第6話 彼女と優菜
「お風呂、先にかりるね?」
そう言って、明日菜がお風呂に向かった。
私は加納さんが残した肴や缶ビールを片付ける。
これはもう私にとって、クセみたいになってる。
明日菜がお風呂から出たら、すべて私にやらせたって、謝るんだろうけど、私にはもう習慣化してるんだ。
お兄ちゃんと暮らしていた土地は、国は貧しくて、自然の厳しさと貧富の差を実感した土地。
私を、たくさん成長させてくれて、
ーただ、いきる。
それがどんなに、大変なのかわかってしまった場所だった。
私が逃げ出すように、日本からはなれて、メディアやネットから逃れて、たどりついた場所。
いままでの苦しみとは、違う苦しみと挫折と、でも、やりがいを与えてくれた仕事だった。
ーたくさん、傷ついた。
ーたくさん、嫌だと思った。
ーたくさん、もう楽になりたいって、
ーいつも、お兄ちゃんをこまらせた。
そしたら、
ーいいよ?いっしょに、にげよう?
あっさり、お兄ちゃんが連れて、にげてくれたんだ。
ーもっと、過酷な世界に。
お兄ちゃんは、明日菜を残してにげた私に、身勝手な悲嘆にくれるヒロインを演じることを、ゆるさなかった。
だけど、見捨てもしなかった。ただ、私ならのりきれる。
そう信じて、私を新たな夢に、導いてくれた。
お兄ちゃんは、不登校だったけど、ゆっくり休んで、フリースクールをへて、大学に進学した。
大学でいろいろ学んで、けど卒業後は、ふらふら外国を旅して、結局は、よくわからないボランティア団体に所属していた。
ー有名な児童本を、自ら翻訳して、違和感からもう続きの話が読めなくなったひと。
私には理解してあげられない苦しみを、けれど、真正面からうけとめて、
ーお兄ちゃんは、ほんとうに前向きで、好奇心にあふれている。
ね?
明日菜。
きっと、お兄ちゃんと明日菜のたいせつな春馬くん、はさ。
「似てるんだよね?」
ーお兄ちゃんみたいな人なら、考えたなあ。
は、
明日菜の彼みたいな人だったら、恋できるかなあ?
でも実はあるんだ。
でも、
「なかなか、であえないなあ」
どこかに私が信じられる人は、私をトラウマから、ひっぱりあげてくれる人は、いるのかな?
「いいなあ。明日菜」
初恋が明日菜みたいに、実ることもあるんだね?
私は、眠る加納さんをみつめる。
加納さんは、仕事に生きている。明日菜と、これからも生きていく。
ううん。明日菜だけでなく、たくさんの若手をまた育てていくんだね?
ー福岡支社は、あくがつよいんだってさあ。
お兄ちゃんからは、そうきいてる。
アジアの玄関口ともよばれる福岡。
福岡支社は特別だと、お兄ちゃんは説明をうけたらしい。
特殊な特性や環境、たくさんの個性をもつ人たちが配属されている。
ーただ、個性的。
その個性を本心から、
ーただの、個性。
そう思える人たちだけを、あえて配置してあるらしい。
たくさん、心に傷をもって、けれど、それでも生きていく彼らは、
ーつよいし、信頼できる。
のびのび仕事にはげめるように、ただその個性を。
ー個性。
そうありのままにとらえられる人たちだけで、構成されている実験的な支社らしい。
都会すぎず田舎すぎす、そして、アジアの玄関口とも呼ばれる福岡に支社をたてた理由らしい。
今回、お兄ちゃんは、会社とたくさん話をしていた。
ー私を守るために。
たくさん、話し合いをしていた。
そして、すべてを私に話してくれた。
だから、ちょっとだけ、期待もしてるんだ。
そういう支社の、特殊なプロジェクトに参加させてもらえるなら。
ーきっと、すてきなであいが私にもおとずれる、かも?
そう希望がもてるんだよ?
ーおままごとの恋だよ?明日菜先輩は。
そういつも野良猫みたいな子が、言っていた恋だったね?
じつは、私もそう思って恋を、明日菜や彼は、ほんとうに、未来にした。
おままごとを、現実にした。
ね?
明日菜。
明日菜はさ、
「女の子たちが夢みる未来を、叶えたんだよ?」
それは、きっと、
ーすごいことなんだ。
神城明日菜。
日本中に愛されてる若手ナンバーワン女優。
それだけでもたくさんの憧れなのにさ。
ー初恋は実って、おままごとでさえ、現実にできた。
ね?
明日菜。
やっぱり、さ。
「いいなあ、明日菜」
私は苦笑した。
明日菜には、いろんな意味で、かなわいし、
ね?
やっぱり。
ーやさしい人には、やさしい未来がくるんだね?
私の大好きな明日菜が笑ってる。
私はただ、しあわせなんだ。
ね?
明日菜。
私は眠ってる加納さんに小さくつぶやいた。
「ありがとうございます」
私や明日菜は、ほんとうに、たくさんのひとにみまもられながら、
ーまた、わらえてるね?
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