第5話 彼女と彼氏と兄弟児
「寝ちゃったね?」
優菜が千夏さんに毛布をかけてあげながら、笑った。
最近は、あまり寝てなかったらしい。
ー優菜や私の心配で。
私はほんとうに、まわりに、恵まれている。
ね?
春馬くん。
私はほんとうに、めぐまれてるんだ。
千夏さんのまだ微笑んでるような寝顔に、私はついうつむいてしまう。
たくさん、迷惑をかけた。
たくさん、心配をかけた。
たくさん、愛情をかけてもらって、
ーようやく私には、まわりが見えはじめたんだ。
ね?
春馬くん。
春馬くんが願ってくれた東京で、私はたくさんのやさしい人たちに、であえたよ?
あの日、修学旅行で、千夏さんが私をみつけてくれたから、だから、であえたんた。
不思議だね?
ほんとうに、不思議だね?
たくさんの奇跡や偶然がかさなって、私はまた、おだやかに笑う優菜のそばにいる。
ね?
春馬くん。
ほんとうに、不思議なんだ。
あの真冬の屋上で、あきらめちゃったら、こんなふうに笑えてたのかな?
修学旅行で千夏さんに、みつけてもらえなかったら、
ー私は、いま、いたのかな?
ね?
春馬くん。
ほんとうに、不思議だね?
たくさんの奇跡が重なって、いま私は生きているんだ。
ね?
不思議だね?
いきてるから、優菜が目の前で優しく笑ってる。
また。
笑ってる。
ね?
不思議だけど、
「夢じゃないよね?」
つい優菜にきいちゃったよ?
だって、春馬くんや真央より、ずっと、あの東京で、私のそばにいたんだ。
ー鈴木優菜。
私の大切な親友。
かたくなに名前で呼べない私を、春馬くんや真央にこだわる私を、ただ、優しくだまって見守ってくれていた。
優菜には、わかってたんだ。きっと。
だって、優菜は、兄弟児だもん。
優菜のお兄ちゃんは、春馬くんや真央にちかい人。
優菜は、ずっと、そんなお兄ちゃんをみて育った兄弟児。
以前に優菜からきいたことがある、
優菜のお兄ちゃんは、まわりとあまりに違う自分が嫌で、不登校になったらしい。
そして、優菜のお母さんもお父さんも、優菜に必ず、
ーお兄ちゃんは休むけど、優菜はどうしたい?
そうきいてくれたらしい。
優菜は学校が好きだから、ふつうに通ってたけど、
ーそのひとことが、ちゃんと、私のことも、みてくれる。
そうわかって、うれしかったって、笑ってた
そして、優菜だけの特別な時間を、両親はくれたらしい。
ちょっとだけ公園に行ったり、アイスたべたり、がんばったご褒美かあったっと笑ってた。
それにお兄ちゃんにも、じつは優菜には内緒のそういう時間があったそうだ。
だから、優菜はお兄ちゃんが大好きでいられたって笑ってた。
ちゃんと、両親がお兄ちゃんだけじゃなく、自分のことも、みてくれている。
そう安心したらしい。
春馬くんは、あんまり年子のお兄さんの話しをしない。
私は中学校でよく告白されていて、たぶん、春馬くんのお兄さんからも告白されてる。
ーけど、印象ないなあ。
私と春馬くんが一緒にいたのは、中2の5月から8月までの3ヶ月。
ーまだまだ、私は春馬くんをしらないし。
「ーあっ」
「どうしたの?」
「私、春馬くんのご家族に、あったことないし、お話をしたことない」
ーお兄さんの告白はべつ。
「明日菜のご家族に旦那さんは、あってるの?」
「直接はあってないけど、話はしたみたい」
あのふわふわの世界にいた時のお話だから、あまり知らない。
ただ、春馬くんがひとりでできた、春馬くんがいうオールリセットじゃない。
たくさんの人が手をかしてくれたからできた、
ーオールリセット。
私の両親をよく説得できたなあ。
口下手な春馬くんが、どうやって説得したんだろう?
お母さんやお姉ちゃんはともかく、お父さんやお兄ちゃんもいたよね?
ね?
春馬くん。
たくさん、がんばってくれたんだね?
ね?
ほら。やっぱり、
ー私は、笑うんだ。
「ほんとうに、彼をおもいだしてる時の明日菜は、変わらないね?」
優菜があきれて私を見てる。
「えっ?」
「明日菜の様子を加納さんからきいて、実は心配してたんだ。彼氏が強引に結婚したんじゃないかって」
「ちがうよ?ちゃんと、私がサインしたよ?」
ーめちゃくちゃ、強引だったけど。
どこにあんな行動力があったのかなあ?
ふわふわの世界にいくまでは、私に本心をかくしてた。
ずっと、
ー言えない想い、をかかえていた。
私も春馬くんも。
おたがいに想いあって、
ー想いを心にしまいこんだ。
ね?
春馬くん。
いまなら、わかるよ?
言えない想いを口にすることは、ほんとうに勇気がいるんだ。
言えない想いをかかえちゃったら。ずーっと、何層にも重なっていくんだ。
きっと、あの吉野ヶ里で春馬くんが体験していた化石発掘の地層みたいに。
ー30万年まえの地層みたいに。
カチカチに硬いかわいた木みたいになるんだ。
ーでも。
「だいじょうぶだよ?優菜。春馬くんも私もちゃんと、言葉にできてるよ?」
春馬くんがトイレにこもってた時とは違う。
きっといまなら、もうトイレにはこもらない。
ーあのなぞに輝くレインボードレッシング使わないなら。
ぜったいに、味見する気ないよね?
あれは単純に春馬くんが遊んでる。好奇心でやってる。
ー食べ物で遊んじゃダメだよ?
いつ教えようかなあ?
でも、春馬くんの貴重な好奇心をみたす遊びだろうしなあ。
少なくても真央の実家の和菓子屋さんには大人気だし、うちの寮の後輩たちはー、
あれ?
ほんとうに喜んでたかなあ?
「明日菜?」
だまりこんだ私を優菜が少し心配そうにみてる。
私は我にかえった。
「あっ、ごめん。でも、ほんとうに、だいじょうぶだよ?」
「ほんと?明日菜は、いつも笑って、がんばっちゃうから、心配なんだよ?私たちをもっと頼ってくれたらいいのにさ」
「それは優菜もだよ?」
「明日菜だよ?だってー」
「「やさしい人には、やさしい人があつまるんだよ?」」
私と優菜の声が重なって、私たちは笑ったんだ。
ね?
春馬くん。
春馬くんがあの化石発掘で、ノミとカナヅチで、あの硬い地層をわったように、
ー言えない想いの地層だって、きっと、かならず、こわせるんだよ?
あつさ5センチがさ、5ミリくらいまで、わって薄くなっていくんだよ?
30万年の言えない想いだって、きっと、割れるんだ。
ね?
春馬くん。
あれだけ割って、小さなシダ植物しかなかったって苦笑いしてたけどさ。
「優菜はさ。30万年前の地層って興味ない?」
私は笑って優菜にきいたんだ。
あの地層を持って帰れるなんて、すごいなあ。
しかも、250円。
春馬くんと行くとなんかつかれそうだし、優菜や千夏さんとゆっくりいこうかなあ。
あっ、春馬くんの相手は、優菜のお兄ちゃんにまかせればいいのかな?
「なあに?突然?」
「じつはね、優菜ー」
私はわくわくしながら。優菜に話したんだ。
あの不思議なタイムトラベルできる歴史公園を。
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