最終話 Time〜
俺と明日菜、轟木一家、柴原はオンライン、映画館で、オンライン。
ーべんり?
とある劇場にきていた。
明日菜がわくわくした顔で、俺たちを招待した、福岡のとあるシアター。
観客席には、鈴木兄妹もいる。
明日菜の俺へのサプライズらしいけど。
ーなんだ?
俺はあんまり、というか、当たり前に映画館にいい思い出はないぞ?
柴原がオンラインだから、まだいいけど。
柴原がとなりで、ヒールの高い先のとがったやつはいてたら、マジで泣きそうになるんだぞ?
妊娠しているから、いまはローヒールだけどさ。
もうかなり、おなかが、ふっくらしてきてる。
イケメン先輩は、まだ性別をしらされていないってぼやいていたけど、明日菜は柴原からきいているらしい。
俺には、
ー村上の口は、アイスクリームだから言っちゃダメ。
そう柴原から言われたって、教えてくれない。
さすが、柴原、俺の国宝。
ー俺の口はかるい。
ヘリウムガスよりかるい。
かるくて、なめらか。
ーアイスみたい。
ーチョコレートだっけ?
いや、チーズ?
「春馬兄ちゃん、うるさいよ?」
・・・中学生に注意された俺だ。
俺って、どうよ?
「あっ、はじまるよ?」
明日菜が言って、スクリーンにカウントダウンがはじまって、
ーえっ?
俺はおどろきに目を見開いた。
ーカチカチ。
それは時代の音。
時計の歴史は紀元前4000年までさかのぼる。
ー日時計。
人類最古の時計から映像がはじまっていく。
自然をあいてに人類は、時間を重ねてきたんだ。
地面にまっすぐに立てた棒からはじまって、石の柱にかわって、地面におとす影の位置や長さで時刻をしっていく。
ー自然から、たくさんヒントをへて、人間は進化し続けていく。
紀元前4000年前は、日本の縄文時代の中期だ。
旧石器時代との違いは、もうこのころには土器と弓矢が使用されていて、定住化していった。
そんな時代に、もう日時計が誕生していた。
紀元前2000年前のシュメールでは、現在も使われている六十進法の時間単位が考えられていた。
紀元前2000年前から、かわらない時計。
1日を12時間2組にわけたのは、古代エジプト人。
巨大なオベリスクの影を日時計にみたてたことが起源。
そしてさまざまな時代へと映像がきり変わっていく。
ーカチコチ。
時計のリズムが小さな劇場にひびいていく。
さまざまな時代の風景ともに、
ーカチコチ。
時計のちいさな、けど、正確なリズムが小さな劇場にひびいていく。
ーカチコチ。
紀元前からかわらない時間。
ただ、時をかさねる時代。
「ーあっ、おばあちゃんたち」
あの桜が舞う自然豊かな川に、桜に、ただやさしく笑っていた車いすのお婆さんやおじいさんのちいさな頃の白黒写真。
ー仲間とともに、戦火をひたすら、はしりぬけた人たち。
その腕に、時をきざむパステルカラーの腕時計。
公園であそぶ空ちゃんの腕にも空色の腕時計。
きらきらした眼差しで、勾玉をつくっていた萌ちゃんの腕にも空色の腕時計。
ーカチコチ。
ただ、
ー時をあゆもう。
やさしい明日菜の声がする。
やさしく凜ちゃんを抱き上げる軍曹の手にもパステルカラーの時計。
ー時計は、かわらない。
ひたすら正確に、リズムをかなでていく。
俺がいま息をのんだこの瞬間だって、
ーカチコチ。
時間は、ながれていく。
ーつらい時代だけど。
まっすぐに光にてをのばす凜ちゃんの手にもパステルカラーの腕時計。
ーかならず光はさすから。
満開の桜吹雪のなかで、走りよってだきあう鈴木さんと明日菜。
ーかならずまた、逢えるから。
ーカチコチ。
ただ、時計の音と明日菜の声がする。
ーきっと、光はさすから。
ただ、
ーカチコチ。
あの俺たちの時をとめてしまった腕時計とよく似た時計が。
ーカチコチ。
きっと、世界中の時をコロナがくるわせて、
ーカチコチ。
それでも、時間は、ただひたすら、正確なリズムを刻んでいく。
カチコチ。
ー人類は、進化し続ける。
価値観とともに進化し続ける。
そして、まなんでいくんだ。
ーカチコチ。
正確な時計ののリズムが、さまざまな病気とその克服法をしめしていく。
戦争のつらい歴史をうつしていくけど。
ーカチコチ。
時間はただ、時をきざんでいく。
一個の時計が壊れて、文明や自然が破壊しても、
ーカチコチ。
もう時計は、どこにでもある。
時代は、つねに時をきざんでいく。
つねに時が、きざまれていく。
もう紀元前から、ずっと変わらないんだ。
ーカチコチ。
ーいまがどんなにつらくても。
また、凜ちゃんの手のアップになる。
ちいさな手がまっすぐに空に、光にのばされていく。
ちいさな手がまっすぐに、未来へとのばされる。
ーいまはつらいけど。
時代はかわる。
ーちいさな手が未来をつかみとる。
生きてさえいれば。
ーカチコチ。
時はただ、前へとすすんで、
ーきっと、であえる。
光に。
まぶしい朝陽が、キラキラのきれいな海をてらしだして。
明日菜がうつる。
まぶしそうな瞳で、視線の先に、
「おっ!マジで釣れた!」
そううれしげな声で、せまい防波堤でぴょんぴょん飛び跳ねる逆光でみえない影だけど。
ーかならず夜明けがくる。
カチコチ。
明日菜が俺をみてわらう。
あのすこしあきれたように、けどやさしい笑いかたで。
ー生きていたら、かならず、
ー光はさすんだ。
朝陽がまぶしく糸島の真っ青な海をてらしている
俺と明日菜の腕時計が、時をしっかりきざむ。
そして、
映画館の大スクリーンで。
俺と明日菜のキスシーンがながれた。
俺は、ほんとうに、スクリーンのなかで、明日菜とキスをしていた。
ーカチコチ。
時代は、つねに進化している。
価値観は、つねに変わり続けていて。
ーカチコチ。
コロナでたくさんの命がうばわれて、そしてまた、ちがう悲しみと怒りで、失い続けている国もあるけれど。
それでも、
ーカチコチ。
ただ、時をきざんでいくなら。
凜ちゃんのちいさな手が、未来をつかみとるように、
ーただ、まっすぐに光をめざすんだ。
カチコチ。
ただ、時をきざんでいく。
紀元前からかわらない方法で、
だけど、
ーカチコチ。
人類は、人間は、たくさんの悲しみを糧に進化し続ける。
それなら、
きっと、
凜ちゃんのつかみとる時代は、
ー光はさすんだよ?
カチコチ。
紀元前からつづく時計。
この瞬間に失われる命もあるけど、生まれる命の方がきっと多いから。
ーカチコチ。
いつかはどっかの誰かが、天才がいろんなことをやっつけてくれるさ。
なあ?
ーカチコチ。
生きてさえいたら、さ。
かならず光はさすんだ。
だって、いま、
ー俺は映画館のおおきなスクリーンのなかで明日菜とキスしていて。
「私の最後のラブシーンだよ?」
明日菜が俺に一枚の紙をみせてきた。
ー契約書。
には、
ー明日菜のやりたい仕事だけをする。
そう書いてあった。
「私のファーストキスは春馬くんで、神城明日菜のラストキスも春馬くんだよ?」
明日菜が俺のとなりで、春のひだまりのように、やさしくわらった。
終わり。
いちおう完結です。
読んで頂きありがとうございます。
少しでも面白かったら、どんな少数でもありがたいです。
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ご親切菜方からアドバイス頂きました、
続編のアドレス?です。
https://ncode.syosetu.com/n6506hr/
内容的にR15変更してます。
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