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第4話 彼女と彼氏と彼女のマネージャー。


契約をすませると、場の雰囲気がいっそう、やわらかなものになった。


もともと私と優菜と千夏さんは、仲がいい。


というか、千夏さんは、面倒見がいい。


ー過保護だよ。先輩のマネージャーは。


東京の後輩たちがそういうくらいには、千夏さんは、過保護だ。


ー文字通り、過保護。


過保護だから、私はここまで、もったんだろうなあ。


私の心は、一度、あの真冬の屋上で凍ってしまったから。


千夏さんや寮母さんが過保護なくらいに私の心を見守ってくれたから。


ーわたしは、いま、生きている。


「ありかとう千夏さん」


「なあに?急に?」


「ううん。言いたくなっただけだよ」


「そう?」


「うん」


私はたちあがって、千夏さんを後ろからだきしめた。


千夏さんの香水の匂いが私をつつみこむ。


東京でいつも私のそばにあったにおい。


ね?


春馬くん。


春馬君とのファーストキスの思い出を私は一生忘れないよ?


あの汗となんともいえない夏の部室と、グランドの土埃と、


ームカデ。


・・・ごめん、ちがう。


あのムカデには、誰も勝てないと、私は思うんだ。


ね?


春馬くん。


私は神城明日菜に、もどるんだけど。


芸名だけど。


本名だ。


本名だけど、


芸名になる?


ーどっち?!


まあ、どっちでもいいのかあ。


だいすきな神城がなのれる。


春馬くんがいうラッキーなのかなあ。


そして、神城明日菜は若手人気ナンバーワン女優。


その私のファーストキスのいちばんの思い出が、


ームカデ。


はじめての彼氏のプレゼントが、


ー殺虫剤。


そして、そんな初恋の彼と、


ー遠距離恋愛10年目で、結婚しました。


「・・・私と春馬くんって、じつは大恋愛?」


「いまごろ気づいたの?明日菜ってば」


優菜が呆れている。


「そういう優菜は?」


「うーん?私は、なんかもう恋愛っていうか男性不信かなあ。お兄ちゃんみたいな人がいたら考えるけど」


「まあ、あんなやつばかりじゃないわよ」


千夏さんが優菜の頭をやさしくなでる。


優菜の男性不信の原因は、優菜自身じゃなくて友達をまもるために、犠牲になっちゃったからだ。


優菜自身の経験じゃないトラウマ。優しい優菜だから、なったトラウマ。


優菜には、幸せになってほしいけど。


「ー千夏さんは?」


私は千夏さんも、幸せになってほしい。


結婚がすべてじゃない。わかってるし、千夏さんは生き生きしていて楽しそうだし。


きっとひとりが気楽だと思うし。


ー私には、春馬くんがいて、春馬くんがいない未来は、やっぱり想像できない。


できれば春馬くんとの間に子供がほしい、


ほしいけど、きっと、春馬くんや真央と同じような子になる確率が高いんだろうなあ、


ー遺伝子って不思議。


どこまでさかのぼれるんだろ?


「んー?明日菜をみつけてなかったら、結婚していたたかもね」


「えっ?」


「ちょうど、明日菜をスカウトする時にね、3年くらいつきあっていた彼にプロポーズされたのよね・・・」


千夏さんが缶ビールをあける。


ちなみに千夏さんは缶ビールを缶のまま飲む人。私はもともと飲まないけど。


春馬くんは、


ーマグカップ。


お店では、ジョッキが多いから、ガラスのコップの方がビールって美味しいのなあ?


美味しさがよくわからないから、なんとも言えないけど。


そもそもジョッキ生ビールだし。


ふわっと香水にビールの独特の香りがまざる。


あんまり得意じゃない。私は千夏さんから手をはなした。千夏さんがクスクスとわらう。


「あいかわらずね。明日菜」


「お酒飲まないからって、お子様じゃないですよ?」


「わかってるわよ。それくらい。そんなこと言っていたら、タバコやギャンブルも入っちゃうでしょう?」


「相変わらず、すごい理屈ですね。千夏さん」


「それが大人だもの」


「千夏さんと春馬くんって、時々おなじ思考だとおもうけど」


「ーげっ」


・・・げって。


ひとのたいせつな旦那様を、この人はどう思っているんだろう?


おもいだした。


私のマネージャーは、けっこう、かなり、おおざっぱな人だった。


私が目覚めた時も、私よりも春馬くんの釣った魚に夢中になっていたよね?


「だから、その目はやめなさい。明日菜」


そう嫌そうにいうけど、私はついじっとマネージャーをみつめる。


うんざりした顔で千夏さんが、缶ビールをテーブルにもどした。


「なにがしりたいの?」


「さっきの話の続きです」


「ああ?明日菜にあう前にプロポーズされたってやつ?」


「私のせいで結婚しなかったんですか?」


「違うわよ。明日菜のおかげで、結婚しなかったのよ?」


「えっ?」


「どういう意味ですか?」


優菜も首を傾げてる。


「うーん。なんていうのかなあ。けっきょくは、結婚って、タイミングも大きいのよね。相手が私と一緒になりたいタイミングと、私が相手と一緒になりたいタイミングがずれたっていうか。私の長年の経験でいうと、タイミングって、かなり大事なのよね。もちろん、妊娠とかは別だけど。ううん。妊娠すらタイミングのきっかけ、なのかもしれないけど」


千夏さんは、ビールを一口飲むと私をみて、とても幸せな顔をしたんだ。


「私は、あの時、断って正解だったかなあ。性格的にちょっとあわないけど、年齢的にも、相手の年収的にも、手をうとうって思っていたんだけど。私はまだ仕事をしたかったけど、相手は少しセーブして、はやく子供が欲しい人だったの」


いろいろなズレが少しずつあったから、プロポーズされても、少しまってもらっていたらしい。


そして、少し考えようと訪れた九州で、福岡で、偶然に私を見つけたんだって。


「もう一目ぼれって言葉があるならそうよね。直感よ、直感!もう私の一生は、この子に捧げる!そう思っちゃったのよね」


今度は千夏さんが私にしなだれてきた。


ーおもい。


いろんな意味で。


「いまとても楽しそうですね?」


優菜がやさしく笑う。


「楽しいわよ。一時は、なんてことを私はしたんだろうって、心底悔やんでいたけど」


「・・・ごめんなさい」


「ううん。いいのよ。こどもは、たくさん大人に、心配かけていいのよ?」


千夏さんが、私と優菜の二人をだきしめる。


「でも心配かけたと思うなら、そのぶん、たくさん笑ってね?たくさん、しあわせになってね?そうしたら、私たちもしあわせなんだよ?」


そうぎゅっと抱きしめてくれて、


「結婚、おめでとう、明日菜」


そうやさしく、笑ってくれたんだ。




読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白かったら、どんな少数でもありがたいです。


☆☆☆☆☆やブックマークよろしくお願いします。


ふたりのハッピーエンドを見守って下さったら、嬉しいでしす。

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