第15話 彼女と彼氏と、あれ?また?
どきどきしながら、私はシャワーをあびたんだ。
いつもよりも丁寧にあらいながら、自分のからだにふれていく。
ー私のからだに、もうすぐ、春馬くんがふれるのかあ。
ね?
春馬くん?
どきどきもあるけど、不思議な気持ちにも、なったんだよ?
春馬くん以外の人に、直接さわられたことはないけれど。なんとかそれは、拒んでいたけど。
下着越しとはいえ、私は、春馬くん以外のひとにも、触られていた。
おおきなスクリーンの前で、春馬くんや真央が見ている前で。
私は、いつも感情を、凍らせていたけど。
スタートの合図とともに、頭の中のナニカが、カチリとスイッチがはいって、
ー神城明日菜。
になる。
オッケーの声と同時に、私は、また明日菜にもどっていたけど。
でも、あのころに、もどっていたのは、ほんとうに、春馬くんの明日菜、だったのかなあ。
あのふわふわの世界から、しっかり、目が覚めたら、私の過去のつらかったはずの出来事まで、曖昧になっていることに、最近きがついちゃったんだ。
あのふわふわの世界に、行くくらい、キツくて、つらかったはず、なんだけど。
ふわふわした感覚は、まだまだ、記憶というか、脳に残っていて、まるでお日様に干したばかりの布団みたいに、ふんわり私をつつんでくれてるんだ。
いつでも、
ーもどっておいで?
そう呼ばれてる気にもなるんだよ?
ふわふわの世界は、現実と夢の境目みたいに、ほんとうに、ふわふわだから、
ー楽だったんだ。
麻薬を私は知らないけど、精神薬に同じような常習性があることは、知ってる。
むかしは、大量のお薬が規制なく使用されていたから、いまでは信じられない量がだされていたんだって。
ただ、ゆっくり眠りたい。
でも、自分中のあらゆる怒りと哀しみに、心が疲れはてると、
ー眠りたいのに、眠れなくなる。
そうして、ひとによっては、きっと、二度と目覚めなくていい世界をもとめちゃうんだ。
そうなる前に救いたいなら、ゆっくり休ませたいなら、信頼できるおとな(医師等)を探すことからになるんだろうなあ。
私がつかれはてたのは、真央と春馬くんが一緒だったから。
ー私との専用だったはずのスマホに、真央がでたから。
私はこんなにつらいのに、いつも、私のそばには、いないくせに。
仕事だって、釣りだって、身勝手で。
ーいつも連絡は、一方的で、
なのに、
ー真央と春馬くんは、いつも一緒なんだ。
私のことなんか、どうでもいいんだ。
私にとって、大切なふたりにとって、私はどうでもいいんだね?
あの時に感じたのは、憎悪と、怒りと、哀しみと、
ーむなしさ。
ただ、
ーつかれた。
だったんだ。
喜怒哀楽。
よく目にしてる漢字だよね?
けど、あの時の私には、怒と哀しかなくて、
もとめたのは、
ー楽なせかい。
ただ、自分に、やさしい夢を見たかったんだよ?
もう、疲れちゃって、
ー立ち上がれない。
ー誰か、助けて?
必死に、そう願って、頑張ってたのに。
ー真央も春馬くんも、私のことをみてくれない。
ー私のくるしみは、誰にも理解されない。
ただ、キツくて、つらくて、
ーいきてることから、
にげたいよ?
だったんだ。
ーよくがんばったね?ゆっくりやすも?
千夏さんが私の頭を優しくなでてくれたから、
ー私はやっと、ゆっくり眠れたんだ。
ゆっくり、眠れて、
あのふわふわの世界は、ほんとにふわふわで、夢と現実がわかんなくて、
けど、タイミングよく、
ー春馬くんが、つりあげたんだ。
かなり強引で、私のことを放っていたくせにさ。
ほんとに、強引にさ。
ーひっぱりあげた。
ゆっくり、休憩したから。
慎重に、たくさんの人たちと連携しながら、本当に、最後は強引に、
ー現実世界に、ひっぱりあげた。
タイミングは、ほんとうに、紙一重なんだろうなあ。
それに、私の回復スピードは、異常にはやいんだ。
たぶん、私は、もう以前の明日菜じゃないんだ。
私の中で、なにかが確実に、変わっているけど、
ーよくわかんない。
シャワーのお湯をはじく私の肌はきれいだと我ながらおもう。
13歳の時からずっと、千夏さんや寮母さんが食事メニューなんかを、工夫してくれたから、
私は、基本的に小食だけど、バランスのよい食生活ができていたから、好き嫌い自体があまりない。
・・・春馬くんのあのお魚だけは、べつ。
どうしてあの魚って、高級魚になったんだろう。
最初に食べようとした人ってすごいなあ。
もともといまは害獣扱いになってる動物や生物は、食糧難で外国から取り入れたものもおおくて、
けど、高度経済成長とともに、忘れてしまった味で、もともと、口にあわなかったのかなあ。
単純に、食文化の違い。
文化って、おもしろいなあ。
そういう食文化が、日本は、たくさんあるけど。
ーおいしいぞ?
そう春馬くんや千夏さんたちは、いって、
ー先輩の彼氏、マジで、やばい。
後輩たちが無理して、春馬くんのプレゼントをたべていてくれたことをしった、私。
けっきょく、しばらくは、寮のお部屋は、あのままで、私が東京に行くときに使わせてもらうことになった。
私の生活拠点は、もう春馬くんのいる福岡になるけれど、仕事は続ける。
いまの世の中って、専業主婦のほうが少ないのかなあ?
千夏さんみたいに、男性より稼ぐ人たちは一定数いるし、
男女ともに独身はたくさんいる。
ふつうに楽しく生活してるし、友達も独身が多いなら、楽しい時間が増えていく。
千夏さんを見ていると、単純にかっこいいなあ、だし。
そういえば、事務所の先輩も、赤ちゃんができて、雰囲気がガラリと変わってた。
雰囲気がやわらかくなってたし、まもるひとができた眼差しだった。
子供が小さくても、働いて生活をしないといけない人たちも、当然たくさんいて、私みたいに、仕事が楽しいし、やりがいをもっているから働く、もあるんだろう。
日本人だけで、1億人だよ?
一億個の、いろいろな、バックグランドがあるんだよ?
バックグランドをしらないなら、もうなにもまわりは、言わないほうがいいんだ。
きっと、ふつうに生きていたら、
ー知らなくていい世界ばかりなんたよ?
きっと、世の中には、知らない事実が、たくさんあって、きっと、その知らない事実は、たくさんの人には、関係なくて、信じられないくらい、むごくて、悲惨で、けど、その現実と必死に、たたかっている人たちは、いまも日本にいて、そして、
ーのりこえられる人は、たぶん、ほんとうに、紙一重なんだ。
ほんとうに、少ないから、現実に、ひろまっていかないんだろう。
ほんとうに、いつだって、紙一重なんだと思うんだ。
いつだったか、不登校や引きこもりをテーマにしたドラマに、ちょい役で出演したことがあるんだよ?
8050問題。
けど、50よりも、若いたくさんの子たちが、ひきこもりだよ?
ひきこもりは、ほんとうに、ひきこもりなんだ。
ー世間を、知らないんだ。
そういう年齢から、引きこもった子もいるし、大人になって就職がうまくいかなくて、ひきこもりになったケースも多くて、
ー有名大学出身者も、実は、多いんだ。
受験に勝っても、生きる力に勝つとは、
ーかぎらない。
たぶん、適性のよみまちがえだと監督はいっていた。
こどもには、おとなにはない、可能性がたくさんある。
おとなが、親が、あきらめてしまった夢がまた見れる。
つい親は、子供たちに、自分たちのかなわなかった夢を、無意識に、求めちゃうんだろうけど、それは、たしかに愛情だけど。
・・・子供には、適性がある。
何回か医師にきいてみたことがある。
独特の発達をしていく真央や春馬くんが気になって、
ー将来、こういう子は、どうなっていくんですか?
こたえは、ごく、ふつう、だった。
うまくピースとピースがあって、興味がある仕事にであえたら、
ーふつうに社会生活ができる。ただ、それを見つけてあげるのが、むずかしい。
ほんとうに、そうだね?
ピースとピースがあったのは、私なんだ。
私には、女優という少数派の適性があって、運もよくて、
けど、運だけじゃない、適性が、あったんだ。
私を幼少期から苦しめ続けた、他者とはちがう、魅力は、私の天職につながったんだ。
はじめに気づいてくれたのは、だいすきなお姉ちゃんの親友。
中学時代に強引に私を演劇部に勧誘したひと。
そして、千夏さん。
ー親じゃなく他人だった。
むしろ私の両親は避けたはずの職業。
もちろん、逆が多い。
ただ、客観的に子供達をみてくれる人はいるのかもしれない。
子供自身が、本当に納得している夢ならいいけど、いつかは、親は、手放さないといけないんだから。
親から、独り立ちしないと、いけないんだから。
ー子供は、おやのもちもの、ではない、だから。
そして、
ー親だからって、一生そばにいれるわけじゃないよ?
親の方が当たり前にさきに老いていくんだよ?
とくに春馬くんや真央みたいな子なら、
その子の適性をみきわめて、ある程度の、夢の誘導、がいる子、も、中にはいる。
ほんとうに、体質や性格、いろいろなものへの探求心、すべてをみてあげて、そして子供たちが口にする夢が、どうしても実現できそうにないとき、例えば体質なんかで無理なら、それは、根性や努力でも、無理だから、
ーかならず、夢の誘導は、いるのだろう。
けど、そこに親としての希望が入ってしまったら、それは、もうその子の夢じゃなくなる。
かも、しれないから、失敗したら、
ー自分のせいじゃない。誰かのせいだ。
になって、しまうのかな?
私は、ちょい役だったから、あんまり考えずに役をこなしたけど。
丁寧にボディソープを洗い落としていく。
私にあこがれてくれる子たちも、そうなのかなあ。
私のいる世界は、特殊で、一般人よりも簡単に、優菜の話は多くなって、つねに誰かに監視されている。
国民総出で。パパラッチ。
ースマホがある。
すぐに、写真や動画がながれて、優菜みたいに簡単に、
ーうそ、が、真実になる、のがこの時代だ。
そんな世界を夢見てくれるし、いまは簡単にネットで自作の動画が配信されて、私たちよりもずっと有名で収入も高くて、
ーやっぱり、誹謗中傷は、おこっていく。
それが、ネットの世界だから。
脳の神経みたいだなあ。
無意識化で色々と身体のすべてを動かしている。
ネットもそうなんだろうなあ。
私だって中学校時代も、ううん、へたしたら小学校時代も、ネットで、いろいろと匿名で悪口をかかれていた。
・・・まあ、むかしから、陰口とかあったけど、ネットは、一瞬で、世界に発信されちゃうんだよ?
ー冗談だった?
ーかるいノリだよ?
ーあたまかたいなあ?
ーあそびじゃん。
ーあんな冗談、だれも信じるわけないじゃん?
・・・しんじるよ?
だって、嘘を、真実に、しちゃうのが、いまのネットだよ?
そして、もうすぐきっと、法律がどんどんできていく。
ネットの存在がまた言論の自由をとおざけるかもしれない。
けど、原因は、自分たちになるんだよ?
私は、かるく、ため息をついた。
春馬くんや真央が、つねに頭がぐるぐるまわっているっていうけど、私だってそうだなあ。
きょうって、いわゆる新婚初夜で、私はもう迷っていないんだけど。
・・・怖いな、は、あるけど。
だって、痛いってきくし。
男の人は生理もないし、女性ほど更年期がつよくでるわけでもないし、めんどくさくなくて、いいなあって素直に思うけど。
・・・子供が欲しくてたまらない人が、毎月くる生理に、どんなに絶望するのかなんて、考えたことないんだろうな。
ー若い子たちは。
ふつうに、いつでも子供は、かんたんに生まれる。
・・・そうまちがった知識が、ながれているんだろう。
実際に、若い時代の妊娠は、失敗っとられる事が多いのが日本だし。
たくさんの間違えた情報がながれて、ネット管理はムリだし。
私と春馬くんは、特別だけど。私は、特殊だけど。
春馬くんは・・・。
ーやっぱり春馬くんだね?
真央が、いちばん、ふつうに多いんだろうなあ。
うちの後輩たちもかなあ。
優菜は、夢に一直線だったから、あんまり恋愛話はしてないし、
ーおままごとの恋、だったのが、私と春馬くん。
浴室からでる。
寒くないし、春馬くんのバーカーをそのままきて、ドライヤーで頭を乾かして、脱衣所からでたら、春馬くんの姿がなかった。
一瞬、またトイレ?って、おもったけど。
トイレには、いないのは、さすがに、わかるよ?
きっと、もう春馬くんは、私にいえることは教えてくれるだろうし、春馬くんが私に伝えないことを、あえてきくことはしない。
それで、いいんだろうなあって、思っている。
夫婦は家族でもあるけど、別々の環境でそだってるから、価値観だって完璧なリンクは、むずかしいだろうし、私には、春馬くんや真央のみている世界は、わからない。
だから、成長するんだろうけど
ちょっとちがうかなあ?
・・・春馬くんの成長を、わたしは。見守るのかな?
ね?
春馬くん。
私は、やっぱり、笑うんだ。
そして春馬くんは、そとにいて、しあわせそうな顔で、轟一家の声をきいていた。
きょうも、春馬くんのファミリーマンションは、上下左右ににぎやかで、子供たちの声と、それを怒ったり、わらったり、忙しい大人の声にもあふれている。
そして、とても、やさしく春馬くんは、わらっていた。
ね?
春馬くん?
午年の春にうまれたから、春馬くん。
私は、春馬くんの笑う姿は、いつだって、春を思い出すんだよ?
あの真冬の屋上で凍えた私の心が、私の中の氷が、春馬くんの笑顔で、いつだって、雪解けをむかえるんだ。
ね?
春馬くん。
春馬くんが笑ってる。
わらって、そばにいてくれる。
ほんとうに、
ね?
春馬くん。
ー私のそばにいてくれて、ありがとう。
私はわらって、春馬くんに声をかけたんだ。
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