第14話 彼氏と彼女と彼氏と萌ちゃん
今夜はもう風呂は、沸かさなくていいと、明日菜が言って、はじめはやっぱり、レディファーストかな?
だったけど、明日菜が首をふった。
だから、俺が先にシャワーをあびて、ふつうに明日菜が脱衣所からでてくるのをまっている。
ほんとうなら、心臓が爆発しそうになるんだろうけど。
俺の頭の中には、
ー夜飯どうしよう?
だった。
明日菜は相変わらず小食らしい。
それは、俺の貴重なメル友の寮母さんから確認した。
いや、寮母さんはアコウ仲間かなあ。
「あっやべ」
車にクーラーボックスつんだままだ。
明日菜はまだ上がらないよな?
俺はこっそりと玄関から抜け出した。
だって、放置していたら、タントからオキアミの匂いがきえなくなる。
さすがにおふくろの車だし、明日菜からオキアミの匂いがするのは、まずい。
で、駐車場まで、クーラーボックスをとりにいくのが俺だ。
ー今夜って、ぞくにいう初夜じゃね?
しかも、明日菜、相手だぞ?
あいては、若手人気ナンバー女優だぞ?
そう昔のように考えても。
なんの意味もないなあ。
だって、ただの明日菜、じゃん?
なんだよな。
真冬のグランドの片隅で、必死に素振りしながら、みつけた。
真冬の屋上で凍えた瞳をしていた、豆粒みたいな明日菜をみつけた。
ー柴原と赤木がつきあっていたから、俺は明日菜と修学旅行で一緒の班になって、そして、明日菜は加納さんにみつけられて、東京に行って、遠距離恋愛で10年目。
一度は18歳で明日菜は福岡に、俺や柴原のもとにもどってくるはずだったのに、鈴木さんの事件がおこって、そして、俺はひたすら、傷ついく明日菜をまもることもせずに、自分の心の傷だけで精一杯で、
ーそしたら、コロナなんてものが、どっからか沸いてきた。
2年も会えなかったけど、こんな時代にも、顔あわせて話せたのに。
ーバカな俺はそんなことすら、あたりまえだって思っていて。
むしろ、いらねー情報ばっかりの世界だって思っていて、いまも実はあんまりかわらないけど。
ーその手段さえ断ち切られちまった。
画面ごしですら、あえなくなくった。
そして、はじめて、いままで、どんなに恵まれてたんだって、痛感したんだ。
きっと、いまも入院している人たちは、そうだろう。
・・・いまもコロナは、大人がおもうよりも大きな心の傷を、子供たちに、のこしている。
もう大人はコロナが、あたりまえになってしまったけれど、それは、あくまで、大人の世界なんだ。
つい最近、柴原の姪っ子が、コロナに感染したらしい。
かかりたくなくて、その子はワクチンもうっていたらしい。
ーコロナには、絶対にかかりたくなかった。
もう大人たちは、コロナをあまり脅威に考えていないだろう。
柴原の姪っ子が住む地域は、大都会で、コロナの流行地域だ。
当たり前にコロナは、身近なものになっていたけど。
ーコロナには、ぜったいに、かかりたくなかった。
そうわずか7歳の子がないたそうだ。
大人はそこまでの想いを、コロナに、いだくんだろうか?
コロナにくわえて、ニュースではもっと悲惨な世界情勢になってしまっている。
どんなにニュースをみないようにしたって、一瞬のCMにまぎれてしまうなら、もう無理で、ふつうに学校で子供たちの間でも世界情勢は耳にはいっている。
そして、そのニュースが終われば、今度はコロナの第7波?
ーいいかげんにしてくれよ?
なんで子供たちを苦しみのどんぞこにつきおとすんだよ。
ーいいかげんにしてくれよ?
かみさまって存在が、ほんとうにいるのならさ、
大人は、もういいんだ。
ーいまの時代をひたすら純粋に、たくさんの恐怖にわおびえてたえて、健気に笑う子供たちの未来を、明るく照らしてやってくれよ?
なんで、コロナにくわえて、こんな世界情勢だよ。
・・・子供たちは、思春期は、ほんとうに特別なんだ。
・・・繊細なんだ。
・・・子供たちは視覚優位で、
そして、
・・・女の子たちは共感性に優れている。
思春期は、とくにどんな子だって、危ういんだ。
明日菜みたいに、特別な何かがなくても、
ー思春期。
ほんとうに、特別で、俺たち大人は、
ー絶対に、昔は、子供だったんだ。
だろ?
クーラーボックスをもって、マンションの階段をあがっていたら、萌ちゃんがちょうどベランダから外をみていた。
夕日がおちて一番星がみえていた。
その瞳が、せつなくじっと、その星をみている。
俺はつい足をとめて、なぜか階段の陰にかくれてしまった。
萌ちゃんは俺に気づかないで、ただ、夜空に輝く一番星をみていたら。
「あっ、パパだ」
萌ちゃんが、つぶやくようにいったかと思うと、にっこりとわらった。
とても、うれし気に、わらった。
「お母さん、パパが帰ってきたよ?」
元気よく、玄関から家にもどっていった。
満面の笑みで家に帰っていった。
俺はほっと息をついたら、エレベータの作動音がして一尉が、なかから出てきたんだ。
一尉も俺に気づくことなく、玄関からなかにはいっていった。
ただ、
「ただいまー」
そう一尉の声がして、
「おかえり!」
って元気な子供たちと軍曹のにぎやかな声がきこえた。
俺はしばらくは階段のそばからうごけなくて、
「春馬くん。中に行こう」
俺のバーガーを着た明日菜が呼びにきてくれた。
ちなみにその姿を運悪く、軍曹にみられたから、
ーほらみろ、破廉恥じゃないか!
軍曹が勝利の雄叫びあげるけどさあ。
いまだって、女だって叫ぶんだ。
きゃー!
あれぞ、満員電車で、善良な乗客が、どきってなる瞬間だよなあ。
女の悲鳴って、すげ〜武器で、
けど、
叫べないなら、まけるんだ。
かあ。
とりあえず、
「かわいいな、服」
「春馬くんのだけどね?」
ーだよなあ。
だけど。
俺と明日菜は、自分たちの部屋に戻った。
まあ、去年の春にみた萌ちゃんより、明るくみえた。
となりの轟一家は、というか、俺のファミリーマンションは、今日も上下左右で、
にぎやかだなあ。
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