④ 春馬の扇風機
「ただいま〜」
小学校から次男の春馬が帰ってきた。
真夏の太陽が容赦なく照りつける南九州の片田舎。
汗をかいた春馬はそのまま自室にランドセルを置いた。
「冷たいお茶のむ?」
「いい」
端的なこたえが帰ってくる。長男なら、まだいらない。ありがとう、あとで飲む。そういうこちらを気づかう言葉がかえってくるけど、
ーいらない。
ばっさり、春馬はいう。
悪気なく、いう子た。
ほんとうに春馬は、いま、お茶はいらない。
それだけなのだろう。
言い方を何度か教えていくうちに、春馬はどんどん無口になっていってしまった。
口を開いたら、相手を傷つける。
そう学んでしまったのかもしれない。
私も春馬はめんどくさくて、つい長男に話しかけてしまう。
春馬はランドセルを机に置くと、扇風機をつけた。
「暑いでしょ?クーラーは?」
薄手の綿100%のパーカーのフードを頭からすっぽりかぶって、春馬は体操座りをして扇風機の風にあたっていた。
返事はなかった。
ーほんとうに変わってる。
ただ、この件に関しては夫から、春馬のやらせたいようにやらせてあげてほしいと頼まれた。
夫は市役所勤務で、福祉課等を転々としている。
夫は春馬をみて思うところがあるらしいが、
ーおまえは否定するよ。
そう苦笑した。
母の私が春馬を否定するわけない。そう反発したら、
ーじゃあ。アスペルガーと言ったら、なにを思い出す?
言われてゾッとした。
発達障害の中でも特異な部類の発達障害だから。
「春馬はふつうよ」
つい言ってしまった私に夫は苦笑しただけだった。
あれ以来、私の頭の中にずーっと残ってる。
そして、
春馬は扇風機の前でパーカーのフードをすっぽりかぶって、他者を拒絶し、ただ小さな背中が切なくてあわれだった。
ーけど。
「わあ、かわいい、春馬くん。しあわせそうですね?」
私が幼少期の春馬のアルバムを、日本中に自慢できる春馬の花嫁さんにみせたら、彼女はとてもうれしそうに笑った。
ただ、素直に、
ーしあわせそう。
そう愛おしそうに笑っていた。
ありのままの春馬をうけとめる、その笑顔に、
「ありがとう」
私の瞳がうるんだのは、許してほしい。
ああ、よかったね?春馬。
ほんとうに、よかったね?
春のひだまりのように、やさしい私の春馬が、
ー輝くstarを手にしていた。
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