① 柴原真央と明日菜。
私が明日菜にであったのは、中学校の入学式前。
新しいピカピカの制服に、緊張とわくわくの新一年生だった私だ。
校門をくくると、なぜか人だかりができていた。
奇妙なひとだかり。
ー?
視線をおったら、ひとつの家族がいた。
年上らしい優しそうな面立ちの女子の先輩と、スーツをきた両親。
そして、
ーなに?この娘?
周囲の視線の意味が、はっきりと私にもわかった。
他者とは違う、
圧倒的な、ナニカをもつ存在、
きれい?
かわいい?
違う。
そんなかんたんな言葉じゃない。
ただ私は明日菜から、目を離せなくなったんだ?
あれから、もう10年以上たつけど、
私の親友は、いまも、しあわせに、画面の中で笑ってる。
ただ、おだやかな顔で、たくさんの仲間と一緒に番宣してる。
若手人気ナンバーワン女優の神城明日菜。
いまは、本名は村上明日菜。
あいつが強引につりあげた、
私のことを、
ー国宝。
明日菜のことを、
ー宝物。
相変わらずの思考で、堂々といいきる明日菜の大切な旦那様。
ー村上春馬。
私の悪友で、明日菜には悪いけど、私たちはお互いに唯一無二の存在だ。
おなじ特性だから。
ぼんやりと思っていたら、小さな泣き声がきこえてきた。
あっ、起きたかな。
「僕が行くから、真央はすこし休んでおきなよ?」
相変わらず私のシルバーバックは、
ー毛深い。
モジャモジャの手で、私の頭をぽんって撫でるけど。
「先輩、くさいです」
「あれ?石鹸で洗ったんだけどなあ」
首を傾げたとき、泣き声が大きくなった。
「あっ、いまいく。ごめんよ」
ゴリラが慌ててる。
やさしいうちのパパが、笑っている。
ようやく慣れた抱っこで、我が家の家宝がやってきた。
「オムツだった」
「ありがとう先輩」
先輩から、やわらかな布ごと私は、赤ちゃんをうけとる。
小さなやわらかな指が、私の指をキュッとにぎりしめた。
明日菜は、ヒロインだけど、今回の役は、新人の療育の先生役。
ー成長ストーリーみたい。
恋愛も絡むけど、メインじゃないから、ほのぼのした話みたいだ。
明日菜は、たくさんの子供達とあそぶ。
うけた理由は、たぶん私や村上のためかなあ。
あとは村上との間に生まれてくる子供のためだろう。
明日菜は、この単発ドラマが終わったら、少しながい休みにはいる。
真剣に、子供が欲しくなったらしい。
明日菜も村上も若いけど、検査をしてみると言ってた。
自然に授かれるなら、それがいいけど。
おなじ命だから。
むかしは試験管ベビーなんて呼ばれていた時代もあるし、やっぱり、いまでも不妊の原因は、
ー女性側。
間違えた情報が、独り歩きしている。
女性側の問題は、まだ治療法多いんだよ?
男性不妊の方が、治療がとても大変になっていくんだ。
いまは治療も進化してるけど、
ー男性不妊の確率は、ほんとうに不妊原因の50%だよ?
ただのタイミング療法ですら、排卵誘発剤やホルモンを整える注射で、奥さんは、とても大変なんだ。
そして、
ー俺は、射精できるから大丈夫。
そう誤解してるけど。
射精=精子がいるとは限らない。
射精できても精子がいるとは限らないんだよ?
精子奇形でも、妊娠はむずかしい。
男性側に、理解がまったくないから、
ー治療がおくれていく。
ーもうこれが最後だったんです。
私は私の腕にいる奇跡の塊にであった時に、きいてしまった慟哭を思い出した。
村上は積極的に検査を受ける気でいて、
ーあの二人なら乗り越えていくとは思うけど。
現実は、残酷だから、ほんとうに子供が出来なくて、それが理由で、キライじゃないけど、別れる夫婦は多い。
不妊治療にも、ちゃんと知識が夫婦でいる。
まあ、明日菜と村上なら、乗り越えていくんだろうなあ。
そもそも、明日菜は、最近、体調を崩してる。
このドラマが終わったら、病院に行くらしいけど。
検査薬で確認したみたいだ。
ただ、子宮外妊娠とかもあるから。かならず受診がいるけど。
番宣が終われば、また福岡に帰ってくる。
そして、
「真央は.いつ行くんだ?」
ゴリラがやさしく笑う。
「明日菜とは違う日かな」
一緒にいくのは、さけたい。
なにかあったら、ふたりともがキツくなる。
けど、もし、同じくまた、
ーあの星の瞬きのような、儚い鼓動がみれたなら。
どんなに、しあわせなんだろ。
ね?
明日菜。
はやく福岡に戻っておいで?