかった。
それでもボランティアで行った私たちは、最低限の生活ができる環境だったけど、電気はとくに貴重だった。
私は日本で簡単にスマホに使えるバッテリーチャージャーを買ったけど。
最低限の使用率には、なってしまっている。
もうこれは、私にはくせになってしまうんだろうなあ。
だって、ほんとうに、
ー生活インフラが違う。
成田について、まず感じたのは、
ー息苦しさ。
心理的なものかと思ったけど、福岡空港にきて少し和らいで、
ーいま、糸島の漁港で、その潮風に深呼吸をしている。
陽射しもだけど、空気が違うんだ、
「いいところだね?」
「あの魚が釣れないならね?」
「明日菜、よくそんなんで、あの場所に来る気だったね?」
魚はいないけど、夏は虫がいる。
たくましく生きてる虫は、
ーたくましいとしか、言えない。
「…春馬くんだしね」
「…無茶苦茶だね?」
「…春馬くんだしね」
明日菜が苦笑する。
もし、あのまま明日菜があの場所に来ていたら、明日菜はどうなったのかな?
「優菜?」
明日菜が不思議そうに私を見たけど、私はただ、笑った。
ーもしものはなしを、いま、しても、きっと仕方ない。
明日菜は、いまを生きてる。
幸せそうに、笑ってる。
だから、私も笑った。
ほんとうは、あの場所をちょっと思い出して、泣きそうになったけど。
私は初夏の陽射しがまぶしい青空を見つめる。
世界中の天気も違って、海も違う。風の香りも、空気だって違う。
だけど、
ー太陽だけは、変わらない。
ね?
太古の昔から変わらないならさ、
「あっ、猫がアジもらってる。よかったね?」
あの猫は、村上くんじゃなく別の釣り人にアジをもらっていた。
ちゃっかり、してるなあ。
まぶしい太陽の陽射しにあふれた小さな漁港で、そののどかな光景に目を細めた。
太陽だけは、太古の昔から変わらない。
人類は地面に棒を突き立てて、時計をあみだしていったけど、
でもさ。棒なんか使わなくて人々は昔から、太陽や星をみて、時間や方角を学んでいったんだ。
きっとたくさんのことを、太陽はみていて、
そして、
いまも照らし続けてるんだ。
ねえ、明日菜。
あの生活インフラが日本ほどない場所ににはさ、
ー電気は貴重なんだ。
だけどさ、
星灯りってほんとうにあるんだよ?
まっくらな夜にさ、小さな星の瞬きは、ほんとうに小さい瞬きなのに、
何万個もそらにでるとね?
小さな星の瞬きが、さ。
ただ、ちいさなその輝きがさ、
ー無限のやさしさで、ちっぽけな人間をつつみこんで、照らしてくれるんだよ?
いつか私や明日菜がその胎に宿すかも知れない、ちいさな星の瞬きのような儚き輝きのように。
あのちいさな星の瞬きは、
きっと、
傷ついたおおくの、
ーむかしは、確かに、こどもだった、大人を。
私たちを、やさしく照らすのかな。
私はやさしい目で、
「あっ、また、釣ってる」
けど、あきれて笑う明日菜をみて、
笑うんだ。
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