⑭ 真央とゴリラと。
その会社は、私にとっては、第一希望の会社だった。
明日菜に語っていた、実家の和菓子をひろめたいは、嘘じゃない。
けど、売りたいだけなら、私はいちいち企業につとめて、地道な道を一歩ずつは、やらない。
私にとっては、その方法は、とても非効率な方法になる。
だって、ネット社会だ。
あんな南九州の方の、あんな片田舎からだって、簡単に世界発信できる時代だ。
むしろ、効率化を重視するならそっちで、直接利益にもなる。
ーけど。
私は私の目で、実家の和菓子が世界にどう利用されるのか、に、
ー興味があった。
世界的に大規模展開しているその会社は、慈善活動にも力をいれていた。
むしろ、そういう国々に、なにか貢献できる和菓子開発できないか。
餅は、高齢者や小さな子には、危ないけど、きな粉なんかは、健康食品としても注目されている。
見た目はまずは二の次、でいいから低価格で開発して、それで、現地でも生産可能なシステムをつくる。
伝統的な老舗だけど、世界のあらゆるところで、その国の原料で、独自の進化をする。
それは、もう和菓子と言えないかもしれないけど。
うちの技術がそういう新たな希望をみつけだすなら、とても素敵だと思った。
だって、メディアや媒体は、いくらあっても、本当の意味で、
ー飢えや渇きを、潤してくれない。
私はちゃんと自分の目で見て、話して、そしてたくさん、学びたいんだ。
もっともっと、世界を知りたい。
メディアがない地域のリアルをしりたい。
そうして、希望通り福岡支社に配属された。
ーあいつも、配属された。
村上春馬。
私にとって、大切な唯一無二の存在だけど、
ーそこに、恋愛感情は、いっさいない。
お互いにそう言い切れるし、村上のたいせつな彼女は、私にも大切な親友だ。
ー神城明日菜。
きっとまわりは、神様に愛されて生まれた子供と思う外見や、特別なナニカをもつ明日菜。
13歳でひとり上京して、いまでは若手人気No.1女優として、恋愛ドラマや映画でみない日はない。
特に、恋愛モノの明日菜の演技は、別格だった。
ほんとうに、別次元だった。
だって、そこには、
ー明日菜は、存在してないから。
ほんとうに、存在してないから。
ねえ?村上?
村上は、ほんとうに、気づいてあげられてる?
私は、会社で数人と話をしている村上をみる。
村上のまわりには、営業の数人が談笑している。
マスク姿で、パソコンをみながら、時々タブレットでも情報をみながら、
毛むくじゃらのゴリラみたいな村上の指導役の先輩が、村上に教えている。
福岡支社でいちばん、いや全店で営業成績がいい先輩。
ーあれで見た目が、ゴリラじゃなかったらなあ。
数回、会話したからわかるけど、いい人だけど、
ー真面目すぎる。自分に厳しすぎる。そのくせに、他人に甘すぎる。
村上がイケメン先輩って言うから、なんかそれが定着してしまったけど。
うちの会社で、彼を知らないなら、ふざけたあだ名やイジメとか、言われちゃうのかな?
ほんとうに、中身は、
ーイケメン。
誰よりも、イケメン。
だから、うちの支社では、そのまま素直に、
ーイケメン。
池 蓮。
村上はマヨネーズの赤ちゃんを、響きと赤ちゃんが同じってだけで、イタズラに所構わず矢を放つ、翼をもつ赤ちゃんを思い出すようなヤツだから、
ー池 蓮。
海外育ちでなまりがあるから、村上の中でイケメン先輩って、なっていて、
ーイケメン先輩は、ふつうに、受け入れていた。
ただふつうに、
ー村上をうけいれた。
だから、興味がでたんだ。
ね?
明日菜?
ないしょだよ?
だって、私たちのイタズラ好きなベイビーがさ、
ー村上だなんて、
なんか、嫌なんだ。
「どうした?真央」
うららかな春の陽射しで。
薄いピンクで満開の近所の河川敷。
お腹がおもい私の歩調にゆっくり、あわせてくれながら、私のやさしい毛むくじゃらのゴリラが笑ってる。
だから、私も笑った。
だって、ジャングルにいるはずのゴリラが、満開の桜をバックに笑ってるから。
私はただ、笑ってた。
ね?
明日菜。
満開の桜が、さあって風にまう。
あわいパステルピンクの花びらが、風にのって、やさしい世界をうつしだす。
きれいな世界が、瞳にうつる。
ね?
明日菜。
きっと、いまごろ再会できているね?
この満開の桜の下で、
たくさんの場所で、
きっと、満開になる季節は、バラバラで、桜前線なんて、言葉があって、
村上からは、弥生時代に桜はなかったって、きいたけど。
いまは、あるんだ。
ね?
明日菜?
いま、だから、
ー私たちは、この光景をみてる。
さあって、風が吹いて、たくさんの桜がまう。
花びらがいちめんに舞う。
小さな子たちがその花びらをつかもうと、一生懸命に手をのばして、時にはジャンプして追いかけてる。
ね?
明日菜。
ね?
「ん?」
私はやさしい目で、はしゃぎまわる小さな子たちを見つめている、私のゴリラの手をにぎった。
「また、来年も見れるかな?」
「ああ、また、みんなで、みにこよう」
必ずとは、言わないところが、
ーイケメン先輩らしい、な。
ね?
明日菜?
ー私は、きょうも笑ってるよ?
さあって、風がふいて、桜の花びらがまう。
きっと、毎年、桜前線を追って旅行していた人たちもこの数年は、我慢していたんだろうけど。
だいじょうぶたよ?
きっと、桜は、来年も咲くんだ。
弥生時代には、なかったけど、
ーいまだから、みえる風景なんだよ?
いまの日本にも、たくさん、いいことはあるんだよ?
ね?
明日菜?
私は笑って、満開の桜を楽しんだんだ。
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